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十五話:超大規模クエスト

 □■□



 ――そうして、今に至る。


「いやー新鮮ですね、こんなにたくさん大きな耳もしっぽも生えていない人間さんがいるのも。私、人の国に来るの初めてだったんですよ。良い観光になってしまいました☆」


 信乃とシラがいる場所は獣人の軍隊がいる入口から離れているものの、メイドの女が無駄に元気の良い大声で話してくれているから充分に聞こえてくる。


「……」


 シラは、じっとヨルムと名乗った女を見ている。信乃も、黙って成り行きを見届けることにした。

 

「あ、あのー? ヴァーナ連邦の皆様? アルヴ王国まではるばるお越しくださったのは嬉しいのですが、一体このギルド協会にどのようなご要件で……? 国に用なら、王城はもっと王都の内側ですが……」


 騒ぎを聞きつけた受付嬢が奥から出てきて、恐る恐る問いかけると、ヨルムは大袈裟な動きで口に手をあてる。


「まあ! また私としたことが。皆さん忙しいでしょうし、早く本題に入らないとですよね。いえいえ、今回は政の為に来たのではありません。我々の目的は間違いなくここですし、その他でもないギルド協会への用と言えばたった一つです。冒険家の皆様に、連邦軍直々にクエストを依頼しに来ちゃったのです☆」

「依頼!? い、いえ、別に国そのものが我々に依頼するというのも珍しくはないのですが……それならわざわざこちらまでお越しくださらなくとも、そちらの国にある私共のギルド協会支部にお伝え頂ければ……」

「ええー!? そんなの駄目ですよ! 私達が直接言ってこそ誠意が伝わるというもの。私達、こうやって直接あちこちの国を回って依頼しております。私達亜人は身体も丈夫で元気ですから、つい行動がアクティブになってしまうのです☆」


 よく見ると、周りの獣人達は「いやもう勘弁してくれ」と言いたげな顔をしている。どうにもあのハイパー超テンション女の独断のようだ。


「は、はぁ……。それで、依頼の内容とは……?」

「(ぱちん!)よくぞ聞いてくれました! なに、話自体は簡単です! その内容は――私達と一緒に帝国を攻めませんか? というものです。言い換えれば私達ヴァーナ連邦軍の傭兵を、やってくれませんか☆」

「「な……っ!?」」


 指パッチンしながらヨルムが告げた言葉に、今度は場にいた冒険家達が一斉に同様の声を上げる。信乃とシラも、思わず目を見開いていた。


「え……えっとアンタら今、『アース帝国を攻める』と言ったのか? ずっと動かなかったヴァーナが、何故急に……?」

「ミズル王国の滅亡」


 近くにいた冒険家達のもっともな疑問に、ヨルムは答える。

 

「二か月前に起きてしまった大惨劇。まだ皆さんの記憶にも新しいですよね。あの時は時間が無さすぎて、我々も同盟国でありながら何も出来ませんでした。しかし、この横行を連邦もみすみす許そうとは思いません。そこで少し準備で遅くなってしまいましたが、なんとこれより帝国への大規模報復を行います! 具体的には、帝国領の『ビフレスト』と呼ばれる外周区全体を、いい感じに荒らしちゃうのです☆」

「……だ、だったら!」


 冒険家の一人が、縋るような表情で立ち上がる。


「……報復は、嬉しい。だが失礼を承知の上で聞かせてくれ。なんで、そんな一部の帝国領なんだ。そのまま帝国を滅ぼしてくれだなんておこがましいことを言うつもりはない。だがどうしてその軍で、ミズル王国を奪還してくれない? そんなところを攻めて、一体なんの意味が……」


 ミズル王国出身の冒険家なのだろうか。今のアルヴ王国には結構多い。

 彼らは皆等しく、一刻も早く故郷に帰ることを望んでいる。

 これほどの転機が訪れたにも関わらずその機会はまだ訪れないことを悟り俯いてしまった彼に対し、ヨルムは優しく微笑んで答えていた。


「……安心してください、故郷を思う優しき冒険家の方。この話には続きがあります。確かに残念ながら現在は、出来上がってしまったばかりの帝国領ミズル王国の内部状況が把握出来ていない為、我々も無策で攻めることが出来ない状態です。何が潜み、捕虜となっているミズル王国民がどこにいるのかも分からないという状況ですから。……しかし、そこで今回の帝国への報復。これはあくまで『陽動』です。来るべき、『ミズル王国奪還作戦』の前段階の作戦なのです」

「……!」


 その冒険家だけではない。周りにいた冒険家達も一様に驚く。その反応に気をよくした彼女は、先程よりも饒舌な口調で話を進める。


「ふふっ。この作戦の真の目的とは、帝国領ビフレストを攻撃することで、帝国領全体の注目をそちらに集めることにあるのです。その間に我々の別働隊が警戒の緩くなっているミズル王国へ同時潜入。流石にそのまま奪還は不可能ですが、内部地形、敵兵力、そしてミズル王国民の皆様の生存確認をすることが出来ます。これらの情報を統括し、奪還軍を編成することが出来るようになるのです☆ ……保証しましょう。これより行う作戦もまた、世界を救う大きな一歩となる戦いでございますよ」


 もはや、その場にいる皆が黙って聞いている。

 ヨルムは大陸の大きな地図を取り出し、スヴァルト王国とアース帝国の国境付近をビシッと指した。


「作戦の開始は三日後の1400(ひとよんまるまる)。スヴァルト王国にも許可を貰ったので、このサクマ平原に軍事拠点を設置します。参加を希望される冒険家は、その三時間前までにここへ集合願います。詳しい作戦もその時お伝え致します。ギルド協会には後払いとなりますが、報酬は冒険家一人になんと三十万ゴールド程度の想定です。申し訳ありませんが、命の安全を保障できるとは言いません。正真正銘魔人達のど真ん中に突っ込む危険な戦いとはなります。それでも我々が付いていれば安全度は多少は増しますし、案外いい儲け話かもしれませんよ☆」

「「「さ、三十万……(ごくり)!?」」」

「……あの、ヨルムの姐さ……中将。一人に付きそれは流石に高すぎやしないですかい? どれだけ集まるか知りませんが、我々が元帥から預かった資金で足りますかねごふっ」


 一斉に息を呑んだ冒険家達を見て何を思ったのか、喋り続ける彼女の隣にいた獣軍人が口を挟むが、彼女はそれを笑顔のまま脳天手刀で止めてしまった。


「だまらっしゃい☆ 命を懸けて下さる方々に報酬を惜しまないのは当然のこと。大体ケチなんですよあのおっさん。足りなければもっとせびって……ごほん。うちの軍の者が失礼。とりあえず、こちらの依頼は以上です。何か、質問のある方はいますかー?」

「……あんたらには色々と真偽の分からない噂がある。それを踏まえた上で聞きたい」


 彼女の話が終わるなり、また一人の冒険家が手をあげて、恐らく皆が一番聞きたかったであろうことを聞いていた。


「勝てるのか? 帝国に真正面から攻め込むだなんて、聞く限りでは滅茶苦茶なその作戦は、あんたらなら成功してしまうのか? ……あんたらは、本当にあの帝国と渡り合える力を持っているのか?」

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