40話~復活への兆し~
本日5話目おらぁ!
「……あ……?」
回復系探索者の女性がドサリと倒れ込む。死んだのかも判断がつかない。
……そんな、偶然が……。俺が避けた攻撃が彼女に当たったのか? ……嘘だろ?
「う、あぁ……」
俺が、俺がすぐに殺さなかったから……。
「篠崎君! だめだ!」
北垣さんの声が聞こえる。でも、何も聞こえない。……何を言ってるんだろうか?
俺はゆっくりと藤森のいる方に前進する。こいつは、藤森は殺さなきゃいけない。こいつはモンスターよりも存在してはいけない。たとえ俺がモンスターと同じになろうとも、こいつだけは……!
「ひぃっ! く、くるなぁ! 《火球》っ! 《火球》《火球》! 《火球》〜〜っ!!!」
俺から放たれる殺意を藤森が感じ取ったのだろう。火事場の馬鹿力みたいなもので、4発もの《火球》を俺に向けて放ってきた。
「弱い」
激しく燃え上がる《火球》に対して俺は短剣を構え……一閃。続いて一閃。さらに一閃。まるで水のような感触だ。
そのまま疾走。腰が抜けながらもズルズルと下がっていた藤森の前に立ち、その両足を切断する。
「あがぁぁぁっ!?」
次に体全体をできる限り浅く短剣で切り裂く。藤森は斬られたことを認識するよりも早く、全身から血を垂らした。
「いぎゃぁぁぁっ!? いてぇ! いてぇよぉっ!」
口調を取り繕う暇も無いな。いい気味だ。
「た、助けて……。もう、しないから……。2度と、しないから……っ」
「……は?」
その言葉に俺はブチギレた。何人もの人を……初芝さんを殺しておいてよくもそんな口が聞けるものだな。
俺は倒れてちょうど良い位置にあった藤森の顔を蹴る。顎を撃ち抜かれた藤森が軽く浮き上がる。そして今度は俺の振り上げた足を踵から振り下ろす。
顎から地面に激突してめり込んだ藤森の髪を掴み上げ……もう一度地面に顔を叩きつける。何度も、何度も何度も……。
「篠崎君!」
「っ!」
北垣さんの声にハッとちゃんと理性を取り戻す。真っ暗だった目の前が明るくなっていく。
「もう、彼は意識を失っている」
続けた北垣さんの言葉を耳にし、目の前に顔が歪に変形した藤森がある方に気づく。そしてそれを自分がやったことも……。
「……北垣さん、藤森にやられた人たちの確認をお願いします。まだ生きている人がいるかもしれません」
「……分かった」
北垣さんはそう言って去っていく。それを横目で見届けてから、何も言わない……言えない藤森の方に目を向ける。
……別に、何も思わない。謝られたところでもう遅かったし、彼が今までやったことを許すかには到底なれない。
「……ちっ」
俺は軽く舌打ちをしながら手を離し、荷物の中から藤森を縛る用の縄を取り出す。そして藤森を縛っていく。
彼にはあったもう片方の腕も、いつの間にか俺が斬り落としたのかなかった。腕もない今、これで魔法はすぐには使えないだろう。
その後、俺と北垣さんで生存者がいるかを確かめた。生きていたのはタンク系探索者2人、そして最後に攻撃を食らった回復系探索者の計3人だった。
スピード系探索者の人は残念ながら亡くなっていた。サポーターに次いで、アタッカーの中では一番耐久に難があるからな。それと当然、初芝さんも……。
もう1人の回復系探索者が生き残っていたのは藤森の魔力が少なかったからだろうか? それとも痛みで集中力が切れていたからだろうか? どっちにしろ、奇跡だろう。まぁ、それなら最初から攻撃に当たっている時点で不幸だが……。
「北垣さん……少しだけ、初芝さんと2人にさせてくれませんか?」
「……まぁ、時間も少しはあるだろう。私は先に行っているから手短にね」
もろもろの準備が終わり、あとは遺体と重症者を運び出すだけだ。北垣さんがパワー系なので、それについては問題なさそうだった。
北垣さんは俺と静かに眠るように、でも笑った表情をして亡くなった初芝さんの遺体を見ながら優しくそう告げてくれた。
「……初芝さん。あなたと初めて会った時俺、中学生だと勘違いしてたんですよ? 怒りますよね?」
ははっ、と俺は引き笑いをする。
「……それと、再会した時も忘れててすみませんでした。でも、まさか年上だとは思いもしませんでしたけど……」
忘れていて再会した時のあの驚きは、一生忘れないだろう。
「それとデート、初めてだったんで上手くエスコートできたか分かりませんけど……。初芝さんは楽しかったですか? 俺は楽しかったですよ……」
頬を何か暖かく、けれどすぐに冷たくなる液体が流れた。……涙だった。……おかしいなぁ。泣かないって、今も眠り続ける妹の水葉の前で誓ってたはずなんだけどなぁ……。
「……初芝さん、こんな俺なんかを好きになってくれて、ありがとうございました……」
涙を流し、嗚咽を漏らしながらも俺にお礼を告げた。その後涙を拭き、俺は立ち上がる。
「……エフィー、本当に助ける方法は無いのか? お前が忘れているだけじゃないのか? ……精霊王なんだろ? なにか、ないのか……っ?」
先ほどから空気を読んで黙っていてくれたエフィーにそう尋ねる。その言い方は若干責めるような言い方になってしまった。
エフィーは悪くないのに……俺が弱かったから守れなかったのに。……八つ当たりだった。
「…………ひとつだけ、覚えがあるのじゃ」
横に立つ少女姿になったエフィーが、苦渋の決断をしたかのような表情で小さく呟いた。
「……っ!? ほん、とうか? 本当なのか! エフィー!」
そんなもの無いだろう。そう考えていたが、エフィーの言葉に俺は激しく心を揺さぶられる。
「……ある、のじゃ。主人も覚えてあるじゃろう? 主人と契約について詳しく話をした時じゃ」
「……っ! あの時のやつか!」
俺はその言葉を聞き、必死になってその時の状況を思い出した。
このままノンストップだぜっ!




