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217話~S級探索者達VS S級迷宮の迷宮主~

 俺が発した『敵』。その言葉に全員が1秒ほどで武器を手に、戦闘態勢を整えた。気持ちも同様にだ。先程までの緩んだ空気は一切感じられない。



「っ! ……本当だ。よく気づいてくれたね空君! 俺じゃ分からなかったよ!」



 烈火さんは火属性魔法系のS級探索者。軽い熱源感知みたいな力を持っているので、変温動物とはいえ動き回れば熱を持つ虫系のモンスターに対する索敵には気をつけていたはずだ。


 ちなみに普段は使わないようにしているらしい。知りたくもない情報が得られるからな。知らない方が良いこともあるんだ、とちょっと前に語っていた。



「いや、烈火君だけじゃなく俺もだ。恐らく迷宮主っ! 気を引き締めろ!」



 話が逸れたな。烈火さんの熱源感知と烈火さんの気配察知を逃れるほどの隠密性か。ハズクの索敵には引っかかったとは言え、形あるものが向かってきているのだから当然。



「来──ダァァァッッッ!?!?!?」



 その姿が視界に入った事を告げるために口を開いた傑さんの言葉が途中で悲鳴に変わる。急に傑さんの盾が何かに引っ張られたように見えた。


 ズズズ、と地面を削りながら踏ん張っていたがそのまま盾ごと持っていかれそうになる。



「烈火君!」


「《炎斬撃えんざんげき》!」



 輝久さんの指示で烈火さんが魔法を使った。傑さんの前に向かって炎で出来た斬撃のような物が放たれる。そのうちの1つが何かに燃え移り、傑さんの盾と森の向こうを繋ぐ1本の線となっていた。



「線? ……糸かっ!?」



 傑さんの盾が引っ張られないよう共に加勢した輝久さんが叫ぶ。糸……虫系で糸と言ったら真っ先に思い浮かぶのはあれだな。



「恐らく蜘蛛の迷宮主ね~」



 芽衣さんが隣で呟く。俺もそう思った。最近ではD級迷宮の迷宮主、大刺毒蜘蛛おおしどくぐもが記憶に新しいな。傑さんは糸から燃え移った炎を地面に擦り付けて消した。



「蜘蛛なら大丈夫です! 見た目もグロさがあんまり無いので、他に比べてキモくないので」



 琴香さんも両手を胸の前でグッと握ってそう告げてくる。頼もしい限りだ。でもそのポーズ、胸が強調されて俺の方が辛いのでやめてくれると助かります。



「烈火君、まずは姿を晒してもらおうか」


「ですね……《獄炎》!」



 烈火さんが禍々しい雰囲気の炎を手に浮かべる。フワフワとしていた炎が超スピードで真っ直ぐ放たれ、何かの拍子に豪火球となって目の前に存在した1面の森を焼き切った。



「迷宮主がこれで死ぬわけがな──!?」



 傑さんの言葉が止まる。俺も言葉を発していた訳では無いが驚きと共に絶句していた。森を焼いたと思った直後に、白く巨大な円柱が突っ込んできたのだから。



「烈火君!」

 

「っ!? 《紅蓮業火ぐれんごうか》ッ!」



 指示を出した輝久さんの言葉に反応して、烈火さんが再び炎を放つ。いつも見ていたオレンジ色の炎ではなく赤色……紅色の混じった、花火などでよく見る色の炎だ。


 白い円柱に向けて素早く発射されると、接触した途端に灰すら残さず白い円柱は灰燼かいじんと帰していく。


 パチパチと音を立てる燃えカスや塵となった奴を吸い込まないようにしていると、焼け野原となった場所には似つかない、巨大な白い球が存在していた。



「うん、これにしよ~……とっ!」



 手頃なサイズの石を拾った芽衣さんが手に持った石を白い球に投げつける。多分音速を超えてるんじゃないか? ……そう思える勢いで投げられた石が白い球にぶつかった瞬間、跳ね返ってきて地面に叩きつけられた。



「はぁ、やっぱりね~」


「芽衣の思った通りだね。さっき烈火君が防いだ白い攻撃も今、目の前にある白い球も全て糸で出来ている」


「烈火君の全力でようやく相殺でき、芽衣君の投石を軽く跳ね返す防御力。姿はまだ見えてないけど確実に迷宮主だ」



 芽衣さん、傑さん、輝久さんがそう分析する。すると白い球……まゆの方が合ってるかな? 繭の中から這い出ようとする音が聞こえた。



「《炎槍》」



 烈火さんがタイミングを合わせて魔法を放つ。藤森が得意だった奴だ。でも威力は10倍を超えている。文字通り桁違いだ。



「無傷……ん?」


「あら?」


「おぉ?」


「蜘蛛じゃ、ない?」



 探索者の皆が疑いの声を漏らす。琴香さんが最後にその答えを呟いた。そう、繭から姿を見せたのは短い足。濃い緑色の身体の色で、明らかに蜘蛛ではなかった。



「……芋虫?」



 先程戦ったダンゴムシより小さい。だが何故だろう。オーラが違う。正直遠目からではキモ可愛いの部類に入るモンスターなのに。



「あー、不味いね」


「輝久さん、あれでまだ、幼虫の状態……何ですよね?」



 圧倒的な強者の雰囲気を感じる。だが、あれでさなぎと言う過程を得た成虫では無いのだ。つまり……早く殺さないと、俺らが死ぬだろうな。



「全員、分かってると思うが全力で行くように」


「「了解っ!」」



 最初に動いたのはスピード系の俺とタンク系の傑さんだった。後ろに糸も燃やせる烈火さんもいる。



「ふぅっ!」



 傑さんが初っ端シールドバッシュを突き出す。思ったよりも大きく吹っ飛んだ。いや、わざと後ろに飛んで威力を逃がしたのか。と同時に糸を伸ばしてくる。



「《炎斬撃》!」


「はぁっ!」



 烈火さんの魔法が糸を燃やし斬り裂く。その間に俺が近づいておき、牙狼月剣を振り斬った。ガシュッと変な音が耳に届く。


 身体の体表で勢いをほとんど止められた。だがちょっとだけ身体の中身にも傷を付けられたらしい。かすり傷程度みたいなものだ。もし毛虫のように毛が生えていれば刃も通らなかっただろう。



「っ!? 【堅牢けんろう】! ぐっ……!」



 俺の付けたかすり傷など気にしないとばかりに、身体を捻ってぶん回し攻撃が繰り出される。精霊魔法で防御力を高めて受け身の姿勢を取ったが、結構痛かったし吹き飛ばされたぞ!



「よくもやってくれたなっ!」


「殺す~」



 輝久さんと芽衣さんが俺と入れ替わりで殴り込みをかける。芽衣さんの巨大に変化した腕が芋虫のモンスターに迫った。衝撃で軽く宙に浮く。



「《炎弾えんだん》!」



 追い打ちを掛けるように烈火さんの魔法が発動。無防備に晒されたお腹や足の付け根部分に次々と着弾する。全ての魔法が終わると同時に、輝久さんが追撃と言わんばかりの蹴りを放った。



「硬いな」


「《回復》。空君大丈夫ですか?」


「えぇ。それよりもあの迷宮主、相当強いですよ」



 琴香さんに回復してもらい起き上がってそう呟く。ちょっと前に輝久さんも防御力が高い事を口から漏らしていたな。


 まさか牙狼月剣の刃があんまり通らないとは思わなかったよ。普通に真っ二つにする気で振り切ったのに。……あれを使うか。俺はそう決断した。

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