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四十一話:ナンパはいけません

「……ふぐっ」


 シラは、変な声を出しながら顔を苦悶の表情に歪めた。


「し、シラさあああああああ……えええええええ!?」


 ミルラは悲鳴を上げたが、途中で困惑と驚愕による声に変わってしまった。


「なに!?」


 サイクロプスも三つ目を見開く。

 中空で無防備になっていたはずのシラが、突如不自然な後方水平移動を開始し、そのままサイクロプスの岩拳を避けてしまったのだ。


 しかもそのまま止まらず、ミルラ達の逃亡方向へと移動を続けている。

 当然ダメージなど受けてはいないが、何かに装備の背中を引っ張られている。それによって身体の前方が圧迫され、先程の変な声が出てしまったようだ。

 あと、お世辞にも露出が少ないとは言えない彼女の装備がその力で更に乱れてしまっている。とうとう逃げるミルラ達を追い越した際、キースとニノが少し赤い顔で彼女から目を逸らしていた。


「う、うえええええ〜〜!!」

「……はい?」


 苦虫を嚙み潰したような顔で叫びながら後退していくシラを呆然と見つめるしかないミルラ達の耳に、どこからともなく通信機魔器で声を拡張させた高笑いが聞こえてきた。


『……ふふふふふ、あはははははははっ!! 残念、残念でしたねぇ、サイクロプスさん!! ()()シラちゃんを、そう簡単にやらせるわけないじゃないですか☆』 


 引っ張られていくシラの先。

 すこし遠方の、まだ建造物群が健在しすぐにはサイクロプスにも破壊出来そうにはない建物の屋上に、人影が立っている。


 ミルラは咄嗟に、首にかけていた一家に伝わる(というほど貴重でも高価でもないが)魔器「ズームゴーグル」を装着。魔法の力によって、レンズの厚さの割には望遠鏡よりも遥かに景色を拡大して見られる優れものだ。


 映ったのは、この戦場には余りにも場違い感が半端ない紫髪の眼帯メイド――ヨルム中将だった。


 その手には真ん中がくり抜かれた半月上の取っ手のような物を持っており、そこから半透明な、魔力で編まれているらしい糸がキラキラと伸びている。それがよく見ると、シラの背中にまで続いている。彼女はこれに引っ張られているようだ。


『これは我がヴァーナ連邦御用達魔器、「インフィニティ・ワイヤー」です☆ 私の持つ親機と、シラさんの背中に付けた子機。両者の間に遮蔽物が無ければ、どこだろうと魔法の紐「エアロ・ロープ」を繋げられ、こうして子機と親機を引き寄せられます! 主にヴァルキュリアの高い所にあるコックピットに搭乗する際に使われるものですが、こんな用途にも使えてしまうのです! これでシラさんの撤退は成功ですが……ああ、いい。シラさんがどんどん私に近づいてくる。ふふ、ふふふふふふふふ』

「……ひうっ」


 真っ青な顔になったシラは、移動する途中の近くにあった建物の壁に赤いブレード・ガンドの刃を突き立て、無理矢理止まる。そのまま壁に這っていたパイプにしがみついてしまった。


「うう〜〜やだっ! もういいから、ここで大丈夫だからこれ外してっ! やっぱりこんなの付けるのいやだった! 行かない! ヨルムのところは、やだっ! 助けてくれたのはありがとうっ!」

『ああっ! 止まらないでくださいシラさん!! ここは安全ですよ!? いやそこでも安全かもですが、ここなら私が()()()受け止めてあげますから! 怪我した身体や着崩れてしまっている装備だって私が()()()治してあげますよ!! だから私を拒絶しないでくださいよー! ……ああでも、嫌がるシラさんをこうして無理矢理引っ張るというのも……滾ってしまいます! 私、何かに目覚めてしまいます!! オイデ……オイデシラチャン……ふふ、えへへへへへへへへぇ☆』

「い〜〜や〜〜〜〜っ!」


 両手両足で必死に建物にへばりつきながら子供の駄々のようにいやいやと首を振るシラと、それを怪しい含み笑いをしながらクイックイッと引っ張るヨルム。


「……何、やってるの? あの人達……」

「……さあ?」


 そんなこの死地に全く似つかわしくないとんちきな応酬を見て、あのサシャですら呆れた声で呟き、ミルラもそうとしか返せなかった。


 だが、この気が抜けてしまった場の中でも更に怒りを露わにしてしまう者が一体。


「……ふざけるな。どこまで俺を愚弄すれば気が済む、ハエ畜生共……ふざけるなああああああああぁぁぁっ!!」


 完全に頭から血が上ってしまったサイクロプスは、もう矢を撃つことすら止めて走り出していた。

 

「……ッ!?」


 とんでもない速度で、咄嗟に建物の影に隠れたミルラ達をあっという間に追い越してしまう。もはや彼女達は全く眼中に無いようだ。


 彼が向かう先は、シラとヨルムがいる建造物群地帯。まずは彼女達から優先的に仕留めようとしているのだろう。このままでは、すぐにそこも矢の攻撃範囲に入ってしまい彼女達も危ない。それぞれ屋上と壁にいては、逃げるのも難しいだろう(ヨルムに羽は生えているものの、飛べている所は見たことない)。

 だが、ヨルムはその不敵な笑みを崩すこと無くこう言い放つのだった。


『あらあら、これはいわゆる「ナンパ」というやつでしょうか? いくら美女が二人も揃っているからって、何もかもかなぐり捨ててその方へまっしぐらだなんて。恋愛に熱烈なやる気を示すのはよろしいことですが、少々必死過ぎませんか? それに女同士の愛じょ……友情に割って入る男など、デリカシーに欠けていると思います。筋骨隆々の身体と低く凛々しい声……外面は悪くなかったのですが、ごめんなさい。――節操の無い馬鹿は、嫌いです☆』


「よおし!! ターゲットがあっという間に『目的地』に接近だ!! 流石だね、シラさんにヨルム中将さん!! あの化け物を相手に、挑発までやってのけるなんて! あともう少し……3、2、1――今だ、やってくれアルマ君!!」


 どうやら近くに居たらしいシンジの声が響く。


「ぬお……!?」


 直後に爆発音が起こり、突如走行するサイクロプスの地面が崩れ始めた。

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