日々成長
地下の洞窟から宮殿内へと戻ってくると、作業着を着たイケメン聖王はまだモップで床掃除をしていた。
本当に水龍の存在に気付いていなかったのだろう……ガッカリする。
「邪魔をしたな、聖王よ」
「いえ」
「迂闊に地下の洞窟へは行かぬ方がよいぞよ」
「?」
暇を持て余している水龍に……水鉄砲で狙われるぞ、とは言わない。
「魔王様、やはり保険はやめましょう」
解約です解約。宮殿を出たところで魔王様にそう告げた。
「なぜだデュラハンよ。予を裏切ると申すのか――!」
「……」
いや、裏切るもなにも、さっきどさくさに紛れて自分が何を言ったのか、ボイスレコーダーで録音しておくべきだったぞ。
「まだ入ったばかりではないか」
「さようでございます。ですが、水龍とあれほどの死闘を繰り広げた後でも、私の体には傷一つついておりませぬ」
高圧洗浄されてむしろ綺麗になりました。
「これでは魔病院に入院しようとしても拒まれてしまうことでしょう」
「うむ。たしかに」
「それに……アンデットモンスターは死のうにも死ねませぬ。長寿のモンスターは支払い期間が長引き、逆に不利益になる可能性大です」
私はアンデットではありませんが……。
「魔王様も長生きしそうではありませんか」
なんかそんな気がするタイプです。憎まれっ子世に憚るです。
「予は憎まれてなどおらぬ~!」
「さらには……。回復魔法で怪我が治ってしまう『剣と魔法の世界』において、病院に入院するのは非常に困難と考えます」
なんのために病院があるのか不思議でございます。
「それは……整形手術とか○○手術とか、○○手術のためじゃないのか」
ソーサラモナーは黙って! ○○手術ってやめて~! いったいどこの手術なのか逆に勘ぐってしまうから~――!
剣と魔法の世界に○○手術や○○手術をする病院があれば、凄く話が現実味を帯びて生々しくなってしまいますから――!
「よかろう。予ももう少し保険について考える時間が欲しいと考えていたところなのだ」
「魔王様――」
よかったぞ。てっきり怒られてしまうと覚悟していた。
「いや、デュラハンはもっともっと高額の掛け捨て保険に入った方が……」
「――ひどおい!」
「ハッハッハ、冗談だぞよ」
ぜんぜん冗談に聞こえなかったのは……私だけだろうか……。
宮殿を出て、保険会社へと向かうと……「宮殿生命保険会社」の看板は無かった――。
店内の椅子や机も綺麗さっぱり片付けられていて……ヒューっと砂漠の風が吹き抜ける。
「ひょっとして……これは」
魔王様が必死にス魔ホで保険会社に電話を掛けるのだが、
『おかけになった電話番号は現在使われておりません。番号をお確かめになっておかけ直しください』
魔王様の顔色が……土色に変っていく。ひょっとして、騙された――? 人間ごときに。
「ま、魔王様、泣かないでください」
「そうですよ、きっとお金は戻ってきます」
早急に証拠書類などを揃えて提出すればなんとかなります……。
「それでも手数料が色々と掛かってしまうぞよ……。予が欲に目がくらみ得をしようと……チートしようと生命保険に入った酬いなのか……」
魔王様がガックリ膝を落とす。ちょっと人前でみっともない。魔王様らしくない。
「魔王様、何事も試してみなければ真実は見えませぬ!」
「試す……とな」
魔王様、鼻水が糸を引いている。
「その通りでございます。巷では風の噂やSNS上の呟きやNH✕の『ヂコちゃんに叱られている』などで物事を決めてしまう風潮がありますが、何事も自らの目で見て声を聞き、体感して判断せねばならぬとおっしゃったのは、魔王様ご自身ではございませぬか」
「――!」
「今日の失敗は明日への成功にきっとつながります。我々四天王なら大丈夫です」
――来月のお給料で穴埋めしていただければ、なんの問題もありません――。
「ピエーン!」
「泣いてはいけません! 立って、笑うのです――!」
急に立ち上がると魔王様は笑い出した。泣き笑いが男らしい――!
「ハーッハッハッハ!」
「そう! その意気でございます! 世の中の悪者など、この宵闇のデュラハンが白金の剣でバッサバッサと切り捨てて見せます!」
「それはやり過ぎ。そこまで恨んではおらぬぞよ」
「……」
……魔王様はお優し過ぎます。
騙されたお金は……年末調整で、ちょびっとも戻ってこないのですよ。
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