68話~再発現~
一週間ぶりです。改稿ですが全然終わりませんでした。今後は更新をしつつ継続してやっていきます。とりあえず一章だけでも……!
スタートの合図がなると同時に、一斉に試験を受けた探索者たちが動き出す。
「始まりましたね〜!」
翔馬君が興奮したようにはしゃぐ。
「そうだね。俺のやっぱり注目株は綾辻氷花だな。今回唯一のA級探索者で、S級探索者の綾辻烈火さんの妹だしね」
栄咲大地さんがそう言う。私も同じA級として、その力を存分に払って欲しいところだ……だが、今回に限っては……。
「大本さんは、やっぱり空ですか?」
「そう、だね……。私としては彼が気になる。できれば常にドローンをつけておいて欲しいぐらいだが……」
「さすがにそれは勘弁してください。常時ドローンが付いてるのはC級以上だけなんで」
大地さんがははっ、と笑いながら謝る。だがそれも仕方がないだろう。それよりも、彼の力が本当なら映りたくなくても勝手に映るようになるだろう。
それに後で聞いたことだが、この試験では公平を課すため、基本的に回復や強化する魔道具の使用を禁じている。もちろんちゃんとした理由があれば別だが……。
「お、綾辻氷花が早速1つのチームを脱落させましたよ!」
「早いですね」
彼女がぶつかった相手は全員がD級のチームだった。彼女は仲間がついて来れる速度で山を駆け回り、敵を見つけてはすぐに倒すといった戦法をとっていた。
「うわ、また倒した。……しかもあれ、タンク系とはいえB級じゃん! 嘘だろ!? 本当に登録したばっかかよ!?」
大地さんが声を荒げてモニターに向かって叫ぶ。彼は気分が高まると口調が少し荒くなるんだ。
「それよりも……なんというか、誰かを探してる感じがします」
「むっ? ……確かに、言われてみれば……?」
翔馬君の指摘を受けて彼女の行動を見てみると、確かに急いで人を探しているような感じがしてくる……一体誰を……?
「あ、空が映りました!」
「あぁ、写真通りだね。……これは、C級の弓使いの人に狙われてる状況かな? 翔馬君には悪いけど多分、矢を射られて終わりだと思うよ?」
大地さんがそう言った直後、矢が放たれる。だが、その予想は外れた。篠崎さんたちが立ち止まったからだ。
「お?」
「こ、こわっ……!」
大地さんが怪しげに声を上げる。翔馬君は知り合いだからか、少し大袈裟なぐらい胸を撫で下ろしていた。
「……偶然か? ……動いた」
大地さんが目を鋭くしてモニターを凝視する。当然私もだ。その後、弓使いは逃げながら矢を放つも、篠崎さんは一つ残らず攻撃を受けずに倒すことに成功する。
「大本さん……彼って、F級なんですよね?」
「えぇ、間違いありません」
「僕もそう聞いてますよ? ちょっと前にもE級迷宮で怪我をした〜、とか言ってました。血の付いた服も見せてもらいましたし」
彼はタラリと首筋に汗を流しながら尋ねる。当然、私は肯定する。翔馬君も同じだ。
「……大本さん、あれどうみます?」
「……確実にC級以上はありますね」
「同感です。B級も視野に入れて良いかもしれません」
私は大地さんにそう答える。それどころか、大地さんはB級の可能性も示してきた。
「ふっ、主人も成長したではないか! じゃが、まだまだ我の契約者としては未熟じゃな!」
先ほどのお菓子幼女が偉そうにそう言っている。主人だとか契約者だとかは、偏ったアニメの知識のせいだと翔馬君が言っていたな。うん、無視しよう……!
「あ、あの、空はF級なんじゃ?」
「翔馬君は発現者じゃないから分からないかもしれないけど、あれほど動けるF級はいない。断言するよ」
「じゃあ……一体どういう事なんですか?」
大地さんの回答に、翔馬君は困惑を見せる。無理もないだろう。私たちだってそうなのだから。
「それは私たちにも分かりません。ですが……再発現の可能性が高いと考えております」
「再発現……?」
「再発現だって!?」
私のセリフに翔馬君が何か分からないよな表情で、大地さんが口を大きく開き、驚きの様子の反応を見せる。
「いや、それなら納得もできる……! 大本さん、あの人……篠崎さんはうちが必ず取りますよ!」
「まだ確定したわけではありませんよ。それは今回の結果を見てからでも遅くはないでしょう」
それにしても、魔道具では無かったのだからほぼ確定だろう。再発現とは珍しい……。
「あの〜、再発現って一体……?」
「そうだね……。探索者になるためには発現、つまりは能力が目覚めてなければいけない。でも、稀にそれが2回起こることがあって、それを再発現って言うんだ」
再発現。それが起こった人数はおそらく世界中を探しても、S級探索者と同じ程度しかいないだろう。しかも、F級がC級以上の力を手にしている。
話題性もある。しかも新しく誕生する大型組合所属ともなれば、企業としてはなんとしても取りたい人材だろう。
「なるほど! つまり空の等級は……!」
「鑑定すれば確実に上がるね」
大地さんの言葉に、翔馬君はもう彼の合否などどうでも良いほどの喜びようだ。まぁ、確実に受かるだろうが……。
「じゃあ、彼の稼ぐお金も……?」
「上がるでしょう」
私のその言葉に、パァッと笑顔で顔を綻ばせる。……そう言えば、彼の家はお世辞にも裕福とは言い難いと報告書にまとめられていたな。この喜びようはそのせいか。
「そう言えば、諸星成彦社長はまだなんだろうか?」
「確か、緊急で来られた大事なお客様の相手をするとかなんとか言ってました。でもここまでかかるなんて珍しいですね……」
私の疑問に翔馬君が答える。なるほど……しかし諸星社長をこんなにも拘束できる人とは一体……?
そんな事を考えながらも、試験は進んでいく。




