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212話~S級迷宮攻略前夜、突然の訪問~

 S級迷宮前夜……。そう言っても激励などを行う祝いの席がある訳でもない。記者会見なども俺たち探索者は顔出しも無い。攻略を行う本人たちを疲れさせないためといった采配だからだ。


 じゃあ何をしているかと言うと、S級探索者の親族たちが集まったりして最期の別れ……になるかもしれない集いをしている。


 家族たちからの激励だな。俺にはそんな事をしてくれる人はいないけど。まぁその分、知り合いの人達から色々と言葉は貰ったよ。来れない人達からはビデオ通話とかで……。



「不安ですか?」


「えぇ、正直に言えば」



 時刻は夜の8時。ベットに座った琴香さんからの問いかけに答える。あ、さすがに今日はしないよ!? 安眠して体を休ませないといけないからね。



「そう言えば琴香さんの装備、結局何にしたの?」



 俺はずっと疑問に思っていた事を問いかける。一香さんは剣だし、俺は短剣。烈火さんも護身用の魔道具を幾つか保有しているし、帯刀さんは軽装の鎧に大盾。平塚さんも剣で、吉田さんは籠手こてを愛用している。


 今までは琴香さんが武器を持つ必要はなかったが、さすがにS級迷宮ならば万が一を考えて必要になることは間違いない。



「ふっふっふっ、内緒です」


「そう」


「もっと食いついて下さいよっ!?」



 人差し指を唇に当てて意地悪な笑みを浮かべた琴香さんだったが、どうやら俺の方が1枚上手だったようだ。構って欲しかったのか、目に涙を浮かべて睨まれては俺も居心地が悪いな。



「琴香さんの装備、すっごく気になるー(棒)」


「馬鹿にしてます?」


「してません」



 ちっ、さすがにバレたか。君のような勘のいいガキは嫌いだよ。



「教えてくれませんか琴香さん。お願いしますよ~」


「え~、本当に知りたいんですかぁ?(チラッ)」


「やっぱ良いです」


「ごめんなさいごめんなさい! 教えますから部屋から追い出すのは止めてください許してください!」



 さすがにしつこかったので部屋の扉を開け、猫のように琴香さんの首根っこを掴んで放り出そうとしたが、琴香さんの必死なお願いでそれは断念した。



「まず、手首に付けるリングの魔道具です。1日3回まで魔法で出来た障壁を張ることができます。どんな強力な攻撃でも一瞬だけですが守ってくれるので、その間に空君が助けに来てくれますよね?」


「そんなの発動する前に俺が守るので、そのお願いは聞けません」


「~~っ!?」



 格好つけたら琴香さんが悶えてる。なんだよ、つい数日前に自信なさげな回答をしたら格好よく啖呵たんかを切った方が良いとか言ってたくせに、言われたらそんな反応するのかよ……可愛いかよ。



「つ、次に──」



 動揺しながらも琴香さんは再び装備の説明をしていく。時間は経ち、9時を回った所で琴香さんは部屋を出た。さすがにもう時間も時間だしな。



「一緒のベットダメですか?」


「ダメです」



 という訳で今日は明日に備えて早く寝よう。……と思いベットに潜るもなかなか眠れないな。目が冴え渡ってる。疲れてるはずなのに……緊張してるのか。


 はは、じゃあ今日、皆と話した最後の会話でも思い出すか。確か最初に話しかけてきたのは翔馬だったな。



***



「空、エフィーちゃんが居な──居たぁっ!?」


「へぇ、断りもなく俺の部屋来てたんだ」



 今朝、琴香さんを朝帰りさせた後、顔を引き攣らせた翔馬が俺の部屋に来た。エフィーが居ないと大慌てだったな。俺はベットでグータラしていたエフィーの方に視線を向けた。



「これも我の主への愛情ゆえ許してたもう」


「お前からの愛より翔馬との友情を俺は取るぞ?」


「せめて少しぐらい迷うぐらいして欲しかったのじゃ! ……ふにゃっ!?」



 エフィーが枕を投げつけてくるが、俺は楽々キャッチして投げ返した。見事に顔に命中してちょっと可愛い声を出す。そのまま翔馬に引き取られて行った。


 まぁ、俺はこれからS級探索者の人達と集まりがあるから預かってくれるのは正直助かる。でも、それは普通の子供だったらの話なんだよな……。


 多分、S級迷宮に挑む時にはエフィーはいない。翔馬を心配させたくないからな。初のS級迷宮だ。エフィーが居ないのは不安だが……はは、俺の中ではこんなにもエフィーは大きな存在となっていたのか。



***



「よっ、S級ってどんな気分なんだ?」


「特には何も無いね。皆が騒ぎ立てないからかな? ネットニュースとか見てると苦笑いしちゃう」



 最上のおっさんの質問に答える。この人とはS級探索者との会談の後に一緒に筋トレとかしてた。後は殺傷能力を無くした武器を使っての一騎打ちとかも。



「慢心してないと分かって一安心だ」


「しませんよ慢心なんて。俺より強いやつなんていっぱい居ますから。あ、最上のおっさんもですよ? 俺たち競い合って共闘もした好敵手ともなんですから」


「……はっ、そうかよっ! ……明日、死ぬんじゃねぇぞ?」


「えぇ。分かってますよ」



 最上のおっさんが差し出した拳に拳を合わせる。男同士の友情だ。終わってみたらちょっと照れくさいけど、なんと言うか雰囲気で流されたんだよ。こんな事やるくらい緊迫してる。



***



 コンコン……そんな事を思い出していると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。琴香さんが忘れ物でもしたんだろうか? ……そう思い扉を開ける。



「ぁ、こ、こんばんは……部屋、お邪魔して、良い……?」


「氷花さん?」



 お風呂上がりだろうか? 少しだけ顔が赤い。水玉模様の可愛いと表現するのが相応しいバジャマを着ているのは、烈火さんの両親が届けたからかな?


 ちなみに俺のは諸星組合か探索者組合が用意してくれた洋服を着てる。はい、良いご身分です。



「で、でも寝てたんだね。ごめん、邪魔したなら──」


「ううん、実は眠れなくて。小一時間ほど話し相手になってくれると嬉しいな」



 部屋の電気が消されているのを確認した氷花さんが逃げ腰で去ろうとしたが、俺はそれを止める。何か言いたいことでもあったんだろう。


 別に気を使われるほど寝たい訳じゃないし少しぐらいなら……。あ、理由は建前だが嘘でもないからな。



「…………」



 う~ん、とりあえずベットに座らしたけど固まっちゃってるな。男の部屋だから理解できるけど、元々来る気だったんだしそれとは違う理由……だよな?



「はいお茶」


「あ、ありがとう空」



 自動販売機で買い溜めしておき、部屋に付いていた冷蔵庫から取り出したペットボトルを手渡す。やはりお風呂上がりだったのだろう、ごくごくと勢いよく飲み干していく。コーヒー牛乳を買ってくるべきだっただろうか?



「あ、あんまり見られると、恥ずかしい……」


「ぁ、ごめん……」



 ペットボトルで真っ赤になった顔を隠す氷花さんの言葉に俺は自然と謝罪の言葉を漏らしていた。さて、どうやって話を進めようか。

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