98話~険悪な仲~
『ふむ、終わったようじゃな。ならばワシの方も起こすとしよう』
大地さんと柏崎さんの言い合いを見ていたサリオンさんはそう言い、眠る4人のエルフをバンッと叩き起こした。なんか、俺たちよりも威力強かった気がする……。
『ったぁ!? ……って、人族っ!?』
最初に起きたのは唯一の女性エルフであるヘレスだった。ふむ、改めて見てもなんて美少女なんだろうか。
自然な金髪を後ろで結んだポニーテールに、スラリとしたスタイル。ツンととんがった耳。綺麗な碧眼。街であったなら確実に二度見するだろうな。
そんなヘレスだが、現在は俺たちを視界に捉えると途端に殺気を撒き散らしてくる。せっかくの可愛い顔が台無しだ。
『やめんかヘレス。彼らは村に連れ帰る。戦士長の命ぞ?』
『なっ!? サリオンさん、なにを言ってるんですか? 彼らは我らエルフ族の里を侵略しにした者たちですよ!? いくら戦士長の命とは言え、あり得ませんっ!』
『……ヘレスよ、貴様はワシのいうことが聞けんのか?』
『ぐっ……分かり、ました……』
ヘレスは受け入れられない様子を見せるが、サリオンさんが脅しーー、ではなく説得した結果、彼女の方が折れることになった。先ほどの大地さんと柏崎さんと似たような感じだな。
その後は青年エルフのアムラスに、男性エルフ2人……俺が捕らえた方を『その1』と、大地さんが闘った方を『その2』としよう。
その3人も無事に起き上がり、そしてヘレスと同じような態度を取られる。だが男性エルフ2人は比較的素直に納得したようだった。サリオンさんへの信頼が高いんだろうな。
ただ1人、アムラスだけは『ヘレスはそれで良いのかよっ!?』なんて叫んでいたが、ヘレス自身も不服そうに肯定していたので落ち込みながらも納得したようだった。
なんかひょっとしなくてもサリオンさん、めちゃくちゃ偉いのでは? と思ってしまう。いや、実際に戦士長とか呼ばれてるし偉いんだろうけどさ……。
ちなみにさっき起きたエルフ4人も琴香さんが精霊であることは話してある。すると琴香さんへの敵意は全く感じなくなった。その分、俺に向き出したけど……。
『それではワシらエルフの里に行こうかの』
そう言ってサリオンさんが先導をする。それにエルフ達4人がついて行き、その後ろを俺と琴香さんが追いかけて、最後に他の探索者達の順番だ。
『……ちっ……』
女性エルフのヘレスが俺をチラリと一瞥し、小さく舌打ちをした。俺に負けたから。人間だから。サリオンさんに認められた? から。そのうち複数かは知らないが、どうも嫌われたようだ。
好かれるとは思っていなかったけど、あの対応は少し心にくるものがある。まぁ、そんな態度はヘレスがあからさま過ぎるだけで、アムラスも似たようなもんだし、男性エルフ2人も表向きだけだろう。
サリオンさんにエルフの里での1ヶ月の滞在許可を貰えただけラッキーだったと思っておこう。
「空君空君、質問があります!」
先導されて里へと移動している最中、琴香さんがピシッと手を伸ばしてそんな事を言ってきた。こんな時に気になる事でもあるのか?
いや、琴香さんはちょっと普通じゃ無いから、異なった視点から見える物もあるかも知れない。とりあえず聞いてみるか。
「なんです琴香さん?」
「さっき空君や栄咲さんも言っていた、特級迷宮ってそもそもなんですか?」
「……え、嘘ですよね? 琴香さんそれマジで言ってますか!?」
探索者になる際に渡されたガイドラインに書いてあったじゃん! ちなみに迷宮攻略は基本10人ってのもそこに記載されてるよ。
「わりぃ篠崎、俺も知らねぇから説明してくれ」
「わ、私、も……」
するとそれに続くように最上のおっさんと、少しだけ恥ずかしそうに氷花さんも手を挙げる。あんたらもかよっ! 他にはいないよな……?
他の人の反応を見る限り、この3人以外は知っているようだった。全く3人とも抜けてるなぁ。
「それじゃエルフの里に着くまでに説明しますよ。念のために他の人も補足程度に聞いといてください。あと間違いなどあれば指摘お願いします」
「分かったよ!」
俺がそう言うと、牧野さんが元気よく返事をしてくれた。ありがと〜!
「それじゃあ、最初に一番重要なことから……ここ、特級迷宮の大きな特徴は2つあるんだけど、そのうちの一つは……地球と時間軸が違うこと」
俺は衝撃の事実から特級迷宮の説明を開始した。




