34話~裏切り2~
「……何?」
僕が《火球》を消しとばした後、予想外だと言わんばかりに藤森の声が僕の耳に届く。
「……篠崎さん、一体どう良いことかな? 何故君が私の《火球》を食らって生きていられるんだい?」
藤森がそう尋ねてくる。
「藤森、いきなり何をするんだっ!」
「いきなり? ……私は最初から君をここで殺すつもりだったよ? それよりも、早く私の質問に答えてくれたまえ」
藤森が不機嫌そうな顔をしながら再度尋ねてくる。
「決まってる。《火球》を打ち消しただけだ」
僕は事実を述べる。そしてこんな殺人未遂が起きたにも関わらず、あたりは僕と藤森の声以外はあまり聞こえなかった。
「……は? なんで……?」
すぐに辺りを見渡して、僕は愕然とする。D級スピード系探索者、D級タンク系探索者2人が倒れていたからだ。理由は藤森の《火球》によるもので間違いない。
そして立っているのは……僕、藤森、北垣さんとD級パワー系探索者、初芝さんとD級回復系探索者、C級タンク系探索者。
北垣さんは《火球》が直撃し、かろうじて動けるかどうかだ。初芝さんと回復系の2人は固まっていた。何が起こったか理解できないらしい。そして……。
「なんで、なんで2人はそっちにいるんですか!?」
C級タンク系探索者、D級パワー系探索者の2人が、藤森の元に集結していたのだ。
「なんでって……俺たちは元からだぜ?」
「そうそう、この3人以外は全員死んでもらうよ。報酬は生き残った俺たちで山分け。俺とこいつはそれに乗ったんだ」
嘘だろ? ……報酬? 確かに亡くなった人は探索者保険から一定額しか降りない。だがD級迷宮の魔法石のために、他の人を殺すことに躊躇はないのか……?
「お、おかしいです! 狂ってます! 人の命をなんだと思ってるんですか!」
初芝さんが叫ぶ。その間にも彼女は北垣さんの元に駆け寄り、回復をしている。
「狂ってる? 私たちが狂っていると? まぁ否定はしないさ。でもそれを指摘されるのは傷つくなぁ。サポーターだからと見逃してやったが、やはり一緒に始末するべきだったか?」
藤森の言葉を聞き慌てて確認すると、確かに《火球》が初芝さんともう1人には放たれていなかった。これは戦闘能力の低い彼女たちよりも、戦闘能力の高い僕たちを優先したからだろう。
彼らに初芝さんたちを見逃す気はない。だから目の前で僕たち5人に魔法を放ったのだろうし、スパート系の人はおそらく手遅れだ。
タンク系の2人も後ろから頭にぶつけられていた。僕もエフィーが教えてくれなきゃ死んでいたかもしれない。
「藤森さん、とりあえずどうしますか? あの3人は動けません。残りはサポーター2人、パワー系1人とF級1人の計4人です」
タンク系の人が状況を分析しながら藤森に尋ねる。
「そう、ですね……では、あなたたち2人でF級以外の3人を相手にしてください。人数では負けてますが、等級では勝っています。負けたら承知しませんよ?」
「さすがに勝てますよ。じゃ」
藤森の忠告にパワー系の人が半笑いをしながら、タンク系の人と共に北垣さんを治している初芝さんたちの方へと向かう。
「さて、では篠崎さんの相手は私ですね」
「藤森、魔法の威力が弱かったのは手加減していたからだな? 僕たちを疲れさせるために!」
「…………えぇ。ですが私も驚いていますよ。不意をついたにも関わらず、まさかあなたが生き残るとはね」
「運が良かっただけだよ」
「ふむ……ではそう言う形にしておきましょうか。では……死んでください!」
その藤森の一言で僕と藤森の殺し合いが始まった。




