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183話~試練~

 サリオンさんに呼び出されたので外に出る。話があるらしいが、ちょうど俺も聞きたいことがあったでタイミング的にはちょうど良かったのかもしれない。



『……のぉ、ソラ。お主は我らエルフの問題を解決できる成果を上げた。それを改めてお礼を伝えたいのじゃ』


「ララノアちゃんの事なら当然のことをしただけです。そんなにお礼を言われるような事じゃありませんよ」



 サリオンさんが頭を下げてくるが、もうお礼を言われすぎてむしろ居心地が悪くなってしまった俺は謙遜したように言う。



『……ではソラ。お主は……あの悪夢についてどう思う?』


「どう、とは?」


『なんでも良い。思ったこと、感じたこと、気になったこと……好きなように、箇条書きのようでも良い。教えてはくれんか?』



 サリオンさんに急に国語の問題を出された。その内容は悪夢について……。それは、俺がちょうど聞きたかった事とも関連してるかもしれない。



「……あれを悪夢と呼ぶのは、ちよっと抵抗がありますね。さっきの質問を聞く限り、俺の予想通りだと思います」


『ほう……続けてくれ』



 俺はずっと抱えていた違和感を話せる体勢を作る。いきなりその事を指摘するのはちょっと勇気がいるからな。


 幸いにして、サリオンさんの反応はあまり悪くは無い。むしろもっと聞きたい、俺の意見を聞かせてくれ……そんな感じがした。



「単刀直入に言いますがサリオンさん──あれは、ただの悪夢ではありませんよね?」


『ほう、何故そう思ったのかね? あと、ならあれは何なのかについても聞かせてもらいたい』


「前者は特に理由は……何となく、そう感じたからです。あれが何かについてですが……俺は、あれは悪夢ではなく試練か何かだったと考えています」


『試練……』


「はい。もちろん悪夢でもあったわけですが……俺には、自分の過去を乗り越えるために設置された試練に似たような何かに思えて仕方がないんです。俺は悪夢で自分の弱い所を突かれて、それを許容して生きていくと決断することが出来ました。悪夢のお陰で成長できたんです」


『……』


「琴香さんにも尋ねたんですが、悪夢の中に出てきたもう一人の自分が、最後に戻ってこないでね、と伝えてきたそうです。ですから俺は、悪夢ではなく試練のような何かだったと思うことにしてるんです。……実際がどうかは知りませんが」



 俺の中でも、あれは悪夢ではあった。しかしただの悪夢では無く、自分の犯した過ちや過去を乗り越えるための試練だと感じている。その事を伝えると、サリオンさんはふぅ、と息を吐いた。



『ソラの言う通りじゃよ。あれは戦士となるために必要な儀式の1つじゃ』


「戦士……?」


『エフィー様の言葉を聞いておったじゃろう? 聖戦……500年ほど前まで起こっておった戦争に向かわせる人たちの事じゃ。その戦士たちを選定する儀式で選ばれるのは、実践での強さや心の強さを示した者のみ……当時まだ子供じみておったワシは、選ばれなかった』



 そう呟いたサリオンさんの背中は哀愁が漂っていた。普段は老人とは思えないほどの体術を見せてくる憧れの背中は、今だけはとても小さく丸く見える。



「……サリオンさんは今回、試練を突破出来ましたよね? 本当は今よりもっと早く突破できたんじゃないですか?」


『……分からん。じゃが1度失敗して、怖くなったんじゃろうな。肉体だけは鍛えても、風の精霊ソロンディア様と契約を交わしても、試練にだけは挑む勇気が無かったのじゃ』



 ララノアちゃんがあんな扱いを受ける前に。受けたとしてもそのすぐ後に白霊草モーリュがあれば、少なくとも隔離されるようなことは無かったはずだ。


 サリオンさんはララノアちゃんを見捨てるような前をする人じゃない。分かってた。それでも俺は、もっと早く助かることも出来たんじゃないかと思えて仕方がなくなり、責めるような問いかけをしてしまった。



『ララノアには悪いことをしたと思っておる。じゃが、もし仮に試練を突破できたとしても、それで本当に意味はあるのじゃろうか?』


「意味? ララノアちゃんの扱いが良くなる以上にそれは大事なことですか?」


『ワシがララノアを助けたとしても、ヘレス自身が過去を乗り越えなければ意味が無いじゃろう? ワシはそう思っておるよ』



 そう言われ、俺は少しの間思案する。ヘレスがララノアちゃんに対して並々ならぬ思いを持っていた事には気づいていた。


 それをサリオンさんが白霊草モーリュを使ってララノアちゃんを家に戻したところで、彼ら家族の気持ちの整理はつくのだろうか? ヘレス自身に試練を受けさせることで気持ちを整理をつけさせたかった……と。



「……正直、ララノアちゃんの扱いとヘレス自身の気持ちの整理、どっちが大切かに優劣をつけるようなことは出来ません。ですが……最悪の事態は起こらなくても、ララノアちゃんへの扱いを半分黙認していたことは許せません……だから、これからはララノアちゃんにも優しく接してあげてください」


『……ああ、約束しようぞ』


「ありがとうございます。それじゃあ俺はこれで」



 少しだけ気まずくなった俺はその場を後にする。とりあえずみんなの元に戻って、この数日の出来事を聞きたいな。そう思いながら離れへと再び戻っていく。



***



『では、里の者達に会議の通達をしてくる』


『えぇ……』



 父上がそう言ってその場を後にする。あたしとララノアの方をチラッと見て、僅かに微笑んだ気がしたのは多分気のせいだと思う……。



『ねぇねぇ、ララノア、これからはお外に出ても良いの?』


『えぇ、明日みんなにお話をしてからになるけど、それが終わったら、ね』



 足を上下にパタパタと揺らすララノアに思わず苦笑して頭を撫でる。ララノアは頬がとろけるように緩み、優しい瞳を浮かべた。



『あのね、ララノア……その、あたし、謝らなきゃ行けないことがあるの』


『? なぁに?』



 目を丸くし、キョトンとした表情のララノアが首を斜めに傾ける。……ふぅ、ちゃんと、言わなきゃ……。



『その……昔のこと、なんだけどね』



 あたしは精一杯の勇気を出して、悪夢の時のように……いや、それ以上に後悔の念が溢れ出して来るのを抑えつつ謝った。


 自然と溢れ出てきた涙にララノアが驚き、先程のお返しのように頭を撫で返されたりもしたわ。その日の夜は一晩中、ララノアに謝って、仲直りをして色々と語り合った。


 今まで大半が空白だったララノアとの思い出のページがどんどんと埋まっていく勢いで、今までの分を取り戻す勢いで……。


 深夜に帰ってきた父上は、普通の姉妹のように近くで眠るあたし達を見て毛布を掛けたと、あとから聞いたわ。


 こうして、あたし達は家族に戻れたの。これからはこの里で、今まで過ごせなかったララノアとの思い出を作っていくの!

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