20話~VS大牙狼~
「おぉぉぉっ!」
「やっ!」
「はっ!」
再び僕たち探索者と牙狼の群れの戦いが始まった。僕らの戦い方はいつだってシンプルだ。アタッカー全員で攻撃して、それを後ろのサポーターが補助する。
傷を負えば初芝さんに治してもらうために一時離脱するが、戦線が崩壊しなければ大丈夫!
と言うかサポーターが攻撃されると言うことは、そのパーティは終わりと同義になる。
「ふっ!」
牙狼は巧みな動きで的を絞らせず、何度もぐるぐると僕の周りを回りながら攻撃を繰り返す。短剣で何度何度も防いではいるが、うまく攻撃に移れない。
この牙狼、ちょっと今まで戦ったのよりも強いぞ? もしかしてじきに大牙狼になる個体だったのなもしれないな。
でも、慣れてきた。テンポもタイミングも変わらないしな。……今だっ!
僕は今まで短剣で防いでいた攻撃を、今回は避けると同時にカウンターを決める。……良し、上手く一撃で仕留められた!
「ぐはっ!」
僕が牙狼を倒すと同時に、反対方向から探索者の悲鳴が聞こえた。急いで振り返ると、タンク系の探索者が大牙狼にやられそうになっていた。
「はっ!」
大牙狼の前足での鋭い一撃を、北垣さんが剣で受けることでなんとか防ぐ。だが、それも一度までだ。そして大牙狼の攻撃は、まだ続いた。
今度は即座に反対側の足での攻撃。それを北垣さんはモロに食らってしまった。
「北垣さんっ! 初芝さん、すぐに治療を!」
「はい!」
まずいまずい! 主戦力が戦線離脱してしまった。あの傷じゃ1分は治り切らないぞ!? でも、幸い牙狼も残り少なく数匹にまだ減っていた。
「すみません、カバー入ります!」
僕はそう言って大牙狼へと向かっていく。
「篠崎さん、危険です!」
初芝さんの方が聞こえるが知らん。タンク系探索者だけではすぐに潰れる。こちらからも攻撃することで、タンク系を休ませることも出来るんだ。
残りのE級探索者で牙狼を倒すことは出来るだろう。だが、時間が掛かりすぎる! なら行くべきは僕だろう。
……大丈夫、油断はしない。今の僕は、前の僕とは違う!
「うぉぉっ!」
大牙狼は僕に狙いを定めたのか、飛びかかって北垣さんを倒した前足での攻撃を繰り出してくる。
その攻撃はもう見た! それに前に藤森たちと潜った迷宮の狼のモンスターに比べれば、明らかに遅い!
僕は体を捻って大牙狼の一撃をかわす。しかし完全に避けきれず、頬に一筋を描く血が流れ出た。
いったいなぁっ! けど、喰らえ!
僕は大牙狼の懐に潜り込み、短剣を突き刺してそのまま引き抜こうとする。だが……。
こいつの筋肉硬すぎるだろっ!?
短剣が上手く刺さったは良いのだが、抜けきれなかった。
「ぐっ!」
「篠崎さん!」
出来る限りすぐに諦めて手を離したつもりだったが、遅かったらしい。大牙狼の大きな口が僕の肩に噛みついた。初芝さんの声も聞こえた。
でも、この前のS級迷宮にいた狼のモンスターと比べるならお粗末なものだ。僕の体が強くなったのもあるだろうが、骨を噛み砕くことはできていない。
「うぉっ!?」
違うのは、一度噛み付いたら離さないタイプということだ。牙を肩に刺したまま、僕を引きづり押し倒す。
「舐めるなぁ!」
だが、僕も無抵抗というわけにはいかない。顔が近くにあるのだ。しかも僕の肩に固定されている。なんて絶好の的なんだ……!
僕は手を大牙狼の眼に突っ込んだ。いや正確には指だが。抉り取り、さらに中から攻撃を与える。外の筋肉は硬かったけど、眼の内側はさすがに弱いよな。
ギャオォォォォォンッ!!!
肩から口を外し激しく雄叫びを上げ、残ったもう片方の眼で僕を睨みつける大牙狼。だが、それを防ぐ人がいた。タンク系E級探索者なら人たちだ。
「F級が命張ったんだ! 俺らがやらねぇでどうする!」
そしてタンク系の2人が今度は大牙狼の相手をすることになった。片目が潰れているのだ。2人でもなんとかっているのが見える。
「篠崎さん! 大丈夫ですか? 死なないでください!」
「い、や。死には、しないと思いますけど……」
初芝さんが駆け寄ってきて、僕の治療を始める。……暖かい。
「篠崎君、ありがとう。あとは私たちに任せて欲しい」
「北垣さん……はい、よろしくお願いします」
傷が治りきってはいないはずの北垣さんが、無理して体を震わせて大牙狼に立ち向かっていく。
周りを見ると他のE級探索者の人たちによって、牙狼は残り2匹にまで減っていた。そして……。
「はぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
大牙狼に眼のない方からの北垣さんの放った一撃が決めてとなり、大牙狼は倒れた。
その後大牙狼がやられた途端に逃げだした牙狼も倒し、僕たちは完全勝利を収めた。




