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SS~ある日の妄想of氷花~

 エルフの里。静かに、だけど気持ち良い風が吹いている。ううん、吹いていたの方が正しいかも。だって今、私の目の前で行われている戦いで軽い衝撃波と土埃が飛んできてるから。



『ほっ、ほっ!』


「ぐ、ふっ、おぁぁぁぁ!!!」



 空とサリオンさん、お互い魔法のような本気の力を見せない身体能力だけの戦い。案の定、空は苦戦気味だ。ふふっ、必死になって頑張ってる。


 全ての攻撃を紙一重で避けられてる。ギリギリの実力差だからじゃない。サリオンさんがそうなるように調節しているから。それでも状況はコンマ一秒ごとに変化する。



「はぁっ!」


『っ……ぬっ?』



 空から大振りで繰り出される拳、それをサリオンさんは拳で受け止めようとした。でもサリオンさんは受け止めた腕が引っ張られるように釣りだされる。


 それは空が放った殴打の一撃は威力が殺されていたから。つまり強く殴る振り……サリオンさんは受け止めて押し返すために力を加えていた。


 空の拳から放たれる分の威力と勢いを計算に加えていた。だからこそ予想外の軽さに釣りだされたの。体勢の崩れたサリオンさん。それに比べてこっそりと体重移動をさせていた空。



「ふっ!」



 その空から鋭い蹴りが放たれる。前のめりになっているサリオンさんの真下から繰り出された不可視にも近い一撃。でも、それすらサリオンさんは受け止めた。


 体勢の崩れる原因となった押し返すための拳を強引に軌道修正して、真下から放たれる空の豪脚を迎え撃つ。そして、空が押し勝った。



『かかっ、愉快愉快っ』



 さすがにサリオンさんの方が力が上でも、無理な体勢で足技を受け止められるほどではなかったよう。自分から跳躍してダメージを最大限まで殺した。


 何を言ってるかまでは分からないけど、笑っている所を見ると空を褒めていることは間違いないはず。……やっぱり、空は凄い。



『でもワシの威厳と言うものも考えて欲しいものじゃな』


「へへ、その威厳とやらを見せてくれたらいいんじゃないです?」



 恐らくサリオンさんを煽ったんだろう。次の瞬間、空のお腹には拳が打ち込まれていた。一切反応することもできず、空は崩れ落ちて胃の中の物を吐き出す。



「お、大人気ない……」



 軽く口をゆすいできた空がサリオンさんを恨めしげに睨みながら呟く。悪口を言われた当の本人はすまし顔であくびをした。



「ぜってぇもう1発いれてやる」



 安い挑発に乗った空が再び飛びかかっていった。



***



「…………かっ、はっ……!」



 地面に倒れ込んだ空が軽く息を吐く。結局その後は一撃も加えることなく稽古は終わっていた。



『ふぅ、久しぶりにいい汗をかいたのじゃ』



 余裕そうに告げるサリオンさんを見て、空はぶん殴りたいと思っていそうな顔をしていた。



『そうそう、稽古中はこれから師匠と呼ぶが良い』


「……師匠はちょっと。サリオン師匠と」


『それで良い』



 へぇ、空はサリオンさんのことを師匠って呼べるんだ。空の前に私とも稽古したけど、私は言われなかったのに……。


 そう考えていると、空は大樹にお尻を降ろしてもたれ掛かるように木陰で休んでいる姿が見えた。私は急いで兄貴が持たせてくれたコップとタオルを手に、水源に向かう。


 ほど良く水を絞って湿らせたタオルと、私の魔法で氷を入れた冷たい水の入ったコップを手に空の元に駆け戻る。そして……。



「空、今日はお疲れ様。はいお水とタオル」


「ありがとう氷花さん、助かるよ」



 空が勢いよくお水で喉を潤していく。タオルで首回りや腕なんかを中心に汗を拭いて言った。



「ううん、私が空にしてあげたかっただけだから」


「この氷も? わざわざ魔法まで使って俺の事を考えてくれて、優しいんだね」


「そ、そんな事ないし……でも、空以外にはしないかも」


「あ、そ、そう……? なら、余計に嬉しいかな」


「えへへへ」



 そんな下らない会話のシミュレーションという名の都合の良い妄想はすぐに消え去る。



「空……ん」



 コミュ障の私には名前を呼んで無言で差し出すことが限界だった。



「あ……ありがとう氷花さん」



 その時の嬉しそうな空の笑顔を見るだけで、不思議と胸が熱くなる私はやっぱりチョロいんだと自分でも思った。

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