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三十八話:意志を持つカタストロフィ

 □■□



【15:45】


 帝国外周区ビフレスト第四区画・中央道路。


 ――だった場所。

 そこでは道のあちこちが落ちくぼんでひび割れ、周囲に建ち並んでいた鉄製の建物も多くが見るも無残に破壊され、瓦礫となってあちこちに散乱している。


 そこはまさに、死地だった。


「ひ、ひえええええっ!! 『ギガント・ボルトバースト』!」


 魔法を撃ち、ミルラはすぐに瓦礫の山に身を隠す。直後、その頭上を水しぶきや吹き飛んだ瓦礫が物凄い速度で通過していった。


「し、死ぬ……って、もう今日はずっとこればっかり言っているです……!」

「落ち着け、ミルラ。相手の攻撃は確かに早くて正確だが、こうして隠れていればあまり問題はない」

「そ、そうなの! 大丈夫なのミルラちゃん! ……確かに怖いものは怖いけれど、なの……」

「あわ、あわわわわ……」


 デスザンボスのメンバーであるキース、サシャ、ニノも同じ瓦礫の山でしゃがみ込んでいる。


「おお、君達も大丈夫かい!? これは参った、冷や汗が止まらないね……」

「いやぁ……子供にもこんなことをやらせるだなんて、大人としての面目が立たないわね……」

「しかし……()()を相手取ろうと思ったならば、いくら人がいても足りないのもまた事実ですぞ……!」


 少し離れた瓦礫の山の影には、同じ分隊メンバーの大人冒険家シンジ、カリン、ハマジの三人も潜んでいる。

 魔人達との混戦の中、今この前線に何とか集うことが出来た冒険家達は、実に百人以上。

 しかしそれだけの数を以てしても、全員が魔法を撃っては隠れを繰り返し、その中央にいる相手一体と――この景観を作り上げてしまった張本人とまともに戦うことが出来ていない。足止めが精々だ。


「ちっ……ハエ共が、ちょこまかと」


 その、三つ目の大怪人――超大型魔人サイクロプスは、これだけのことをやってのけているにも関わらず苛立たしそうに舌打ちをする。

 確かに、現状彼は冒険家達を全然殺せていないという事実には苛立ちを覚えざる負えないだろう。


 一瞬だけ姿を現して魔法を撃ち、その反撃で不可避の矢が飛んでくる前にまた瓦礫や建物の影に隠れてしまう。これが冒険家達が取っている戦略だ。いくら相手が見えない神速の矢を放とうとも、そもそも軌道にいなれけばどうということはない。


「まあ、いくら時間がかかろうとも構わん。俺個人としては業腹だが、いずれ伝達を受けた他の師団がここへ駆けつけて貴様らを皆殺しにするだけだ。それまでに俺は精々全ての障害物を取り払い、貴様ら全員をひき肉にしてやる……『ハイダイダル・アクアマルクアロー』! 『ハイグランド・ロックインパクト』!」


〝ハイダイダル・アクアマルクアロー(加速)

 魔法攻撃力:270

 威力階級ハイエクスプロージョン:×16

 他魔法による補助:×1.2

 魔法威力:5184〟


 再びサイクロプスは、放った直後の矢を一瞬で殴って更に加速させるという滅茶苦茶な手法で不可視の波状攻撃を放つ。

 近くの瓦礫の山は木っ端微塵に吹き飛び、少し遠くの建物を新たな瓦礫の山に変える。彼の言葉通り、周囲をどんどん更地に変えている。


「……ひっ」


 ミルラ達のいた瓦礫の山も消失。化け物に補足されてしまう前に、彼女達はすぐに次の瓦礫の山の影へ移動した。

 だが、先程から身体の震えが止まらない。


(なん、なんです……あれ。以前出会ってしまった、とんでもなく恐ろしかった大型魔人ポイズン・ホーネットすらも可愛く思えてしまう程ですよ。あんなの、もう意思を持った厄災そのものか何かです。本当に、人間がまともに戦っていい……戦えるっていう概念がある相手なのです……?)


 確かに、魔法そのものは避けられている。

 だが、魔法がもたらす破壊そのものは目の当たりにすることとなり、その光景が確実に冒険家達の心を恐怖で蝕んでいた。


 実際、それに負けてしまった冒険家が数名。


「い、今だ! 後ろががら空きだ!」

「もうこんな攻撃ずっと耐えていられるか! や、やられる前にやってやる!!」


 ミルラが少し顔を覗かせると、作戦を無視して丁度サイクロプスの後方近くにあった瓦礫の山から冒険家達が姿を現し、魔法を唱えながらサイクロプスへ突っ込んでいくのが見えた。

 弓の魔法を撃った直後で、すぐにはまた飛んで来ないだろうとの判断で――そして恐怖に耐えきれず飛び出してしまったようだ。

 だが、それは余りにも愚かな独断だった。シンジがひどく切羽詰まった制止の声を上げる。


「おい、やめろ! 戻れ!! そいつに近づくことだけは本当にまずい!! ――来るぞ、『サイクロプス』の魔法が!!」

「……え?」


 そんな忠告も、既に遅かった。


「ほう、本当にハエになりに来たのか。良い度胸だな。ならば、我が最強の破壊槌をくれてやろう――『カタストロフ・ロックインパクト』」


 大地震でも起きたかのような衝撃と振動が、辺り一帯に広がった。


 サイクロプスの岩の右腕が更に巨大化。それが向かってきた冒険家達に振り下ろされる。

 冒険家複数人が唱えていたはずの魔法は、全く防御にならず一瞬で掻き消える。

 彼らは、まるで隕石のような容赦ない巨岩の拳に為す術もなく押し潰されていた。


〝カタストロフ・ロックインパクト

 魔法攻撃力:270

 威力階級カタストロフ:×32

 インパクト補正:×1.2

 魔法威力:10368〟

 

 人域を超えるハイエクスプロージョン級すらも上回る破滅的火力。超大型魔物の繰るその威力階級の名は――「カタストロフ」。


「……あ」


 咄嗟にまた隠れ、直後に大きな揺れに襲われる中、ミルラはビチビチッ、という何か瑞々しく生々しいものが自分たちの潜んでいる瓦礫に当たる音を聞いてしまった。

 明らかに瓦礫や破片の飛ぶ音では無い。多分、聞いていい音では無い。

 それが何なのかを見てしまった他の瓦礫の山にいる冒険家が、吐いて蹲ってしまっている。


「……ッ! 見るな! 聞くな! 余計な情報を遮断しないと……もう動けなくなるぞ!」


 そうキースが切羽詰まった声を上げていた。だが「デスザンボス」の中では一番勇敢であるはずの彼ですら、小刻みに震えている。


「ひ……こ、れが……超大型魔物本来の力……!?」

「い、いや……し、死んだ……? ミ、ミルラ達も殺される、殺されるです……っ!」


 このままでは、きっとすぐに自分達もああなってしまう。

 ニノとミルラもぎゅっと目を閉じ、頭を抱えて震えていた時――後方で別の冒険家から、声がかかった。


「おい! 『目的地』、見つけたぞ! 既に準備にも取り掛かっている! 冒険家の皆は、奴をそこまでおびき寄せてくれ!!」

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