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241 話~VSガノー《後編》~

『な、なんだコイツら!?』


『【鎌鼬(かまいたち)】なの!』


『え? ……う、うわぁぁぁ!? ち、血がっ!?』



 殺さないように調節しつつもハズクは楽しそうに精霊魔法を放つ。布と毛並みが綺麗に引き裂かれ、そこからたらりと血が垂れ流れていく。



「主から久しぶりにまともに頼られたのじゃ。少しは頑張るんじゃぞ」


『同じく頼られたエフィー様は何もしないの!? ちょっとは手伝って欲しいの!?』


「今の我にそういった肉弾戦は絵面的にアウトなのじゃ。ちょっと強化するからそれで勘弁してたもう」



 そう言ってエフィーが手をかざす。オーラのような不思議なエネルギーがハズクに飛ばされ、その身体を包み込む。



『さすがはエフィー様なの! バンバン力がみなぎってくるの! ソラ、しばらく遊んでても良いの!』



 調子に乗ったハズクが時間稼ぎの役割を忘れた発言をする。馬鹿なことを言うな!? 速攻で終わらせるわ!!!



『ぐぉぉぉ!』



 雄叫びを上げながらガノーさんが向かってくる。4本足になって器用に地面を蹴り、レンガ造りの建物を利用して的を絞らせない動きを見せた。



「はぁ、真正面からぶつかるのは止めておこう」



 獣化したガノーとまともにぶつかり合うのは得策じゃない。【剛力】を使っても辛勝がせいぜいだ。



「だが俺は元々スピード系だぞ? ならやるのは当然……【縮地】っ!」



 何故俺が相手に合わせなきゃ行けないんだ? こっちのペースに変えてやるよ! 俺は【縮地】を使って動き回り、無理やりガノーの動きを止める。


 はは、いつも相手の方が強かったから自分から動くことが少なかったせいで、自らペースを握る感覚が薄かったみたいだ。


 俺の方が速いのでガノーの攻撃は当たらない。動きを止めてカウンターを狙っている。てっきり力は強くなっても頭は弱くなる技かと思っていたが、そんな事ないのか?


 ……それとも本能としてカウンターをするべきだと理解しているのだろうか? どっちにしろ……。



「あんた、元から強者の人間だから知らんだろ? 良いかよく聞け」



 斬撃を飛ばしてハズクの【鎌鼬】のようにガノーにかすり傷を与えていく。致命傷にならないからか、あまりちゃんと避けようとはしていないな。


 油断しろ、気を抜け。人はどんなに強くても波がある。呼吸、瞬き、重心の移動などなど……その一瞬の隙を見抜くんだ。



「ふっ!」



 完璧なタイミングで牙狼月剣を投擲。コンマ1秒にも満たないガノーの身体の停滞を狙った強力な一撃。



「ガァァァ!」



 それを無理やり気合で跳ね除け、ガノーは俺の放った牙狼月剣を避けた。さすがに食らうことは不味いと分かったようだ。



「弱者としての経験を持つ俺の方が上手に決まってる! 【剛力】ッ!」



 ガノーは一瞬だけ出来た隙を消すために、さらに隙が出来る。俺はそこを狙い、正面からガノーをぶん殴った。


 これがペースを握るって事だな! ついでに正面からぶつかるのは得策じゃないと相手に言葉と行動で理性と本能にも訴えかけていたのも良かったと思う。



『が、ぐっ……!』



 ガノーが膝から崩れ落ちる。ひとまず無力化には成功した。殺しもしてないし、ヴォルフからのお題は完遂したと言って良いだろう。



『が、ぁぁぁぁ!』


「……ちっ」



 ガノーが俺の方に手を伸ばしてくる。まだ動くのかよ……心の中でそう悪態をつき、首トンで気絶させる。……1度やって見たかったんだよねこれ!



『が、ガノー様までやられぶぇっ!?』


『暴れられて楽しいの! ソラと一緒にいると色々ストレスが溜まるからここで発散なの!』



 エフィーに強化されたハズクが意気揚々とガノーの手下達を全滅させていた。もちろん殺してはいない、が……。



「無惨すぎるだろ」



 血糊を激しく壁に飛ばしたような血痕の跡がそこら中に広がっている。まるでパイプで人を殴り殺したような凄惨な現場が広がっていた。


 これ、どう処理するわけ? この辺りの閉鎖をしてくれていた人達が倒れている。そして狐人族の門番の人達みたいな存在もいる。……逃げるが勝ちだな。



『ソラの兄貴……やったっすね』


「あぁ。だがもうウルガルスの街には入れない。通ってきたパキステラ砂漠とは反対側に逃げ──」


『……もう逃げるのは疲れたっす』



 ヴォルフがルプスの手を繋ぎながら、ため息をついてそう言った。……え? じゃあこの戦いも今まで逃げた意味も無くなるんだけど!?



『だから……こっちから向かいたいっす。母様のとこも、父様……長のことも、全てに決着をつけたいっす!』


「……OK。なら行こうか」



 ヴォルフが俺と別れてから何を知ったか、何を学んだかは分からない。だが彼自身がそう決めたのだ。それに付き合うのは当然だろう。ルプスちゃんの意思も確認しているだろうし、その点も問題は無い。


 そんな意志をヒシヒシと感じさせるヴォルフの言葉を聞き、俺たちはヴォルフ達の故郷でもある黒狼族の集落へと向かうことになった。



『ま……て』


「っ!? ……初めてだったから力加減ミスってたか」



 首トンで気絶させたはずのガノーが目を覚ましていた。



『……ヴォル、フ様……行くの、ですね?』


『そうっすよ。でもそれはガノー達に連れ戻されたからじゃないっす。俺と、ルプスが自分の意思で選んだ結果っす。そこだけは履き違えないで欲しいっすよ』


『……ふふ、行くなら……良い』



 ヴォルフの言葉を聞き、ガノーは僅かに口元を釣り上げた……は印象が悪いな。口元を緩めてまた意識を失った。



『……なんか、後味が悪いっすね』


「悪かったな」


『責めてるわけじゃないっすよ!?』



 そんなこんなで、俺たちは再びパキステラ砂漠へと足を踏み入れた。

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