63話~共通の敵が現れれば人は争いをやめる。争いはなくならないがなぁ!~
うわぁぁぁあっ!? また増えた!? 最上のおっさんの他のチームメンバーもどこにいるか分からないのに、さらに試験で一番強い綾辻氷花まで来ちゃった!?
「邪魔すんな綾辻! 篠崎は俺が相手をする!」
「雑魚は、引っ込んでて……彼は、私がするの……」
わーい、俺、大人気〜モテモテ〜……なんて思う訳ないじゃん!? おかしいよねっ!? 最上のおっさんはともかく綾辻さん、君はなんで俺に絡んでくるのっ?
あ、そう言えば琴香さんたちは……? そう思い横目で確認をすると、見知らぬ2人の探索者に襲われていた。
「ねぇ、あの2人ってどっちのチームメンバー?」
「俺じゃねぇ」
「……私」
おっけー、綾辻さんの方ね。なら北垣さん1人でも行けるかもな。等級はEかFだろう。しかもタンク系と強化系っぽいから、D級の北垣さんを倒すほどの力はない。任せて大丈夫っ!
「あ、そっちの……誰だっけ?」
「最上だ! んでもって綾辻、あんたを倒す男の名だ!」
ふっ、最上のおっさんよ。人の名前を覚えないから天罰が降ったんだ。
「そう。あなたのチームメンバー、もう倒したから」
「……なんだと?」
綾辻さんの突然の報告に、最上のおっさんも顔を硬らせるように豹変させる。えぇぇぇぇぇぇっ!? いつの間にか漁夫の利されてたぁぁっ!!!
「あの、紅葉の中に隠れてた……」
「ちっ、正解だ……」
綾辻さんが指差す方向を見る。落ち葉が散らされて、その上辺りが少し凍ってる。氷で身動きを取れなくして、速攻で降参させやがったな。
しかも声が聞こえてないとなると、その2人にバレることなく一瞬で決めた。口を使えないようにその部分を凍らせることも忘れずに……。
あ、あそこってさっき俺が見つけた落ち葉の溜まってた場所じゃん。つまりあれか、あの大量の紅葉は思いっきり罠と見せかけた隠れ蓑だったわけだ。俺の思考の逆を突かれた! ちくしょぉっ!
「どっちもサポーターだったし、楽勝。多分、1人に自分を強化させてた……でしょう?」
「そりゃ強化系いるなら使うだろ。当たり前のこと言うな……」
最上のおっさんはそんな反論をしながらも不満げだ。作戦は見破られ、味方がやられているのだから当然だろう。
それにしても、C級にしちゃ強すぎないか? と思っていたけど強化されてたなら納得だわ。
「綾辻さんの味方は向こうで俺の仲間を足止めしてるようだけど、多分勝てないよ?」
「分かってる……。でも、このままじゃ彼らは、試験に受からない。だから、格上と戦えると……自分も役に立つと、目立たせる場所が……必要。一番強いのは、私が抑えてるから……その間に、活躍しておいてって、伝えてある」
へぇ、確かに試験のルールじゃ綾辻さんは上位10チームに入ろうと入らなかろうと、どちらにしろ確実に受かるだろう。
でも他のチームメンバーはどうだろう? 等級も低く、綾辻さんの後ろに隠れるばかりじゃ受からない。だからあぁして活躍の場を与えている……と。
うん、この人優しいな。そして強い。そんなことさせながら受かるつもりとか、どんだけ余裕あるんだよ。
「なぁ篠崎、一つ提案がーー」
「断る!」
「まだ何も言ってねぇよなっ!?」
「冗談だ……それで?」
「あいつ倒すまで手を組まないか?」
「……良いよ。その代わり、お互い倒した後に襲うとかは無しって話に乗るのならだけど」
「へっ、当然!」
そんな会話をして、俺と最上のおっさんは臨時で手を結ぶことにした。
「話、終わった? ……なら、やりましょ?」
綾辻さんは眠たそうに欠伸をしながら、圧倒的な余裕を見せつける。
「行くぜ!」
「おぉ!」
こうしてこの試験最大の戦闘が幕を開けた。




