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186話~別れの前日~

 あれから数日が過ぎた。ここに来てから明日で1ヶ月。つまり、エルフのみんな……ヘレス達との別れもすぐそこまで迫っていた。



『という訳で、明日は軽く宴会でもしようと儂は考えておる』


「良いですね。エルフ側は自由参加でお願いします」



 昨日のクルゴンさんの一言に俺が便乗したことで宴会の開催は決定となった。エルフの人たちに強制参加はいけないよな! 飲み会と一緒! え、俺たち? お世話になったし当然強制参加だよなっ!


 そんなこんなで準備は淡々と進む。宴会と言っても小さなもので、お別れ会と言った方が良いだろう。



「それじゃあ大地さん、一言お願いします!」


「いや、篠崎さんの方がエルフの人達も合わせやすいから譲るよ」


「で、では琴香さんから」


「早く役目を果たしてください空君、怒りますよ?」


「皆さん、この1ヶ月間はお疲れ様でした。言葉や生活習慣などで慣れない生活でしたが、俺は思い返せば色々と楽しかったです! 今日は準備を手伝っていただきありがとうございました! 明日は向こうに帰りますがひとまずはエルフ達と出逢えた縁に……乾杯!」


「「かんぱーい!」」



 琴香さんに急かされて口上を言わされた俺が、飲み物を上に掲げて合図をする。宴会はこうして始まった。



「プハーッ! 美味いっ!」


「篠崎君、それは──」


「果実水なんで問題なしです!」



 北垣さんが心配そうに見てくるが、お酒なんて飲んでないよ!? 俺まだ19歳だし。でも見る感じ、大地さんとかはアルコール飲んでるっぽい。てかお酒あったんだな。



「ふふふっ、空君は私と違ってまだ子供ですからねっ。私は果実水で薄めたお酒を嗜みますよ!」



 琴香さんがニヤつきながら香りを楽しみ、ゆっくりとお酒を1口含む。……やってしまったな、琴香さん。



「未成年飲酒の現行犯ですね。逮捕します」


「初芝君、残念だよ……っ!」


「えぇ!? 私、大人なのに~~っ!?」



 ふぇ~ん、と泣きながら北垣さんに連行されて行った琴香さんに笑顔で手を振り、色々な人のところへ歩き回る。


 牧野さんはお酒が入ったせいか、いつもいるエルフの人と共に弓について熱く語り合っていた。大地さんはクルゴンさんやサリオンさんに改めて挨拶回りをしているようだ。お邪魔そうなのですぐ退く。



「だからやめろっての! 空、助けてくれっ! 言葉も話も通じねぇ!」


『ねぇ、残ってよおっちゃん!』


『まだ遊び足りないよ~!』



 最上のおっさんはエルフの子供たちに絡まれていたが、微笑ましげだったので放置した。睨まれたけど、俺は悪くないはず……。


 柏崎さん、馬渕さん、岸辺さんの3人は端の方でチビチビと飲んでいた。俺が話しかけようとしたが、お酒が入ったせいかフランクになったエルフ達に囲まれ、そのまま馬渕さんが酒飲み対決をしている。


 2人も『頑張れー!』と応援をし、宴会の中では1番盛りあがっている様子だったのでお邪魔だっただろう。……あれ、俺ってば、もしかしてボッチ?



「そ、空」



 と思ったら今まで避けられてた氷花さんが話しかけてきたよ。ボッチの神様ありがとう。これでボッチが2人になってボッチじゃ無くなった!



「どうしたの、氷花さん?」


「~~っ!?」



 また逃げられたら困るから結構優しめに氷花さんに話しかける。何故か顔が赤い氷花さんは俺から目を逸らしてそのまま黙りこくってしまった。そこで俺は閃く。



「氷花さん、もしかして間違えてアルコール飲んじゃった?」


「のっ、のんでにゃいっ!」



 何故か避けてたはずなのに急に話しかけられ、何故か顔が赤い2つの謎。これを解決する考えを話すと、氷花さんは凄まじい剣幕で否定してきた。でも呂律が回っていない。これは確実に飲んでいるな……!



