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174話~VS幻影迷夢~

 歩き続けて……いや、さっきの時間ロスを減らすためにも軽く走って森の奥へと向かってから10分ほど経った。


 幻影迷夢の幼体はそこらかしこにいるので、襲ってこないやつ以外は無視している。そしてさらに歩き続けると、幻影迷夢が成体になる際に使ったと思われるまゆを発見した。



「おぉ、あれが絹になるんですか?」


「確かかいこを育てて繭を取る行為を養蚕ようさんて言いましたよね? 中学校の歴史かなんかで習ったような……」



 白い糸の繭を見て呟いた琴香さんの言葉にちょっと真剣に記憶を辿って見るも、あまり正確な情報は出てこない。


 と言うか今はそんなのどうでも良い! あの繭、直径3mを超える大きさ……幻影迷夢がはねを広げたらどれだけの大きさになるのか想像もつかないな。しかも2匹……本当に勝てるのか?


 次の瞬間、地面一体を覆い隠す黒い影が現れ、ブワッと強烈な風が吹いた。慌てて上を見ると、そこにいたのは翅を大きく広げて飛んでいた幻影迷夢だった。


 自身の体よりも巨大な4枚の翅が動き、時折キラキラした粉……悪夢を見せる鱗粉が降ってくる。派手ながらも美しい翅色は見惚れる物がある。翅だけなら……。



「空君、私、鳥肌が立ちました」


「奇遇ですね。俺もです」



 うにょうにょと動く触覚に、鋭く伸びたストローのような口。トンボのようにいくつもの突起で構成された目……通称モスアイと呼ばれる目が俺と琴香さんに向けられる。つまり何が言いたいのかって言うと、一重にゾッとするほど気持ち悪い、だっ!!!



「速攻で倒します!」


「お願いします!」



 こちらから一方的に侵入して、殺してから薬草を奪う行為をする俺たちは悪だ。普通に住んでるだけの幻影迷夢には本当に悪いと、ずっと罪悪感を抱えていた……でも、これは無理ですごめんなさいっ!


 巨木の幹を蹴って上へと飛び上がり、振りかぶった短剣で一撃を放つ。幻影迷夢はこちらに気づいた様子を見せて翅を羽ばたかせようとするが明らかに遅い。


 翅に一撃を喰らった幻影迷夢は翅に傷をつけられたことが原因か、一気に落下していく。翅に着いていた鱗粉が舞うので口や鼻を、予め用意しておいた布で覆う。


 にしても……弱いな。いや、蝶や蛾に戦闘能力があるなんて話も聞いたことがないしこんなものか? 厄介なのは飛んでいること、鱗粉を撒き散らすことぐらい。


 飛んでいても普通に攻撃は届くし、鱗粉の悪夢は乗り越え済み。はっきり言ってイージーモード。そう思っていると、ストローのような口から俺に向けて何かを飛ばしてきた。


 驚きながらも避ける。飛ばしてきたのは白っぽい水……水分を含んだ何かだった。体液……? いや、吸った花の蜜か何かか?


 その攻撃をしてきた幻影迷夢は地面に落ちて再び飛び立とうとしているが上手くいかない様子……今のが最後の切り札だったのかもな。


 そう考えながら地面に降り立ち、サクッと頭を切り落とす。うにょうにょと触覚が動いていたが、それもやがて動きを止める。……これで1匹目の討伐成功だ。


 結構呆気なかった……。そんな感想を抱いていると、琴香さんがこちらに寄ってくる。



「これ、私いりましたか?」


「…………一応?」



 はっきり言って多分、戦闘面では必要なかったと思う。ただこれで戦っていたのが俺じゃなくてアムラスなら話は別だろう。


 まずは弓矢で攻撃するべきだろうが、あの翅を使って矢が遠くまで届かない恐れがある。近づこうにもアムラスの速さだったら逃げられる可能性もあったし。


 その時に琴香さんを囮に使って注意を引き付けておき、幻影迷夢が逃げた先にアムラスがスタンバっておいて攻撃! などの用途もあるはある。今回はその必要もなかっただけだ。


 そんな事を考えていると、再び空が暗くなる。2匹いると聞いていたので、2匹目の幻影迷夢だろう。俺は再び戦闘態勢を取り、1分後に倒すことに成功した。



「呆気なかったですね、空君」


「琴香さんに至ってはテレビでも見るような雰囲気出してましたし」


「空君を信頼してただけですよ?」


「物は言いようですね」



 やはり迷宮主とは言っても蝶々──じゃなくて蛾だったな──じゃ戦闘能力は低いだろうな。こいつの厄介さは悪夢だろう。


 何も知らず大人数で挑めばあっという間に幼体に殺される結果となる。それをくぐり抜けたらあとは簡単、サクッと幻影迷夢を倒すだけっ!



「それじゃあ白霊草モーリュを採取しますか」


「おぉー! ……所でどこに生えてるんです?」



 琴香さんの言葉に俺がズッコケる。普通に返事を返したから知ってるもんかと勘違いしたからね。



「……白霊草モーリュ。見た目はクリスタルのような半透明な花弁で、大きさは大体15センチほどらしいです。なに分500年以上前の情報らしいので正確な情報かは実物を見るまでは謎ですが」


「ほうほう、その通りなら絶対に綺麗なお花ですね! ぜひ写真を撮りた──……スマホ、無いです……」



 琴香さんが1人で勝手に盛り上がって、勝手に落ち込んでいる。



「場所はサリオンさんからも森の奥地としか聞いてません。ですので群生地を探す予定をしていたんですが、希望的観測が当たりました」


「どういう事です?」



 俺は琴香さんの疑問に答えるために、少しだけ足を動かしてある場所に移動する。その視線の先には、1匹目の幻影迷夢がストローのような口から飛ばした白っぽい水が付着した場所だった。



「琴香さん、幻影迷夢の食事ってなんだと思います?」


「え? えっと……樹液、ですか?」


「それも正解のうちの1つですね。他にも果汁とか、水分の多いものを好むようなのは日本の蛾と同じです。ならもう1つ当てはまる奴があります……花の蜜です」

 

「花の、蜜…………あぁ! 幻影迷夢は白霊草モーリュの蜜を主食にしていたんですね!」



 俺はコクンと首を縦に振る。琴香さんの気づいた通り、幻影迷夢は白霊草モーリュの花の蜜を食べるとサリオンさんは予想していた。


 そして幻影迷夢は口から白っぽい水を噴射した事から、その予想を裏付ける結果となったのだ。



「つまり、さきほど幻影迷夢が飛んできた方向に白霊草モーリュの群生地がある可能性が高いんです」



 その予想を元に、俺たちは2匹目の幻影迷夢が飛んできた方向へ足を運ぶ。そして探すこと数分、周りの木々に比べてより長く、より太い木々が集まる場所を発見する。


 そこは中心箇所を囲むように木々が生えており、まるでその中にある何かを隠し守るような育ち方をしていた。そして……。



「あった」



 囲むように生えた木々の隙間を通って中へ入り込むと、そこには白い花が沢山生えていた。

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