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253 話~VS豚人族戦士長~

 何秒かかっただろうか? 多分3秒もない。鉄のような金属の鎧を纏い剣を携えた警備兵を、俺は己の肉体のみで倒していった。


 ただ腹に拳を叩き込んだり、勢いよく押して壁に叩きつけたり、戦闘技術の欠片も無い雑な対処法。しかしそれで勝てるのだから仕方ない。


 殺してはいない。……多分。だって力加減が難しいんだ。殺す殺さないのギリギリを狙ってやるのが。



『……ソラ、ガノーをこの先に行かせるの』


「うむ。主よ、主は後ろを守っておれ」


「は? ……あー、ガノーさんあとは任せます」



 そこからさらに奥へと進んでいると、不意にハズクとエフィーの2人がそんなことを言い出した。何となく嫌な予感を察した俺は素直に言う通りにする。


 牙狼月剣を抜いてほんの少しだけ、でもちゃんと力を入れて振るった。ちょうどよく飛んできた刃物を叩き落とす。



『ガハハハ! ここに乗り込んでくる奴が居るとは思っていたが……まさか女とはな』



 そう言って現れたのは豚人族の男だった。ただ明らかに雰囲気が他の奴らと違っていた。強いな……。



「その女にやられるんだ。最高の気分だろ?」


『ただの子を増やし男を喜ばせるだけが存在意義のくせに威勢の良いことを。力も知性も劣る者の中から、たまたま強い存在が出たところで本物の強者には勝てんよ』


「……気分が悪い言い草だ」



 俺は別に男尊女卑とか女尊男卑とか考えたことはあまりない。どっちでも良いし、と言うかどうでも良い。ただ理不尽や暴言は嫌いだ。まず女性の知り合いがいて良い気分になるハズない。



「あんた、名前か役職でも名乗ったらどうだ?」


『そっちが名乗ったら言うぜ。それがマナーだろ? ……はっ、冗談だよ。こんなことする奴らに求める方がおかしいか。豚人族戦士長、とだけ覚えておけば良いさ』



 サリオンさんと同じみたいな奴か。強いのは認めるが……今の俺には少々役不足だぜ。



「しっ!」



 ジリッと足を踏みしめて一気に加速して肘での一撃、エルボーを放とうとする。だが相手はそれを予測していたようで、あと一歩届かない位置まで下がって間合いを取っていた。


 後ろに下がった反動を付けて勢いのついた拳の一撃が俺に迫る。上半身を後ろに引くと同時に片足を軸に蹴りのカウンターを叩き込んだ。



「っ……」


『効かねぇよ』



 厚い脂肪と見た目では分からないが物凄く膨張した筋肉が俺の蹴りを阻んでいたようだ。お相撲さんの強化バージョンと言ったら分かりやすいだろうか?


 役不足って言葉は取り消さないといけないかもしれないな。並の一撃じゃコイツにはダメージが通らない。サリオンさんなら確実にダメージが通ったはずだが、豚人族戦士長の防御力が高すぎる。……まずサリオンさんなら避けたから比較対象にはならないな。


 牙狼月剣は使わない。殺しちゃ……ダメだ。精霊魔法を使うべきだな。いや、強化されてるから使い所を間違えれば地下が崩壊してしまう。


 素の肉体能力で戦うのはちょっと時間が掛かりそうだ。……と言っても、さっき3秒も掛かってなかったから比較して長く感じるだけだろうけど。



『オラよッ!』



 なぁんて呑気に考えていたら次の一撃が飛んでくる。一応足を掴まれても反撃できるように準備していたんだが……読まれたか。感の良いヤツめ。


 片腕で受け止めて反撃を繰り出す。お互いが一進一退を繰り返しながら殴打や蹴りの応酬を繰り広げ始めた。いや、本当に強いぞ。サリオンさんは精霊魔法を使えば並のS級より強かったが、コイツは今でそれと同等の強さだ。


 俺が武器も精霊魔法も使用せず、狭い空間でその素早さを生かせず、力を込めすぎて黒狼族の集落に着く前に倒した像のモンスターのようにここを崩壊させないよう手加減しているとは言え、ここまで戦えるのは驚いた。



『オラオラオラァッ! ……ガァァァァ!』



 徐々に攻防に変化が生まれる。豚人族戦士長の攻撃を受け止めていると相手から余裕がどんどん失われていくのがよく分かった。


 止めるのに大したセンスはいらない。ただ圧倒できる身体能力があればな。ただ、相手としたら何十発も打ち込んでいるのに一撃もまともに与えられないのは精神的に辛いはずだ。


 自分の見下した女に一撃も与えられないってどんな気持ちだ? 俺、男だけどな。……こんなイライラをぶつけるぐらいは別に良いだろ。



「ふっ!」


『……カハッ』



 みぞおちに向かって最初に交わされたエルボーを喰らわせめり込ませる。膝から崩れ落ちた豚人族戦士長を視界の端で捉えた。



「さて、早く向こうに追いつか──っ!?」



 背を向けてガノーさんに追いつこうと足を踏み出した瞬間、野生の勘のようなものが発動して牙狼月剣を無意識のうちに背後に向けて全力で振るっていた。


 再び視界に入ったのは先程と同じ豚人族戦士長の姿だ。だが様子がおかしい。まさかガノーさんも使っていた獣化だろうか? いや、明らかにそれとは違う。



『カ、グガガ、ァ? アァ、ガ、バ? ォ、オォォ?』



 充血した白目を向き、犬のように舌は外に出て垂れている。体の動かし方も先程までとは全然違い、まるでロボットのように読めない軌道とタイミングで腕が伸びてきた。



「なんだ、コイツ……ちっ!」



 動きとしては決して合理的と思えないにも関わらず俺は先程より押されていた。非合理的だからこそ、上手く反応できないんだ。



「よし、これで……なっ!?」



 背後をとって締め上げ意識を失わせる作戦にした俺が予定通り背後を取る。最初のうちは腕で引っ掻いたりしていたが、それで俺が腕を解くわけない。


 だが、いきなり耳から茶色の木の枝のような物が飛び出てきたのだ。驚いても仕方がないだろ。耳から現れたのを皮切りに、全身の穴という穴からそのような物質は姿を見せた。


 すぐに距離を取って離れる。ジッと目を凝らして観察してみた。ウニョウニョと豚人族戦士長の体を蝕むかのように、その生き物は存在していた。



『オァァ? 』



 不規則な動きで豚人族戦士長の身体を動かしている。……あれ、豚人族戦士長の能力とかじゃないな。絶対違う。じゃあ何かって言われたら……寄生虫とか?


 あの身体を乗っ取っているのか? 例えばカマキリはハリガネムシって奴に身体を乗っ取られて入水自殺をすることも多いと聞く。


 あれは彼らの繁殖方法が水中でしか出来ないなど理由はあるが……今、目の前で起こっている光景はまるでゾンビと呼称した方が分かりやすいだろうか?


 エフィー、ハズクが残れと言ったことを素直に聞いておいてよかった。これがガノーさんだったらどうなっていたことか……。



「正体は……分からんが、倒してから確かめることにしよう」



 再び豚人族戦士長との戦闘が幕を開ける。

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