39話~説得、しかし~
本日4話目ぇ!おらぁ!
「おま、おまっ、お前! 篠崎! 一体何をしたっ!? なんでお前がそんな動きができて……?」
「うるさいなぁ藤森、黙れよ」
俺を指差しながら驚きを隠せない藤森に向かって走る。速い、速い速いっ!? 初めて契約をした時も感じたけど、こんなにも変わるんだな。
「藤森さん、下がってください!」
「ぐへっ!?」
タンク系探索者の方が藤森の襟首を掴み、後ろへと投げるように下げさせて自分が前へと出る。
「だぁぁあっ!」
タンク系探索者が持っていた大きめの盾を大きく横に一閃する。でも、遅い! 俺は腰と足を折り曲げて姿勢を低くする。
そして大きく振るった盾の下へと潜り込み、攻撃を避ける。振るった盾は今のように攻撃にもなるが、避けられた場合大きな隙にも直結する。
盾の大振りで崩れた体勢。己の盾で一瞬だが視界から遮られた俺の姿。その二つが示すのは一つ。決定的な隙が生まれたということだ。
タンク系探索者は振り終わった盾と同時に現れた俺の姿を視界に捉えるも、反応することは出来ない。逆手で短剣を構え、目の前の男の両肩を斬り裂いた。
「ぐぁっ!」
そんな悲鳴を上げた。でもまだ殺さない。初芝さんを殺したのはこいつだ。もっと痛めつけないと。そして藤森を恐怖させる贄となってくれ。
タンク系探索者は俺に両腕を斬られたことで盾を手放してしまう。繋がってはいるが、回復系がいなければもう動かすことは出来ないだろう。
「さぁ、頑張って耐えろよ?」
俺はタンク系探索者に聞こえる距離まで近づき、目の前でそう告げる。まぁ、痛みで聞いていないかもしれないけどな。
一旦離脱して背後に回り込む。藤森に自分から挟まれに行ってる形だな。まぁ、藤森も攻撃を放つことはできなかった。
まだ追えないから避けられて仲間のタンク系探索者に当てると分かっていたのだろうか? まぁ良い。次は……足だ。
短剣でタンク系探索者のふくらはぎを中心に斬る。次に足首を使って相手の膝裏を蹴る。つまり膝カックンをさせた。
まともに腕を使えないタンク系探索者が膝から崩れ落ち、そのままほぼなんの抵抗もなく地に伏する。
最後の仕上げだ。俺は短剣を倒れたタンク系探索者の心臓に向けて放つ。ザシュッと音を立てて突き刺さった短剣を抜き、血の滴る短剣を藤森に構えた。
「お前は楽には殺しはしない。今回が初めてだなんて、そんな訳ないよな? 今までにも似たようなことをしてきたんだろ? ……俺が今まで殺された探索者たちの怒りを背負って殺してやる」
「〜っ!」
藤森が声にならない悲鳴を僅かに上げる。その目は泳ぎ、瞳孔は震えていた。体が若干後ろにのけぞってはいるが、恐怖からか足が後ろへと動いていない。
「まずは……その厄介な腕からだ」
「ひぃっ! 《炎そーー」
「遅い」
俺の宣言に怯えて魔法を放とうとした腕に向けて瞬時に下から上の向きに短剣で斬りつける。その勢いは止まらず、腕は遠くにクルクルと回転しながら飛んでいった。ちなみに本日2回目の切断。
「うぐぁぁぁっーー」
「うるさい」
腕を斬られた痛みで叫ぶ藤森の頭を掴み、そのまま地面に押し付ける。
「い"っ、だ……い」
藤森が掠れた声を漏らす。痛い? これよりも初芝さんの方が痛かったに決まってるだろうがっ! もっとだ! 生ぬるくなんてしない、残虐に殺してやる!
そうだ、腕を一気に斬るのは勿体無いな。どうせならもっとじっくりと、残った片腕両足の指だけを全部斬ろう。
そう考えてゆっくりと手を伸ばす。だが、その手は途中で止められた。自分の手を止めた手の持ち主の方を見ると、そこには北垣さんがいた。彼は目を閉じて首を横に振る。
「篠崎君、もうやめにしよう」
「……は? 何を言ってるんですか北垣さん? こいつの、藤森のせいで初芝さんが死んだんですよ!? 殺します! 徹底的に痛めつけてから殺してやります!」
北垣さん、なんでそんなことを言うんだ? おかしいだろ。こんな奴生きてたってなんのためになる? 人を喜んで殺すような頭のおかしい奴が…………あれ、この言葉って、俺にも刺さる……?
一度そう思った瞬間、俺の怒りは静かに減少していった。それと同時に北垣さんも話し出す。
「良いかい篠崎君。人は人を自衛程度に返り討ちにするぐらいが良いんだ。それがもし、どんなに悪人でも度が過ぎてその人を嬉々として殺した瞬間、人は人じゃなくなる。我々が普段から狩る、モンスターと同じになるんだ」
淡々と語る北垣さんの言葉を聴くと、不思議と身に染みるような感覚になる。
「初芝君も、君には人として生きてほしいどう考えるんじゃないのかな? ……それでも納得できないなら私が殺そう。……未成年である君を、快楽殺人者にはさせたく無い」
その言葉が耳に入った瞬間、微かな震えが全身を駆け巡った。……初芝さんなら……。
「そう、ですね……。人を治す初芝さんが、人を傷つけることを良しとするはずありません……。藤森は然るべき場所で裁かせまーー」
「死ねぇ! 《火弾》!」
俺が言葉を伝え終わるよりも早く、腕の痛みでうずくまっていたはずの藤森が俺に向けて《火弾》を放った。
しかしその一撃は俺を外れる。そして……亡くなった初芝さんの近くで待機していた、もう一人の回復系探索者に直撃した。
書き溜めなんてなくてもな、期限を告知してたら自然と投稿する分はいつの間にか出来上がってるんだよ。




