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80話~名前呼び~

「師匠……理解した。だから……空の動き、既視感が、あった……」


「それはこっちも同じだよ。なんだか師匠に似た動きをするなって思った。……でも、似た感じがするだけであまり明確に似ていた訳じゃなかったから、こうして言われるまで決定的ではなかったけどね」



 試験の時に感じた違和感はこれだったのか。それにしても、俺以外に師匠に教わった人がいるとは驚きだ。



「あぁ、だから試験が始まる前に最上のおっさんとの諍いを止めたり、試験の時に俺を狙ってたりしたわけ?」



 腑に落ちた。ずっと謎だった俺を狙う理由……同じ弟子なら興味を示すのも納得だ。最初に助けてくれたのも、俺が師匠の弟子と知っていたなら理解できる。


 あ、もしかして烈火さんとの試合を止めてくれたのも、同じ師匠を持つ弟子が負ける姿を見たくなかったから……とか? もし兄弟よりも師弟関係を重視したとしたら……烈火さん、不憫すぎやしないか?



「……それは、違う。もちろん、空を知りたかった、のもある……でも、それは戦って、江部一香さんと、似てたから……探したりしてたのとは、関係ない……」



 だが、俺の予想は覆される。綾辻さんが俺を師匠の弟子だと気づいたのは戦ってから? なら、なんで助けたり試験で探されたりしたんだ?



「助けたのは……危ないかもと、思ったから……」



 わぁお、優しいね〜。俺が危ないかもと思ってくれたんだ。



「探したりしたのは……空に、興味を持った……から」


「興味? ……なんで?」



 目を鋭くして俺はその理由を尋ねる。



「……空は私を、S級探索者、綾辻烈火の妹、そう知っても、態度を変えなかった、から……。周りから、色々言われても……空だけは、私に大変だね、って言ってくれたから……不思議な人だと、思った」


「だから、俺を探して真意を尋ねようとしたりしたって訳?」


「(コクン)」



 ふむ、だから試験の時にもあんなに追いかけてきたと……。まさかそんなさりげない一言で、綾辻さんに狙われていたとは想定外だ。



「そうなんだ。でも、それは思い違いだよ。俺は師匠がS級探索者で、知り合いだったからその苦労を少しだけ理解できた。だから綾辻さんにもそんな態度を取れたんだ。別に、俺が特別な訳じゃない」


「……でも、嬉しかった……そう言ってもらえたのは、久しぶり……。誰も私を、兄貴の妹……そうとしか見てなかった、から……」



 簡単に想像できる。芸能人や有名人などの家族も同じような感覚を持つだろうな。自分を見てくれないことに悲しさや、苛立ちを覚えたり……。



「綾辻さんは、綾辻さん自身を見てほしかった……そう言うことだよね?」


「そ、そう……だけど」



 綾辻さんが少しだけ恥ずかしそうに肯定する。……なら、俺が知っている中でもう1人、綾辻さん本人を見てくれてる人がいるんだけどな。正解は最上のおっさん。


 あの人、綾辻さんを綾辻氷花って名前でちゃんと呼びながら倒す宣言してたし、烈火さんの妹だって知っても態度変えたりはしないはずだと思う。う〜ん、でもお互い嫌がりそうだから言うのはやめておくか。



「あ、剣は習った。でもそれは、1日だけ……あとは、独学……」


「なるほど、だから違和感にとどまってたのか。……それじゃあ、話はもうおしまい? で良いのかな? 2人を待たせすぎても悪いしね」



 あまり遅いと烈火さんと琴香さんに俺が殺されるからな。



「あと、一つだけ。ある。……私のことも、名前で呼んで……?」


「名前で?」



 話を終わらせようとすると、綾辻さんが最後にそんな提案をしてきた。



「ん……。だって、私の方だけ呼ぶのは、不公平。それに、兄貴も名前なのに、私だけ不自然。あ、あとは……あとは……そ、そう! 私自身を、見て欲しいから……!」



 なるほど? 確かに俺だけ名前で呼ばれるのは……って、それは綾辻さんが呼びやすいから呼び始めたのに? 烈火さんについてはあんな態度取られたらNOとか言えないししょうがない!


 あと最後の方の理由、なんか後付けっぽい感じがしたけど……まぁ、綾辻ではなく氷花として……つまりは個人として見て欲しいってちゃんとした理由ではある。断る理由は……ないな!



「うん分かった。それじゃあこれからは氷花さんって呼ぶね」


「ぁ……うん……うん、そうして、ほしい……」



 氷花さんが少しだけ照れた様子を見せる。自分から言っておいて恥ずかしがるのかよ。まぁ、あまり呼んでくれる人がいなかったから戸惑ってるだけだろうが……。



「それじゃ、兄貴を、呼ぶね」


「俺も琴香さんを。ちょっと長引いたし怒ってないと良いけど……」



 氷花さんがスマホで烈火さんにメッセージを送っているので、俺も同じように琴香さんに送る。



「……それと、ごめん……」



 笑い話のように琴香さんを出すが、彼女は深刻そうに謝ってくる。



「あやーー、氷花さんの謝ることじゃないよ。しないといけなかった、大事な話だったんだ。分かってくれるさ……多分」



 俺は氷花さんに気苦労をかけないように取り繕う。



「それもある……でも、それよりーー」


「氷花!? 大丈夫かっ? なにもされてないなっ? 何かあれば兄貴に言うんだぶほっ!?」



 氷花さんが何か俺の意見に付け加えようとした所で、嵐のように急に現れた烈火さんが心配の言葉をめちゃくちゃ投げかける。


 だがそれをうざく思った氷花さんが腹パンを綺麗に決めた。うん、すごく慣れた手つきだ。



「……それよりも、これの方が、問題だから……」


「なるほど……」



 氷花さんが地面に倒れ込む烈火さんを指して、これ呼ばわりする。先ほど氷花さんが謝ったのは烈火さんの方だったか……。

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