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三十話:それは謎多き超大国

 □■□



【13:58】


 アース帝国・外周区ビフレスト第四区画・外壁上。


「ふぁーあ、フグ……」


 頭がつんつんに逆立った見張り役である魔人トゲトゲフグは、仰向けに寝そべりながら大きなあくびを漏らしていた。

 外壁は厚く、幅は十メートル以上はある。その上の、地上から約百メートルの高さにあるフラットな見張り台でごろごろしていても、全然落ちる心配がないので高さへの恐怖はこれっぽっちもない。


「おいいートゲトゲフグー。ちゃんと見張りをするモグ~。今は見張り強化期間中モグよ~?」


 その様子を見たサングラスをかけたモグラ頭の魔人グラサンモグラは、呆れたように溜息を付いた。


「そうは言ってもフグ、毎日毎日同じことやらされて。だーれも来ないし、今日も平和で暇フグよ。敵が近づいてくればこんな高さから見張っている限りすぐに発見出来るはずフグ。そんなに必死こいて見ている必要もないフグ。また他の連中でも集めて、INOでもして遊ぶフグ?」

「おま……! そのゲームまた持ってきたモグか!? 見張り中に遊ぶとは、けしからん奴モグ。……しょ、しょうがない。ちょっとだけモグよ……?」


 近くで見張りをしている他の魔人達を呼ぼうとグラサンモグラは踵を返そうとしたが、ふと小さな違和感が視界に映り込んで止まる。


「……うん?」


 外壁の向こう側に続く、ひたすらにまっさらな草原。

 その地平線沿いぎりぎりに、何かが密集して存在している。


「ん……? どうしたフグ、グラサンモグラ? 呼んでこないフグか?」

「いや……。めちゃくちゃ遠くて具体的に何かはよく見えんモグが……あんな所に、村なんてあったっけモグ?」

「んー?」


 トゲトゲフグも起き上がって覗き込もうととした瞬間、その何かの後ろ、地平線の向こうから黒い無数の点が飛び立つ。


「今度はなんだあれモグ?」

「鳥……?」


 それらが、どんどんこちらへ近づいてくる。

 やがてそのシルエットがはっきり分かると、彼らの顔は引きつった。


 鳥などではない。

 それらは羽の生えた、無数の巨大な人型の魔器だ。


「て! てきしゅ……」

『照準設定完了! 主砲発射! 「ハイエクスプロージョン・レーザー」!!』


 向けられたその銃口が光り、目の前が一瞬で真っ白になる。


「「ミ゜ッ――」」


 トゲトゲフグとグラサンモグラは、叫ぶ間もなく光線の消し炭となった。



 □■□



「ふふ、あはははははっ!! 素晴らしいです! どなたが倒してくれたのかは存じ上げませんが、帝国領の外にいた開拓兵の魔人達がほとんどいなくなっているおかげで助かりました! 当初想定していた地点よりも随分と帝国近くに軍事拠点の設置が可能となり、こうして突入直前までばれませんでしたよ! あとは速攻! それそれヴァルキュリア全機、見張りの魔人達をじゃんじゃん倒しちゃってください☆」

「ぎーいーやー!! 落ちるー!! 死ぬー!! ですー!!」


 高速で空を飛翔するヴァルキュリアの背中。

 興奮した様子で伝令を飛ばしているヨルムとは対照的に、ミルラは羽の付け根にしがみつきながら絶叫する。


「ご安心をミルラさん! 今ヴァルキュリアが背中に展開している魔法『エアロ・フリースフィア』があります! この球状空間の中であれば我々は外界の影響を受けることなくふわふわしていられます! 降下時はヴァルキュリアがこの空間ごとえいやっと地上へぶん投げますが、ふわっと着地出来ますよ☆」


 だがそう言いつつ、ヨルムももう片方の羽の付け根にしがみついている。


「いーやー!! この後、ぶん投げられるー!!」

「ミルラちゃん大丈夫なの! ヨルム中将様もこう言っているの! 落下死の心配はないの!」


 だがそう言いつつ、サシャもミルラと同じ羽の付け根にしがみついている。


「……逆に言えば、万が一この空間が無くなったら死ぬんだよな俺ら」

「……私は、鳥。こけこっこ」

「それ飛ばない奴な」


 信乃も、腰を落としてヴァルキュリアの背中に張り付いている。シラはお構いなくふわふわ浮いていた。楽しそうだ。


 一機のヴァルキュリアに乗せている冒険家の人数は五、六人。ここにはこのメンツだ。残りの分隊メンバーを乗せた機体も隣を並翔している。更に周囲でも鳥の群衆のように無数に飛んでいる。


 このヴァルキュリア軍団が目指す先には、もう帝国の壁が目前にまで迫ってきている。

 一通り彼らの攻撃が止んだ時点でヨルムはまた通信機(魔器)を口に当てて、伝令。今度は他の冒険家達にも聞こえるように、各々の機体から音声が拡張されて響いた。


「こちらヨルム中将。全機に通達。どうやらここの壁にいた見張りの魔人達はもう全て倒せたようですね? では更に上昇、高度百二十メートルあたりまでです! そのまま一気に壁を越えて帝国内へ入りましょうー! いやー、私も帝国内を生で見るのは初めてで、少しわくわくしています☆ 皆様も、刮目くださいませ。――これが正真正銘、我らが宿敵……諸悪の根源の腹の中でございます」


 上昇。視界いっぱいに埋め尽くされた白い壁が急に途切れ、その先に広がっていた光景に皆が息を呑んだ。


 ――そこは、未知なる技術を持ち、数多の魔人という怪物を抱える謎多き超大国・アース帝国。


 あちこちに点在する高い煙突から煙が上がっている。

 辺り一帯に、工場のような鉄製の建物が立ち並んでいる。

 その間を縦横無尽に綺麗にコンクリートで舗装された道路が走り、そこを魔人が乗った、馬のいない鉄の馬車が独りでに幾つも走っている(もはや車だ)。

 そして壁で囲われた雄大な区画の中央を横切るように線路が走り、その上を魔晶石や鉄骨等を積んだ蒸気機関車のようなものが煙を出しながら進んでいる。


「これ、が……帝国だと……?」


 信乃はまた、呆然とするしかなかった。

 壁の外と内で、時代がまるで違う。


 ここはもう、信乃の世界でいうのならとっくに産業革命の終わった、近代の工業地帯そのものだ。


 更にその向こう側――内周区と思しきエリアから内側は巨大な黒いドーム状の結界のような何かに覆われており、その内部の様子は確認できなくなっている。

 

「ふんふん……流石はロストエッダ後一番最初に文明の飛躍的発展を遂げた国家なだけはありますねぇ……。うちのヴァルキュリア程のものは見当たらなさそうですが、ちゃんと自律移動型魔器の量産は成功しているんですね☆ 内周区と帝都は……やはり見えないのですか。まあ仕方がありません。我々の今回の狙いはあくまでもこの外周区ですので」


 そうヨルムは呟いた後、また通信機魔器に口を当てた。


「ガリフ大佐ですね? こちらヨルム中将。軍事拠点本部に通達。現時刻1400(ひとよんまるまる)。予定通り、作戦軍全機は帝国領ビフレストへ潜入成功。――これより、『帝国ビフレスト降下作戦』を開始します」

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