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185話~サリオンからの忠告~

 ララノアちゃんが無事に外に出るようになってから数日が経った。今も大人たちの目は厳しいが、それを補うようにヘレスが付いているので心配はないだろう。



『お姉ちゃん、頑張って……!』


『まっかせなさい!』



 今では訓練の時間に現れてヘレスに応援を飛ばしている。普段通りの行いや、ちょっとした事で一喜一憂する無邪気なララノアちゃんの姿はみんなの癒しとなっていた。


 エフィーも氷花さんがいるので隠れながらだが、ララノアちゃんと同じように観戦している。



『ふむ、では来なさい』


『行くぜっ!』



 その横ではサリオンさんがアムラスに稽古をつけていた。弓は無しで体術のみの訓練なのだが、アムラスは1分ぐらいでボコボコにやられて帰ってきて、琴香さんの魔法のお世話になっていた。



『では次じゃ』


「……っ!」



 次に氷花さんが挑む。そう言えばこの前あった事なんだが、彼女には何故か最近避けられていたので俺からの接近は自重していたんだよね。


 すると昨日、頬を膨らませた氷花さんにポカンと背中を1発殴られて「……馬鹿」と眉をひそめた表情で言われたんだよ。酷くない? ……え、お前の方が酷いってそれはないでしょう。



「くっ……」



 氷剣での一撃がサリオンさんに当たる瞬間、それを逆手に取ったサリオンさんが受け流してカウンターを決めた。そんで琴香さんのお世話になりに行きましたとさ。



「お願いします」



 俺の番が来たので短剣を構える。合図もなくお互いが同時に動いた。瞬きの間に短剣で突きを放った俺だが、それはサリオンさんの髪の毛を数本切るだけに終わった。



『ワ、ワシの髪が……』



 そのまま追撃を仕掛ける直前、サリオンさんが小さく呟いたかと思いきや次の瞬間、俺は地面に転がされていた。



「いっつぅぅぁぁぁっ!!」


『……はっ! すまんソラ、つい……』



 あまりの早業で遅れて来た痛みに悶えていると、サリオンさんが慌てて介抱してくれた。直後、サリオンさんの姿が消える。



「…………♪」


『コトカ様、笑顔で殺意を飛ばすのはやめて欲しいのじゃ』



 目の前には琴香さんが口角を僅かにあげただけのほぼ無表情で立っていた。サリオンさんはその気迫を本能で感じとり後ろに引いたようだ。



「それにしても、空君の動きって明らかに前よりも洗練されましたよね? ズルしたんです?」


「するわけないですよ!? ……悪夢で過去を見た際に訓練の時もあったので、ひたすら見取り稽古をしたり、教えを今の自分なりに解釈をしてたらこうなっただけです」


「あぁ、なるほど……確かに私もどうでも良い記憶の時は、起きたあとの事とか考えてましたしね~。昨日言ったこともこのお陰で思い出したんです」


「……そうですか」



 琴香さんからのお褒めの言葉は軽く受けとっておく。だって上達したのは俺だけじゃなく氷花さんも一緒だし、なんだかサリオンさんもそうじゃなかったか? この人は強すぎてよく分からん……。



『さて、長いようで非常に短い期間の合同訓練じゃったが、それももう少しで終わりじゃ』



 サリオンさんが俺たちを集めて告げる。サリオンさんの言う通りで、俺たちがエルフの里に居られるのは残り数日。改めてその言葉を告げられると顔が僅かに強ばった。


 異世界の迷宮では時間の速度が圧倒的に差がある。ただでさえ特級迷宮の中でもエルフの里を引き当てなければいけないのだ。


 例えエルフの人達が長生きでも、再会出来ることは不可能に近い。文字通り永遠の別れ……それを分かっているからこそ、この関係が終わってしまうのを想像したせいだ。


 あと何故かヘレスとララノアちゃんとアムラスは先に帰らされた。帰らされた理由は分からないが2人は不満げにしていたので、後で何を言われたのかぐらいは教えてやるか。ちなみにララノアちゃんは喜んでいた。解せぬ……。



