77話~公園は壊すなよ?絶対に壊すなよっ!?~
「いい加減に、して……!」
「ごふっ……!?」
そんな怒気を纏った綾辻さんの拳が頭に注がれる。身長差的にはそんなこと出来ないが、発現者ならその程度の差はジャンプすることで可能だ。
「はぁ、はぁ……空、本当に、ごめんね……。うちの兄貴、ちょっと……いや、とっても、すごく、ありえないくらい、シスコン……だから」
綾辻さんは怒りから呼吸も激しくなり、息を吐きながら謝ってくる。そして予想していたが、彼女の口から明かされる真実……。
「な、なるほど……」
シスコンだから……って言われてもどう返していいのか分からん。それより……。
「空君! 頼む! 勝負してくれ! 氷花が認めた男なんてほぼいないんだ!」
いつの間にか無傷で立ち上がった烈火さんが俺に土下座までしてお願いをしてくる。あと認めたとか男とか、一体何を言ってるんだ?
「兄貴、怒るよ……?」
「ひぇっ!?」
今までの綾辻さんはメラメラと炎が燃えるような雰囲気だったが、今は絶対零度のような雰囲気に変わる。
「綾辻さん、烈火さんがここまでお願いしてくるんです。いい加減受けないといつまで経ってもこんな風にされるのも嫌なんで受けますよ」
「む……でも空、嫌じゃない、の……?」
綾辻さんは俺が受けたことに対して不満げだ。自分としては俺のために受けさせないようにしていたのに、その俺が受けることにしたんだから当然だろう。
「そんなに嫌じゃないよ。良くもないけど。……別に一戦ぐらいなら、試験で疲れた体でも大丈夫だと思う。これで烈火さんの気が済むなら安いもんだよ」
「ありがとう空君!」
烈火さんが凄まじい勢いで俺の両手を掴み上下にブンブンと振り、その喜びようを伝えてくる。
「あ、あの、勝負って一体どんなことをするんですか?」
琴香さんが少し緊張気味で上擦った声で落下さんに問いかける。
「そうだね……よし、少し行ったところに公園があるからそこにしよう」
「分かりました」
烈火さんの一声で俺たち4人は公園へと移動する。翔馬には連絡済みだから安心してくれ。公園にたどり着く。街灯はあるが夜も遅いのであまり視界が良好とは言えないな。
「《灯火》。よし、これで明るくなった。問題はないよね?」
「あ……は、はい……」
「すごいです……」
烈火さんが《灯火》の魔法を使い、空高くに上げて擬似的な昼間を作り出した。俺も驚きのあまり返事をするのにもやけに時間がかかり、琴香さんは小学生のような感想を一言漏らすだけであとは絶句していた。
いや、本当にこれを生で見た人はそんな感想しか出てこないんだろうな。藤森のは炎の玉がフワフワと浮かんでいる感じだった。
だが烈火さんのは文字通り格が違う。まるでLEDの電球で一片の隙間もなく公園を灯りが照らしたような感じだ。その上で、全く暑かったりしない。これすごいなんてもんじゃないぞ?
「それじゃあルールを決めよう。まず、俺は魔法を使わない」
「……っ!」
烈火さんの言葉に俺はわずかばかりの不快感を覚え、それと同時に達観したような納得をしていた。烈火さんは魔法系。それでいて魔法を使わない。お前ごとき魔法を使うまでもない……そう言いたいのか?
いや、魔法を使わない俺相手を倒せないようなら、綾辻さんが俺の事を認めても、俺はお前を認めない……言外にそんなことを言いたいのかもな。
「次に、俺から攻撃することもない」
「はいっ? 本気で言ってます? ……いえ、すみません。続けてください」
「おっけー。空君の勝利条件は一つ。俺にまともな攻撃を喰らわせる。もしくは俺を降参させる。……どう?」
「いえ、等級を考えたら当然かと……ですが、少しイラっとは来ましたね」
たしかに実力としては今の俺が100人正面から戦ったとしても、烈火さんには到底敵わないと思う。……でも、それとは別にイライラはするよ? 当然だろ?
「ははっ、なら……俺に勝ってその認識を改めさせてみせな!」
烈火さんがニヤリと笑い、白い歯を見せる。
「兄貴……空を、あんまり、舐めない方が良い……よ? 空は……強い、から……!」
「そうですよ! 空君は強いんですから!」
「それは、貴方も、でしょう……?」
おぉ、2人がなんか応援してくれる……のか? 哀れみからじゃないよな? あと綾辻さんまで俺を味方したからか、烈火さんが若干寂しそうな顔してる。
「あっ、兄貴……」
「っ!? どうした氷花! 兄貴にもなんか応援の言葉がーー」
「もし、空に怪我、させたら……殺す」
「…………はい」
なんか烈火さんが可哀想に見えてきたんだが? 誰か応援してあげて? 自分が対戦相手じゃなかったら、少なくとも俺は応援してたよ!
「それじゃあ氷花、開始の合図を頼む」
「ん……始めっ!」
S級探索者、綾辻烈火さんとの戦い? が始まった。




