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3章~幕間~

***



 京都、そこで突如C級迷宮から変化した特級迷宮のゲートの前では諸星もろぼし探索者組合の関係者や近畿支部支部長の大本さん、S級探索者の綾辻烈火あやつじれっかさんが集まっていた。



「あぁ、なんでこんな……空、頼む、生きててくれ……!」



 僕が両手で祈りを捧げていると、瀕死の綾辻烈火さんが再び表に姿を現した。彼は最初、妹の綾辻氷花さんが一緒にゲートに入っているらしく、怒りの形相でその場に現れてゲートに突入して行った。


 しかしゲートに侵入を阻まれ、全身を斬りつけられるような瀕死の傷を負ってゲート前に捨てられた。S級の肉体でもあんなズタボロになるのを見た他の人達が怯え出す。


 もしこのゲートが迷宮崩壊を起こした場合、S級探索者の綾辻烈火さんでも止められるかを不安視し始めたからだ。

 


「っ! 諸星社長、またメーターが上昇してます!」



 ゲートの等級を測る魔道具を持つ測定者の人が再び叫ぶ。周りから悲鳴にも近いざわめきの声が上がった。



「でました、A級上位で…………は、は?」



 最初はA級上位と報告した測定者の唇が次第に震えだし、測定の魔道具を落としてしまう。



「一体どうしたと言うん──……馬鹿な」



 大本さんが慌てて測定結果を見て小さく呟き、地面に拳を叩きつけた。コンクリートの床にヒビが入る。



「そ、測定不能。え、S級……上位だと……?」


「S級上位……そんな……っ」



 頭が真っ白になる。測定不能……それはS級迷宮よりもさらに上。機械では測定することすら不可能なレベルの迷宮という事になる。


 便宜上はS級上位と呼ばれる異次元の強さを誇る迷宮。それはゲートが現れてから過去に数件しか確認された事例はなく、その全てにおいて迷宮攻略は失敗していた。


 不幸中の幸いにして、特級迷宮は2時間ほど存在した後、迷宮攻略の成功失敗に関わらず消滅する。そしてS級上位の迷宮は特級迷宮でしか発生したことは無い。


 もしこれが通常の迷宮で出現した際、世界トップクラスの探索者を招集する国際条約を制定するかの議論が行われているほどだ。恐らく実際に現れた場合、それは実現するだろう。


 つまり何が言いたいかと言うと、空達の生存は絶望的だと言うことになる。



「……こんな事なら、穂乃果ほのかのこと無理やりにでも話しておけば良かったのかな?」



 そんな考えが頭をよぎる。空と3年前、穂乃果のことを忘れていると教えてくれた際、僕は空から思い出すまで黙っていることを誓った。その事を今更になって後悔し始めた。



「なんだ、ゲートが……!」



 再びざわめき出した周りの声で顔を上げる。すると黒紫色だった特級迷宮のゲートに変化が起き始めた。そこから肌色の手が出現し出す。


 僕は立ち上がり、息を荒くしながらゲートに近づいた。そして、見知った顔の親友を視界に捉えた。



***



 東京に本拠地を構える探索者組合本部。その最上階、そこにテレビをジッと眺める男がいた。可愛い声と激しい音がテレビからは聞こえてくる。そんな時、男の電話の着信音が鳴り響く。


 男はその音が鳴り始めて1秒も経たないうちにテレビの録画したビデオを止め、電話に出た。



「私だ…………そうか、分かった。あと10分だけ待ってくれ。どうしても外せない用があってな、できる限り早く向かう……あぁ、よろしく頼む」



 男は電話を切り、再びテレビの再生ボタンを押した。先程同様に可愛げな声が部屋に響き渡る。その時、またも電話が鳴り響いた。同様の行為をしてから男は同じように電話に出た。



「……何? ……そうか、分かった。それじゃあ」



 先程よりも早めに電話を切り、男はイスにかけていたジャケットをビシッと格好よく羽織り……再びテレビの再生ボタンを押して番組を見だした。



「いい加減にして下さい!」



 そんな男の元に1人の秘書が怒鳴り込みをかける。それに対して怯えた様子で男は仕方なくテレビの番組視聴を止めた。



「あなたはご自身の立場というものをお考え下さい! そんな物を見ている暇があるのなら一刻も早く──」


「今なんと言った? ……馬鹿にしたのか?」



 秘書の言葉に男はキレる。その男が本気を出せば、たとえS級探索者であろうと敗北することを理解しているからだろう。


 その男は怯える秘書の肩を掴み、まるで悪人のような笑みを浮かべて秘書が馬鹿にした物を力説し始めた。なお、秘書に馬鹿にされて男が力説している物とは……深夜アニメだった。