「氷花さん、黙ってておきますからもう寝ましょうか」


「ち、ちがっ、本当に、飲んでいな──」


「さぁ、行きましょう」


「い、いやっ……お、お話、したいの」



 これ以上、お酒を飲めないのが嫌だったのか氷花さんが想像以上にごねる。



「そうですか。続きは布団の中で話しましょうね」


「ふふふ、布団の中で……!?」



 宥めるように布団に連れていこうとした俺の言葉に氷花さんは顔を真っ赤にして、そのまま意識を失ってしまった。


 初めてのお酒で酔いが回ってしまったんだろうな。そう思いながら、氷花さんを布団に運び込んだ。気絶したように眠る氷花さんに毛布をかけて、宴会の席へと戻る。


 そしてさっきからずっと後ろの方でチラチラとこちらを見ていた3人に声をかけた。



『ソラ、さっきのあれは何だったんだ?』



 アムラスがヘレスと共に歩み寄ってきて、琴香さんの方を見ながら尋ねてくる。



「琴香さんが未成年飲酒で捕まりまったんですよ。彼女、一応は人族的には成人していて大人なんですけど」


『ブブッ!? ……え、嘘だろ!? あの人、年上だったのっ!?』



 アムラスが果実水を吹き出して食いついてきた。そう言えばヘレスも年齢に驚いていたな。やはり琴香さんは種族を跨いでも大人には見えないらしい。きっと、お酒も売って貰えないんだろうなぁ……。



『て言うか、お別れ会なのに明らかに私たちのこと避けてなかった?』


「い、いやぁ、やっぱ企画者の1人として、全員に顔ぐらい出したいじゃん。色々済ませて、最後にヘレス達とずっと話せるようにしたかったんだよ!」


『そ、そう? なら良いわ』



 こいつ、チョロいな……。と思いながら哀れみの目でヘレスを見ていると、下の方から服を引っ張られる。ララノアちゃんだ。



『…………』


「???」


『……変態さん』


「!?!?!?」



 すごく長い沈黙の後、ララノアちゃんにボソッと告げられた。



『ララノアっ!?』


『だって……ララノアのお着替え見たもん』



 そう言えばそうでしたねぇ! マジでごめんなさいっ!!!



『ララノア、その通りだけど違うでしょ。言いたいこと、あるんでしょ?』


『……分かんないもん。だってこの人、お姉ちゃんを虐めるし、ララノアは色々酷いこと言っちゃったし、それでもララノアのこと助けてくれるし、お着替え覗こうとしてくるし、みんな仲良くしてるし……どんな事、お話すれば良いのか分かんないもんっ』



 ララノアちゃんは今までの思いを吐き出すかのように、次々と俺の事について話す。確かにララノアちゃんから見れば変なやつだ。変態は心外だが、呼ばれてもおかしくはないな。


 ララノアちゃんから見て俺に対する自分の思いと他の人からの印象が乖離していて、自分自身と他の人への対応も真逆。まるっきり理解できない、得体の知れない人物じゃん、俺。



『あのね、そういう心がグチャグチャになった時は自分の思いを全部正直にブチまければ良いのよ! ソラは優しく受け止めてくれるし、もしなんか反論したらあたしがボコすわ!』


「あはは……」



 ヘレスの豪快なアドバイスに俺は苦笑する。でも壁に向かって思ってる言葉を口に出して全部ぶつければ意外とスッキリはするかも。



『うん……。お兄ちゃん、えっと……まずね、変態って言ってごめんなさい』


「良いよ良いよ。全然気にしてないし。もっと言っても構わないよ」


『ソラ、お前まさか幼女に罵れて喜ぶ変た──』


「違うよっ!?」



 俺の返しが悪かったのかもしれんがアムラス、お前は後で覚えておけよっ!!!



