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十六話:新兵器・戦乙女

 一瞬の沈黙。静まり返った空気の中で、初めて真顔になったヨルムは小さく溜息をついて答えた。


「……ああ、やはりあなた達にもそのような話は届いていたのですか。そうですね。確かに十三年前、我々で一度帝国の侵略を退け、反撃したことは真実です」

「……! ではやはり、噂は本当……」


 一瞬希望の光を灯しかけた冒険家達に、彼女はすぐさま言葉を被せる。


「しかし結論から言わせて貰いますと、我々だけで帝国と渡り合うことは不可能でしょう。どのような噂が一人歩きしているのかは存じ上げませんが、当時も戦略を練り、運も絡んでたまたま勝てただけのこと。……あなた達もよく知る通り、それだけかの国の力は強大で凶悪なのです。そもそも我々だけで勝てるのなら、こうして皆様の協力を得ることは無いと思いませんか? 我々も、帝国は怖いのです」

「……っ」


 やはりただの噂でしかなかったのかと、その解答を聞いて一斉に落胆してしまった冒険家達に、しかし彼女はまた不敵な笑みを見せていた。


「……ふふっ、どうか顔を上げてください。あくまで我々を過信しないで欲しいと言う話です。作戦時に私達の無力のせいであなた達自身の安全を疎かにされても困ってしまいますから。まあですが、これもまた事実なのです。我々は――ちゃんと強いのですよ☆」


 再びの指パッチン。直後、近くの獣人が小型通信機のような形状をした魔器(?)に向かって話しかける。


「マサヤ伍長。デモンストレーションだ。座標・アルヴ王国27地点に降りて連邦軍第五十七特殊訓練をお見せしろ」

『了解しました! ヴァルキュリア・タイプ〈レギンレイヴ〉1041、出ます!』


 ――ゴォオオオオオ。キュイイイイイン。

 

 魔器から返ってきた声の直後、どこからともなく異様な音が響いて来る。

 皆が騒然とする中、思わず呟いていたのは信乃だった。


「……おいちょっと待て、既におかしいのは重々承知だ。だがこの異世界、まさか……!?」

「……とても大きな魔力反応が近づいてくる。シノブ、これ分かるの?」


 ――彼の耳には、その音がどうにも機械の駆動音やジェットの噴出音と酷似したものに聞こえたからだ。


「お、おい! この音、外からだ!」

「空から何かが降りてくるぞ!」


 窓を見ていた冒険家達が声を上げ、皆も窓に群がる。


 地震が来たのかとすら思わせる、重い振動。

 それに伴ってギルド協会前の大通りに降り立った、全長十メートルは優に越す巨大なそれは、決して大型魔物などではない。


「は、鋼で出来た……巨人!?」

「羽みたいなのも付いてて、そこから魔力を噴出して……飛んでいたのか!?」


 冒険家達も、それを初めて見たのだろう。

 

 ガンドに使われているような、黒い鋼で出来た人型。動いてはいるが、それからは決して生命を感じられない。

 以前見た魔人スルトの古き魔器の竜「リンドヴルム」にも似ているが、あれよりも更に無骨でつるつるしたボディをしている。鋭利な羽も付いているが、羽ばたけるような関節はなく、その代わり下向きにいくつも噴出口のようなものが付いている。


 ――それは信乃のいた世界で言う、いわゆるロボットというものだった。


 すかさずそれは右腕と一体化している巨大な砲門を上空に向け、放つ。


『照準設定完了。魔法陣、展開。主砲、発射――「ハイエクスプロージョン・レーザー」!!』


 人間では到底出し得ない大型魔物並の威力の魔法が、極太の光線が上空へ立ち上り、真昼の空を明るく照らす。

 ギルド協会にいた人間だけではない。道端にいた人も、別の建物の窓から覗き込んでした人も、呆然とそれを見上げていた。


〝ハイエクスプロージョン・レーザー

 魔法攻撃力(三人分):150

 威力階級ハイエクスプロージョン:×16

 無属性補正:×0.8

 ヴァルキュリア補正:×1.2

 魔法威力:2304


「……ふふっ。どうでしたか、皆様? あれが我がヴァーナ連邦の誇る技術力で開発された搭乗式大型魔器――『ヴァルキュリア』でございます☆」

 

 光線が止んだ後、ヨルムがドヤ顔でそう説明を加えてくれる。


「……(絶句)」

「シノブ……あれ、ちょっとかっこいいかも」


 銃器がやっと呑み込めて来たのに、まさかSFの要素まで出てくるとは思わず、信乃は軽く目眩を覚えてしまった。

 中世ファンタジーの古き良き街並みに降り立った、カクカクキラキラのギュインギュイン動くロボ。目の前には、もう合成か何かにしか見えないほどミスマッチな光景が広がっている。


(……もう今は考えるな。これ以上脳の負荷を増やしてたまるか。……しかし見た目はともかく、今あのロボが放ったのは威力階級ハイエクスプロージョンの魔法だ。人工魔器の限界がエクスプロージョン級と思われていたのに、それを上回ってきやがった……)


 他の冒険家達も信乃と同じことを思ったのか、一様に戦慄する。

 そんな彼らの思考を見透かしてか、ヨルムはまた喋り出した。


「詳しい造りは国家機密で言えませんが、ざっくり言うと三人で一つの大きな魔器に搭乗し、現在は無属性限定とはなりますが大型魔物相当威力の魔法を放つことを可能としています。そこらの一般兵魔人なら、属性を気にすることも無く上空から一方的に倒せちゃいます。そしてもちろん、あれ一機だけではありません。今作戦では、約二万機の投入を予定しております☆」

「「二万!?」」


 その場にいたほとんどの者が、声を上げて驚く。


「……さて。『勝てるのか?』という質問への回答がまだでしたね。ならば我々はこう答えます。『勝ちましょう』、と。火力だけではありません、此度の作戦では魔人などと言うずる賢い相手の裏をかく行動・戦闘も重要となってくるのです。我々のヴァルキュリア軍団の戦闘力と、戦闘経験も豊富な冒険家の皆様の知恵と勇気。この二つの力が合わされば、もはや最強だとは思いませんか? あの帝国の魔人達ですら、慌てふためいてやられていく様が目に浮かぶとは思いませんか?」

「……!」


 冒険家達は息を呑み、徐々に各々の目に光と闘志を灯していく。

 ヨルムは、最後に司令官らしく士気を上げるような演説で締めくくる。


「『あのミズル王国滅亡時、自分に何か出来ることがなかっただろうか』。そう後悔してはおりませんか? あなた達は、それで良いのですか? それは、我々とて同じです。我々は、深い後悔を活力にして此度の戦いに望むのです。……さあ、ここから反撃の狼煙を上げましょう。かの伝説の勇者達ではありません、我々一人一人が英雄となるのです。どうか我々と共に、世界を救いましょう。三日後、勇敢なあなた達と再びお会いすることを、心よりお待ちしております☆」


 その効果は絶大だった。

 直後、ほとんどの冒険家達から上がったのは、ヨルムに向けての歓声と己を鼓舞する怒号だった。


 ――そうして音の洪水に包まれる中、信乃は一瞬だけヨルムと目が合ってしまった気がした。

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