***



 アメリカ合衆国フロリダ州。三ツ星レストランが併設された最高級のホテルのVIPルームにその男はいた。


 身長2mを超えるほどの長身に横綱のように巨大な身体、ボディビルダーのようなパンパンに詰まった筋肉を併せ持つ30代の男は、ワイングラスを片手に夜景を眺めていた。



「ふは、俺が守った都市の夜景を見ながら飲む高級ワインほど美味いものはないな! ……プハ~、うめぇ!」



 つい昨日の昼前、近くに出現したS級迷宮を適正人数よりも少ない人数で、さらにたったの5時間で迷宮主を倒した男が笑いながら大声で喋る。


 そのままクイッとワインを口に含み、気分よく夜景を眺めていると、スマホが振動して通知を知らせる。男が何となく眺めたスマホには『お出かけしたい』とだけ書かれてあった。



「ふむ、では出かけるか! 行先は……そうだ、日本! 日本にしよう!」



 軽い気持ちで海外旅行を決めた男は、早速呼び鈴を鳴らしてホテルの従業員を呼び出し、さっさとチェックアウトを済ませた。


 本来、男がここまで熱心に動くことは無い。恐らく10億円を目の前に積まれたとしても、ピクリとも反応しないはずだ。


 そんな男がここまでノリノリな理由は1つしかない。愛する愛娘からのLINE、ただそれだけだった。これがアメリカ合衆国最高の探索者の実態だと言うのだから笑えない。


 大統領への連絡と手続きを適当に済ませ、愛しの愛娘と共に男は日本へ旅立った。


 そんな破天荒な男こそ、この地球上で最強と呼ばれている10人のうちの1人。その中でも1番と評させるEX級第1席、マテオ・キングだった。



***



 砂埃が吹き荒れる、荒れ果てた灼熱の荒野。視界は砂埃で晴れず、気温は50度にも達しようとしていた。



『……兄様、喉が渇いたわ』


『……ん』



 熱気と砂埃から身を守るために羽織った外套を着た、まだ中学生にも満たない小さな体の少女が口からそう漏らす。


 兄様と呼ばれた同じくらいの身長の少年が皮袋を手渡す。それを受け取った少女が口をつけた。



『……無くなったわ』


『……マジっすか? はやく、オアシスに着くと良いっすね』



 少年は少女の悲痛な言葉にも楽観的な物言いをする。



『……呆れた。サンドリザードの運行する竜車でも通らない限り無理よ。このまま、私たちは死ぬんだわ』


『諦めるのは早いっすよ。ほら、向こうに砂埃が見えるっす』



 少年が指を指す先には確かに砂埃が見えた。ただし、あれが少女の言う竜車である確率よりもモンスターの確率の方が高いだろう。


 もし望みの竜車であったとしても、自分たち2人に好意的である保証はない。少女は少年に対して厳しい視線を向けながらため息をついた。



『……お。俺たちに気づいたみたいっすね』


『……あら、本当に竜車だったわ。……ちょっと、逃げるわよ!』


『え? え?』



 少女が血相を変えて少年の手を取り走り出す。少年は戸惑いながらも少女の後ろに続いた。



『あの竜車の紋様、奴隷商人達よ!』


『マジっすか!?』



 少女が叫ぶように少年に伝えると、さすがの少年も目の色を変えた。全力で近づいてくる竜車から逃げようとするも、これまでの体力の消耗、砂に足を取られるなどから2人はすぐに捕まってしまった。



『お、こりゃ珍しい! 黒狼族の兄妹だぜ!』



 2人は無理やり灼熱の地面に組み伏せられ、外套を剥がれる。その頭からは2つの耳が付いていた。2人は獣人だ。



『は、離しなさい!』


『どけっす!』



 2人が懸命に暴れるも、大人の人間よりも一回りもでかい奴隷商人達にはどうということは無い。



『あなた達! 同じ獣人族を売り物にするなんて恥を知りなさい!』



 少女の方が豚人族の奴隷商人を睨みつけながら悪態をつく。その言葉に豚人族の男の目が変わった。



『……お前、生意気だな。売り物だから丁寧にしようとしてたけど、どっか体の1部欠損させて、そう言うのが好きな好事家の知り合いにでも売り払っちまおう』


『……ぇ、いや。嫌よ! やだ、やめてっ!』



 男がナイフを取り出し、少女の体を中心にグルグルと回して脅しをかける。少女の表情が一変し、恐怖に染まった。



『や、やめろ! やるなら俺の方にしろっす!』


『お前は肉体労働が待ってるからダメだ。女の方は変態に売りつけるから問題ない』



 男はそう言って体の1箇所に目星を付ける。少女が恐怖から涙を流す。それでもナイフは止まらない。そして、少年の静止する声をかき消すほどの少女の苦痛の叫びが砂漠に響き渡った。

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