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147話~F級~

 何時間が経ったのだろうか? そう考えるほどまでに僕は木剣を振り続けていて、とうの昔に手の皮もめくれていた。足の方もガクガクだ。そして……。



「今日はここまでだ。怪我にはちゃんとしたケアをするように……まぁ、それも教えてやる」


「はっ、はっ……ぁ、っ……あ、りがとう……ございまし、た……一香さん……」



 最初の時のように床に寝転がった僕に向けて、訓練の終了の合図が告げられる。



「そうそう、これから訓練の時は一香さんではなく、師匠と呼ぶように。空、分かったか?」


「りょ、了解です……師匠!」


「くぅぅっ! その響き最高だ!」


「………」



 まるでストゼロをキメたかのような声を出して喜ぶ一香さん──今日はもう終わったし師匠とは呼ばない──を見て、僕は冷めた目を向けた。



「ひやぁっ!?」


「はは、可愛い声出すなお前!」



 首筋に冷たい物が当たり変な声を出してしまった。とっさに起き上がって確認すると、一香さんが買いたてのポカ〇を持っていたので、それを首筋に当てられたのだと理解する。



「ほらよ、ちゃんと水分補給しとけ」


「ふぅ、ありがとうございます」



 一香さんからポ○リをありがたく受け取る。うわぁ~、ポカ〇ってこんなに美味かったか!? 感動したよ! あ、ちなみに訓練中も水はちょっとずつ飲んでいたからな?



「よし、なら今から発現者申請に行くか」


「はいぃ~」



 できるならもう1歩も動きたくないが、ここに来た目的を果たさない訳には行かない。重たい体をグッと力を入れて立ち上がる。


 一香さんの後ろについて行き、僕はシャワー室に案内された。確かにこんな汗臭いまんまじゃ迷惑だしな。ついで洗濯もして貰った。


 後で知ったのだが、こういったオプションはD級からしかないらしい。それ以下はお金を払わないと行けないんだとか。一香さんに感謝だな。てか……稼ぎの少ない低等級からさらに搾り取る。これが資本主義か……。


 ちなみに着替えの服はここに来るまでに買ってあった服を着た。ふわぁ~、久しぶりの男性用の服! 最高っ!



「2時成長が来たら女性もの着れなくなるが良いのか?」


「いいに決まってるでしょ!?」


「ちぇっ、もったいない……」



 一香さんがちょっと残念そうにそう呟いたのを僕は聞い逃さなかったぞ。全力でお断りだ!



「なぁ、こいつの発現者申請頼むわ」


「あ、はい。かしこまり──江部一香さん!? 久しぶりですね!」



 カウンターの受付嬢さんが嬉しそうに笑顔で挨拶をする。顔なじみなのかな? そう考えていると、受付嬢さんは僕に目を向ける。



「そちらは従弟いとこさんですか?」


「いや、私と同棲してんだ」


「えぇぇぇっっ!?」



 誤解を招く言い方を聞いた受付嬢さんが、僕と一香さんを交互に見て、気持ち悪い笑みを浮かべながら「デヘヘへ、男の子が受けかな……?」とか呟いていた。本当にやめてください!



「両親が居ないんで引き取られただけです。それよりも発現者申請をお願いします」


「あ、はい、すみませんでした。では、こちらの黄色の札をお持ちになって、向こうへ進んでください。わざわざ一香さんが連れてきたって事は、きっとB級以上はありますよね!」



 受付嬢さんが当然だと言わんばかりに、軽い世間話のように呟いた。別にその言葉自体は普通だろうし、彼女にも悪意はないだろう。だってS級探索者の一香さんが付き添いで来たんだ。


 B級、と言うのも引き取られた事情を考慮した発言だろうな。多分、何も知らない人間ならA級発現者の誕生だ! と無意識に喜ぶだろうから。でも、僕はF級だ。



「残念ですが、僕はF級ですよ!」


「え?」



 そう思われることは最初から覚悟していた。だから僕はにこやかなに笑いながらそう言い、案内された場所へと向かう。


 職員さんに黄色の札を渡し、部屋の真ん中にある巨大な蒼色っぽく半透明な水晶を見る。その水晶は台座に乗せられており、その台座に記録が書かれるそうだ。


 職員さんに促され手を触れると、機会を操作して計測が開始される。……変な感覚だな。まるで撮られているという違和感のあるレントゲンのようだ。はっきり言ってこの感覚は好きじゃない。


 まことに残念だが、今回は発現者申請で魔力から等級を測る。しかしこれはあと、最低でも1回しなければいけないらしい。再発現が起きたらさらにもう1回。最大で3回もこれを受けるのはマジ勘弁だな!


 

「え、F級ですね。あと、系統は無しです」


「F級ですか?」



 職員の少し言いにくげな言葉を聞き、一香さんの言う通りだな、さすがS級探索者は優秀だ……と僕は考えた。しかしその考えを僕は捨てる。


 だってやっぱりS級だから、なんて理由は一香さんは1番嫌がるからな。一香さんは見る目がある! そういうことにしておこう!



「き、気を落とさないでください。探索者としての数は少ないですが、発現者自体の数はある程度いるので……」



 職員さんが子供の僕を傷つけないように、できる限り言葉を選んで発言をしていた。確かに中学生なら絶望で自殺……する奴もいるかもな。僕もだけど多感な時期だし。



「いえ、結果自体は確信に近い推測で知ってましたから大丈夫です。ありがとうございました」


「は、はぁ……お気をつけて……?」



 職員さんにお礼を告げて、僕は待っていた一香さんの元へと戻る。職員さんは変な子供でも見るような目で僕を見ていた。酷いっ!?



「すみません、待たせてしまいました」


「気にすんな、私も今来たところだ」


「あ、デートの待ち合わせとかじゃないでそういうのは結構です」


「けっ……落ち込んじゃいねぇみたいだな? 等級は?」


「はい……F級でした!」



 こうしてこの日、僕は発現者となった。そして僕が師匠の弟子となった日でもあった。

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