『ヒョウカ、コトカ様、ソラにはひとつずつ、今後のアドバイスなどをやろうと思う。まずはヒョウカじゃ』



 俺が通訳したら言葉を聞いた氷花さんが緊張した面持ちで頭を下げる。



『お主は戦い方が上手い。技術も魔法も1級品。対応力も優れておる。同格の相手なら、相性が余程悪くない限りはまず負けることはないじゃろうな』


「……!」


『しかし、対応も素直で読みやすい。あれが来たならこうする、そう頭で決めておるようじゃが、それでは1度見た技には即座に対処出来る技術はあっても、初見の技に対しての判断力は鈍くなる。時には本能で動けるようにしなさい。頭で対応を考えるその一瞬が、勝敗を分けることもあるじゃろう』


「……あ、ありがとう、ございました」



 サリオンさんの言葉に氷花さんは悔しげな表情を浮かべていた。でもその中には僅かに嬉しそうな気持ちも見える。自分自身を見てもらえて嬉しいのだろう。氷花さんはウキウキで先に戻って行った。



『次にコトカ様じゃが……はっきり言って論外じゃ』


「っ!?」


「え? ……なんで、です?」



 サリオンさんからの辛辣な言葉に俺も思わず反応する。琴香さんは困惑した顔を取り繕いつつ理由を尋ねた。



『コトカ様は精霊……。じゃが、今のコトカ様は精霊としては赤子。潜在能力の1割程度しか使えておらん。精霊王が直々に生み出したのじゃ。大精霊クラス辺りまでは伸びるのじゃろう。精霊としての力を、もう少し意識して欲しい』



 サリオンさんから告げられる衝撃の事実に驚きが隠せない。琴香さんは元から考えるととてつもなく強くなった。


 しかしそれでも、まだ1割も使えていないという事実。それが事実なら、琴香さんは並のS級を余裕で越えられるポテンシャルを持っていることになる。



「分かり……ました」



 自分の胸に手を当てて、自分が改めて精霊であることを自覚しようとしながら琴香さんは戻って行った。最後は俺だな。



『……ソラよ、双剣には変えて見る気はないか?』


「え?」



 双剣にする。つまり武器を変える……いや、、正確には武器をもう一本増やす提案に、俺は僅かに固まってしまった。



「……何故、ですか?」


『ワシがそう思ったからじゃ。ソラに短剣は合う。しかしそれ以上に、双剣の方がより適正が高いと判断した』



 サリオンさんはそう進めるが、俺は非常に乗り気ではなかった。最初の師匠である一香さんが、双剣ではなく短剣を進めてきたからだ。その事を軽く伝える。



『ふむ……恐らく、昔のソラでは短剣じゃったろうな。しかし今は強くなり、技術に速度や力も増しておる。ソラの持ち味である速度をほとんど落とすことなく、双剣を扱う技術もあるじゃろう』



 その言葉に俺は気付かされる。確かに今の俺は攻撃するのにまだ余裕があった。むしろ少々物足りないとも……。


 それと、短剣はコスパが良い。剣よりも普通に値段が安いしな。双剣は2本使う分、武器自身も扱う俺の体力も消耗が激しい。


 一香さんがもし、身体能力が技術に追いつかない可能性と金銭の都合上を考慮して、短剣で妥協したのだとしたら……?


 もしそうなら、今の俺なら稼ぐ力もあるし、実力も最低限不足はしないだろう。上手くハマれば単純に2倍の火力を得られる。



「……なるほど、分かりました。向こうに帰ってから検討してみます」


『そう言ってくれると師匠冥利に尽きるもんじゃ。双剣は両手で別々の事をするから、よほど上手くなければ単調な動きで弱くなってしまう。故に進められる人材はほぼいないが……ソラなら大丈夫じゃろうな』



 サリオンさんにもそう太鼓判を押される。双剣か……一香さんの言う通り、今まで短剣1本でやってきたのが俺だ。……でも、そろそろ変わるべきなのかもしれないな。



『……それと、エフィー様は今何処に?』


「エフィーなら多分、ララノアちゃんと一緒に帰りましたね。氷花さんが居たので隠れないといけませんでしたから」


『ならばちょうど良い。実は結構迷っておったが、話しておきたいことがあるのじゃ』



 その言葉に俺は違和感を覚える。だって精霊王であるエフィーに聞かせられず、その契約者の俺にしか聞かせられない内容だぞ。



「一体なんですか?」


『……』



 珍しくサリオンさんが緊張した面持ちで俺を見てくる。決心を決めたにも関わらず、言い淀む姿は見ていてもどかしいな。



『ソラよ、お主たちが行動する人族には1人、裏切り者がおるかもしれんぞ』

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