二十八話:分隊の自己紹介
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ミルラが落ち着いてから、ブリーフィングが始まるまでの僅かな時間で分隊のメンバー達はテント前で改めて自己紹介をすることにした。
まずは、一番年長者であろう白髪交じりのおっとり中年男から。
「えーごほん。私はハマジと申します。ゴールドクラスの冒険家をしております。使っている魔器はジャイアント・ガンド……フンッ! 魔法属性は水……ですが、幅広く対応したいためこれは無属性です。皆さん、よろしくお願いします」
そう言って、急にムキムキになって自身の背丈程もある大砲型魔器をブンッと勢いよく引っ張り出してくる。見た目によらずとんでもなくワイルドなおっさんだった。無属性でも十分な火力を出してくれそうだ。
「……あ、だめだ。もうハマジのおっさんを超えるインパクトのある自己紹介が思い浮かばないぞ。えーというわけで俺はシンジ! ゴールドクラスの冒険家だ! 使う魔器はブレード・ガンド! 魔法属性は風だ! よろしくな!」
次は青髪の爽やか男シンジがしゃべり、ブレード・ガンドの刃を前に掲げる。確かに普通だった。
「あたしはカリン、ゴールドクラスよ! 使う魔器はシールド・ガンド、魔法属性は土よ。よろしくね」
ゴールドクラスは最後、元気かつ姉御肌を漂わせる茶髪の女冒険家カリンが、大きな盾の上部に銃口が付いた魔器を持ち出して手短に紹介した。最近開発された、シールド系魔法が使える魔器であるらしい。頼もしそうな盾役だ。
次は、「デスザンボス」の少年少女四人だ。
「ミルラ、です。シルバークラスです。使う魔器はブレード・ガンド。属性は雷、です」
「サシャなの。戦いはからっきしで、ブロンズクラスなの。でも、杖の魔器キュアスタッフを使えるから、回復は任せて欲しいの。一応ガンドも持っていて、そっちの属性は水なの」
「俺はキースだよ。シルバークラス。魔器はアサルト・ガンド。属性は火。……よろしく」
「ぼ、僕はニノ……です。シルバークラスです。ええっと……使っている魔器はスナイプ・ガンド。属性は風……です、よろしくお願いします……」
ミルラ、サシャ、不愛想な白髪の少年キース、臆病そうな緑髪の少年ニノが次々と紹介した。
次は更にテンポよく、ヴァーナの軍人達が敬礼しながら次々と自己紹介する。
「ヴァーナ軍第05491分隊長を務めることになりました、ガヤ軍曹です。狼の獣人です。冒険家の皆様に伝令を送るのも私に……いや、多分ほとんどヨルム中将でしょうね。とにかく、上空にて支援致しますので、よろしくお願いします」
「副分隊長のイイズ伍長です。エルフです。よろしくお願いします」
「リリヤ上等兵です。猫の獣人です、よろしくお願いします」
「ガバ上等兵です。ダークエルフです、よろしくお願いします」
「バゾン一等兵です。猿の獣人です。ただの喋る猿ではないのです。ゴリラでもありません、よろしくお願いします」
「ドド一等兵です。エルフです、よろしくお願いします」
「後はまあ……ヨルム中将ですね。少し珍しいですが、吸血鬼ですね。今はブリーフィングに向かっていて不在ですが、まあそちらもよろしくお願いします」
ガヤ軍曹が最後に、「どうしてもこんなことに」といわんばかりの苦い顔でそう付け加えた。彼らも苦労しているようだ。
「吸血鬼……ほう。種族名は知っていましたが、詳しいお姿や現在の所在までは知らず。皆様が人間で言うブレイブクラス並にはお強いとの噂だけなら聞いたことがあります。彼らもヴァーナにいるのですか。このハマジ、また一つ勉強になりました」
しかし、ハマジはヨルムの種族に感心を示していた。信乃も似たような心情だ。
吸血鬼は、ゲームやアニメにも敵でよく居た。しかしこの世界では一応亜人という部類に入るらしい。信乃が調べてきた本には亜人の知識は全然無かったため、ここら辺のことはよく分からない。
血を吸う、日差しに弱い、寿命が半端無く長い等様々な特徴があるが、この世界ではどこまで適用されているのだろうか。少なくともヨルムは、お日様の下元気そうに走り回っていた。
ともあれ、自己紹介はいよいよ信乃達の番だった。
「……アルマだ。シルバークラス。使っている魔器はガンド、無属性だ。今更弱いなんて下手な嘘を付くつもりもないが、まああまり期待はしないでくれ」
「ははは、そう謙遜しないでくだされ」
「ザンボスさんに代わるこの分隊の最強戦力だ! 頼んだぜ!」
一応控えめな発言をしておくものの、ハマジとシンジにすぐ否定され、やはり色々と手遅れだと悟った。分隊のメンバー達は変に身を輝かせて信乃を見ている。
軽く頭痛を覚えながら、シラに代わった。
「シラ。竜人で、ブロンズクラス。使う魔器はガンド……間違えた、ブレード・ガンドで、属性は……えっと?」
「(雷だ。前にミルラが見ていた時は確かその属性だったはず。もう一つは……戦場で設定しろ。前は火だった気がするが、そんなに使っていなかったし誤魔化しきれるはずだ)」
「……そう。雷属性、です。びりびり。あんまり強くはないけれど、よろしく」
信乃が小声でサポートしつつ、そんな彼女らしい終始無表情でのマイペースな自己紹介を終えた。信乃が事前に教えていた謙虚さを最後に付け加えただけでも上等と言える。
「シラちゃんもまたそんなこと言ってー! このアルマ君に着いて行ってるってことは、あなただって相当強いんでしょー?」
「竜人ですか。こちらもあまり知識のない種族ですが、とんでもなく強いなんて噂もありますね。どれ程かまでは分かりませんが、きっと我々なんかよりも強いのでしょうなぁ。魔人を一人で相手にしてしまうかもしれませんぞ」
「(ふるふる)。アルマの方が、強いのです」
そうカリンとハマジが笑って言い、シラが首を振って否定する。
ただの掴みどころの無いキャラで終わってしまうと思ったが、結構親しみを持たれているようだ。さっきのヨルムのあの奇行は、初対面同士の気まずさを取り払う効果があったのだろうか。やられたことはともあれ、彼女なりにも色々と考えてくれたのかもしれない(多分)。だがその話を蒸し返せばシラに怒られてしまいそうなので、口には出さなかった。
一方その横で、ミルラが「いやこの人、前に魔人一体どころかばったばった薙ぎ倒してたです」とでも言いたそうにしていたが、必死に堪えている。
これだけの人に見られる以上、属性は二つに絞るものの、火力自体は誤魔化せないので早かれ遅かれシラの実力は目の当たりにしてしまうのだが。本当に見た目通りの真面目な少女だった。
(だが、皆も竜人をよく知らないらしい。強いなんて噂まであるのなら、「竜人はこれくらい強い」と必死に言い張ればシラの常識外れな火力も誤魔化せるかもな。……いいことを聞いた)
とりあえず、これで分隊全員の戦力は把握出来た。信乃達も全力を出せない以上、彼らに頼る場面もあるだろう。知っておいて損はない情報だ。
「では皆様、改めましてよろしくお願いします。我々で魔人達を倒し、無事全員で生還しましょう!」
「「おー!!」」
ハマジがそう締め、分隊の自己紹介が終わった。