89話～異変～
GW終わっても投稿うらぁっ！
「はいこれ！ 何があるか分からないから食料とか色々詰めといたぜ！」
柏崎さんとの言い争いの空間が、颯爽と現れて氷花さんにまとわりつく烈火さんのシスコンムーブへと一瞬で切り替わった瞬間だった。
「お、空君じゃん！ この前の戦いはごめんね〜？ あのあと家で氷花にも怒られたよ！」
烈火さんは俺を発見すると片手で詫びのポーズをして謝ってくる。俺を煽ったことについてはこってり絞られたらしいな。それはそうと、お兄ちゃん呼びはされたんだろうか？
「そうそう、仮にも俺に勝ったんだからちゃんと迷宮でも活躍してくれよ？ じゃなきゃ俺の面目が立たないぜ〜？」
その言葉で周りに衝撃が走る。特に柏崎さんの表情なんかは傑作だった。おっと、つい俺の悪い部分が出てしまったな、失敬失敬……。
「……ん？ 空君、俺の腹を思いっきり殴ってみてくれない？」
烈火さんが俺を見て違和感を覚えたような顔になり、変なことを言ってきた。……いや、烈火さんは俺が契約上書きしたことで、力が伸びていることに気付いているのかもな。
腹を殴れって意味は、この前ドロップキックを食らわれた時とどう変わったのかを知りたいから……か？
「それじゃあ、遠慮なく……いきます！」
いきなりのことで戸惑いはしたが、悠然と構える烈火さんの腹に俺は全力で殴りかかった。ブワッと拳が空気を切り裂く音が鳴る。
そしてズドンッと烈火さんの腹にぶつかる音と共に、逃しきれなかった衝撃の余波が烈火さんの体を貫通させる。その結果、後ろにあった新品のペットボトルが倒れた。
「ぐっ……はぁ〜〜〜！」
烈火さんは顔を軽くしかめて息を吐き、殴られた腹をスリスリと手でさする。
「効いたよ空君！ 君、前より強くなってないっ？ どんな訓練したらそうなるんだよ！」
キラキラとした表情で烈火さんは尋ねてくる。
「超絶頑張りました」
「そうか！ なら俺ももっと努力をしようと思うよ！」
「兄貴……さっさと、帰って……！」
「はい！」
氷花さんが怒りだしたのを瞬時に確認した烈火さんが逃げるようにテントを飛び出していった。嵐のような人だったな……。
「それじゃあ柏崎さん、F級のくせに……なんだって？」
「…………あり、えない。今のってS級の綾辻烈火でしょ？ ……くっ！ ……行きましょう、2人とも」
先程の話の続きをしようとしたが、柏崎さんは2人を連れてどこかへと行ってしまった。これ以上選抜メンバー同士の仲が悪くなる事を止められたから良かったと判断しよう。
「けっ、良いのか篠崎？ あいつら逃げやがったぞ？」
「最上のおっさんの意見には感情的には賛成だよ。でもゲートを潜ってからは仲間になる人たちだからな。琴香さんと氷花さんに文句がないなら、あれ以上の追撃はやめようと思う」
「わたしはありませんよ！ 空君が言い返してくれたのでスカッとしました」
「私も、ない。それと、ありがとう……」
「どういたしまして……？」
琴香さんと氷花さんがそう言うのであれば、今後は俺たちはあまりその話題に触れないようにするか。それから30分後、俺たちは迷宮に潜る準備なども全て終わり、ゲートの前に立っていた。
改めて見てもC級のゲートはでかいな。普段入っている迷宮がE級くらいだったからそう感じるだけだが。
では、改めて今回迷宮を攻略するメンバーを紹介しよう。と言っても俺の知る限りの情報だけだが。
まずは諸星組合のマスター、A級魔法系の栄咲大地さん。同じくA級魔法系の綾辻氷花さん。次にA級回復系の初芝琴香さん。今後の攻略はこの3人が主軸となるだろう。
F級探索者(なお実際はB級以上のスピード系)の俺、篠崎空。D級パワー系の北垣超時さん。C級パワー系の最上元気さん。C級スピード系の牧野弦矢さん。
C級探索者の柏崎さん。B級タンク系探索者の人。C級探索者の人。合計10人だ。残念ながら、最後の3人についてはほとんど何も知らない。
だが、それは諸星組合の計らいだ。お互いの役割や長所などをコミュニケーションを取る事で聞き出す。そうする事で仲を深めようって目的だろう。
だからこそC級迷宮という、A級が3人と適性以上の等級の探索者たちが多数いるなら簡単に攻略できてしまう難易度を選んだと思う。つまりは社員旅行の迷宮攻略版だな！
「それでは皆さん、迷宮に行きましょうか！」
「「「はい！」」」
栄坂大地さんが振り向いて俺たちにそう言い、前へと歩み始めてゲートへと向かう。そして彼の足からゲートの向こうへと消えていった。
「……ん？」
続々とゲートを潜り抜ける人たち。俺もそれに続き、一歩足を踏み入れたところで何かしらの違和感を感じ、直感が働く。この迷宮は何かがおかしい……と。
だが、一度ゲートに足を踏み入れた以上は抜け出せない。こちらの世界に戻るには、向こうに存在するゲートを再び潜らなければいけないからだ。
俺はその時、何かおかしければ戻ってくれば良いだけだ……と、楽観的な思考をしたが、それが間違いだと後で気づくことになる。
「主人！」
「エフィーちゃん！？ あぶーー」
体全身がゲートを潜りかける直前、小さな足音と共に、翔馬と共に見送りに来ていたはずのエフィーの叫び声、それと翔馬の驚く声が聞こえた気がした。
