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95話~精霊様~

「初芝さん、岸辺さんの治療をお願いします!」


「任せてください!」



 岸辺さんという名前の人が弓矢にやられたのを見て、私はすぐに私の元に運び込まれた岸辺さんに《回復》を掛ける。


 もうっ、特級迷宮だとか訳の分からない場所だと言われて混乱している時に、なんでエルフなんて知能持ちのモンスターまで現れるんですかっ!


 それよりも空君の方は……いえ、空君なら大丈夫ですね! それにエフィーちゃんも居ます。もしもの時は空君のこと、守ってくださいね? 



「《岩拳(がんけん)》!」


「《氷柱(ひょうちゅう)》……」


『くっ! 厄介な!』



 栄坂さんの魔法で地面が盛り上がり岩の拳が放たれました。ジャンプしてかわす男性エルフでしたが、かわした先の木の幹から綾辻さんの放った氷の柱が現れましたが、男性エルフはそれを空中で翻して回避しました。



「治りました!」


「はやっ!? ……あ、サンキュ……」



 その攻防の間に岸辺さんを治したんですが、彼は柏崎さんの方についているので若干気まずそうにお礼を告げてきました。



「早く立て岸辺。それよりも、A級ってのは化け物だな。あれはもうすぐ決着がつくぞ」


「俺からしたらB級も似たようなもんですよ馬渕さん」



 馬渕さんと岸辺さんが私を守るように立ち回りつつもそんな会話をしていました。見るとA級二人の魔法がどんどん男性エルフを追い詰めていきます。


 2人とも決して殺さないように魔法を放ちつつ、追い詰めていくのは結構集中が必要でしょうね。けど、それももうすぐ終わります! 早く空君の方に行きたいです!



「《石弾(せきだん)》!」


「《氷縛(ひょうばく)》……!」



 栄坂さんの石でできた弾が発射されます。キュルキュルとドリルのように回転して放たれた一撃を避けた男性エルフに決定的な隙が生じて、そこを狙い綾辻さんの氷の縄による拘束の魔法が放たれました。


 ですが、その魔法は空振りに終わります。男性エルフが突如、その場から消えたからです。



「消えた!? 一体どこに?」


「初芝さん、うしろ……!」



 栄坂さんが当たりをキョロキョロと見渡して探しますが、私も含めてどこに逃れたのか検討もつきません。すると綾辻さんがそう叫びました。



『ふむ、まずはお嬢さんから潰すとしようかの』


「え……?」



 そんな声が聞こえて振り返ると、そこには長い顎髭を伸ばした初老エルフが立っていました。



「ふっ!」


『おっと、あぶないじゃろう?』



 馬渕さんと岸辺さんの2人がそれぞれ剣を振るう……が、その攻撃は当たることはありませんでした。



「がふっ!?」

「ぐはぁっ!?」


『2人目じゃ』

 


 一瞬のブレが目の前で生じた直後、2人が剣を手放して吹き飛びました。……何も、見えませんでした。



『さて、邪魔者も倒した……ん? お嬢さんもしや……はは、これは想定外の出来事じゃの。先ほどの発言は無しにしようぞ』



 初老エルフの腕が私に伸びてきました。しかし途中で止まり、急にそんなことを言いました。一体、どうしたんでしょうか……?



「琴香から……離れて……!」



 氷の剣を持った綾辻さんが、氷の弾を飛ばしながら近づいてきました。当然私は巻き込まれないように離れます。て言うか綾辻さんがいつの間にか名前呼びになってます。



『ほう、やはりお嬢さんら3人が主力じゃの?』



 初老エルフは氷の弾を拳で砕きながら応戦します。栄坂さんも地面から岩の柱を伸ばしますが、それすら障害にすらなっていません。



「やぁっ!」


『隙だらけじゃ』



 初老エルフがそう呟いた直後、突きを放った綾辻さんの氷の剣が粉々に砕け散りました。



「う、そ……」


『ほっ! 3人目』



 綾辻さんがキラキラと輝く氷の粒に似合わない困惑の表情を見せます。次の瞬間、初老エルフがブレたと思った瞬間に綾辻さんが吹き飛びました。



「くそがっ! 《砂粒渦撃(さりゅうかげき)》!」



 栄坂さんが悪態をつき、手を前に伸ばして上に掲げます。するとどこからともなく砂の粉塵が現れ、あっという間に竜巻が初老エルフの足元に発生します。



「初芝さん、ひとまず動きを封じました! この間に皆さんを回復してーー」


『強力な技じゃが、ちと速度が足りんぞ?』



 栄坂さんが足止めしている間に私がみんなを《回復》しようとしました。しかし、初老エルフは《砂粒渦撃》に囚われる前にその場を離れていて、それに気づいた栄坂さんに一切の抵抗を許さず一撃で気絶させました。



『4人目』


「そん、な……」



 馬渕さん、岸辺さん、栄坂さん、綾辻さんが一瞬で倒されて、今ここに残っているのは柏崎さん、北垣さん、合流してきた牧野さんに私を含めた4人……勝ち目が、ありません……。



「ちょっ、A級なんでしょっ? なにやられてーーっ!」


『5人目、次はヌシじゃ』


「何だと? 牧野君、私が少しでも足止めをする!」


「分かりましーーっ」


「牧野くーーっ!」


『7人目じゃ』



 その後、初老エルフは何故か一番近くにいた私を最初に倒すことなく、他の3人を一瞬で気絶させていきました。そして膝をつく私のそばにまで歩いてきた初老エルフはこんな言葉を投げかけてきました。



『なぜ、人間と共にいるのですかな、精霊様?』



 ……と。精霊様……? あぁ、そう言えば私は癒しの精霊……なんでしたっけ? つまりこの初老エルフは精霊を重要視しているということでしょうか?


 しかも、きちんと敬称までつけて問いかけてきました。エルフさんたちにとって、精霊という存在は大事……だから私のそばにいた皆さんを殺さずに無力化した。……全ては、この質問をするために?



「……わ、私は癒しの精霊、初芝琴香です。どうか和解を……せめて、皆さんとの話し合いの場を設けてほしいです」



 いつ首を切られてもおかしくない状況でしたが、私は覚悟を決めて声を震わせながらもそう言い切った。



『……それが精霊様のお言葉ならば……』



 そう言って、初老エルフはどこかへと消えていきました。少しすると気絶した最上さんやエルフさんたち。それに……。



「空君!」



 気絶した空君が運ばれてきました。そばにはエフィーちゃんもいましたが、様子を見るに何もできなかったようです。


 ひとまず私ははやる心臓の鼓動を抑えながらも、倒れた探索者たち皆さんを端に寝かせました。気絶したエルフさんたちも一緒です。



『ワシは少しこの場を離れるが……まぁ、逃げる事はあるまい』



 初老エルフ……さんはそう言いどこかへと行ってしまいました。私は眠る空君に膝枕をしながら、エフィーちゃんと一緒にその眠りから覚めるのを待ち続けました……。

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