『……あと、お着替えは事故って、聞いたから』


「ごめんね、次から気をつけるから」



 ララノアちゃんは事故と言う言葉で態度が若干柔らかく変化していた。恐らく、許してくれるんだろう。でもアムラスは? あいつはどうなんだ? ……ヘレスが粛清済みとかかな?



『あとお薬の材料も、採って来てくれたし……その、お礼、あげます。さ、最初に言っておきますが、変な勘違いはしないでくださいね? ……ちょっと、しゃがんで下さい』



 ララノアちゃんが小さな手をギュッと握りしめ、顔を赤くしながら手招きする。俺は彼女と同じ目線まで足と腰を曲げた。



『チュッ♡』


『ひゃっ?』


「へっ?」



 俺とララノアちゃんの目が合った瞬間、ララノアちゃんの唇が俺の頬にまで伸びていき、一瞬にも満たない接触を果たした。ヘレスと俺の間抜けな声が耳に入る。



『こ、これはお礼です! ララノアを助けてくれた、お礼……。あのままじゃ、お姉ちゃんがあげそうな気がしたので──』


『ちょっとララノア何言ってるのかしらっ!?』


『──だから、ララノアので我慢して、下さい。お姉ちゃんの代わりに、なれたかは分かりませんが……』



 ララノアちゃんがビシッと指を立てながら、母親が子供に言い聞かせるように俺に告げてきた。途中でヘレスが口を挟むが意味を成さない。


 ララノアちゃんは照れくさそうに、しかしそれを必死に感じさせないように振る舞ってお願いしてくる。



「……あ、ありがとう。これはその、嬉しいよ、ララノアちゃん。もちろんお姉ちゃんに手は出さない。でも、だからってララノアちゃんがこんな事をするのは間違ってる」



 俺はさっきのキスにお礼を告げて、頭ごなしに否定しないようにした。間違った行為だが、ララノアちゃん自身が考えて出した結論だからだ。


 その上で俺の気持ちを伝え、ララノアちゃんが思っているようなことにはならないことを伝える。そして最後に、間違いを指摘する。



「俺はヘレスに手を出したりなんて絶対にしない。それはララノアちゃんがキスしてくれたからじゃなくて、俺がそんな事をしたくないと思ったからだ。信じて欲しい……!」



 ララノアちゃんの手を掴み、目を見てはっきりと、懇願するように言い切る。ララノアちゃんの瞳が揺らぐ。手のひらから不安がヒシヒシと伝わってきた。



『本当、ですか?』


「あぁ」


『……あ、ありがとうございます。ララノア、不安でした。でも、お兄ちゃんがそう言ってくれて、これで安心です』



 その言葉通り、すっかり力の抜けて眠りについたララノアちゃんをヘレスに預けようとして、2つの殺意に気づく。



『へぇ。私とはしたくないと思った、ねぇ。……そんなに嫌われていたなんて知らなかったわ、ソラ』


「え、いやそういう訳じゃ──」


「空君、今のって、児童ポルノ禁止法に抵触しますよね? 現行犯ですよね? つまり……拷問ですねっ♪」


「逮捕よりヤバいじゃないですかっ!?」


『ララノアちゃんは預かっておく。お疲れ様でした』


『アムラァァァスっ!!!』



 こんな感じで宴会は進み、いつの間にか解散となっていた。エフィーは宴会に参加出来ず不貞腐れていたので、その分いっぱい構ってやったら満足げに眠りについたので良かった良かった。



***



 次の日、ゲートが開かれる1時間前に俺は里と森の瀬戸際にある人物を呼び出していた。出発の準備を済ませたりしている他のみんなには悪いが、こっちも重要だしな。その人物が来ると同時に、不穏な空気を纏った風が吹く。



「来てくれてありがとうございます」


「いや、特に問題は無いよ。それより話とはなんだい?」


「……単刀直入に聞きますね。北垣さん、あなたは何者ですか?」

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