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146話~弟子入り~

「あはははは! やっぱ女性用の服似合ってるじゃねぇか!」


「笑わないでください!」



 あの後、一香さんは特に何も言うことは無かった。今は服を買い忘れた一香さんを恨めしそうに睨みつけながら、今日も女性ものの服を着て寝ることに怒りを顕にした僕を、大声でゲラゲラと笑い続ける一香さんとの口論の最中だ。



「なぁ、やっぱり写真撮ろうぜ!? ネットに上げて見せないのは勿体ないが、記録すらしないのは人類に対する冒涜だと思う!」


「ただの黒歴史にしかならないのでマジで勘弁してください!」



 そして男性用のパンツにスカートを履いた僕のスカートをめくろうとしてくる一香さんから逃げ回ってもいた。



「もう、せっかく大事な話をしようと思ったのに!」


「よしなんだ聞かせろ?」


「切り替え早いですね……」



 僕がそう言うと一香さんはキリッとした表情でソファーをトントンと手で叩いて誘導してくる。



「一香さん……僕に、探索者になるための師匠になってください」


「良いぞ」


「た、確かにS級探索者が、推定F級ぐらいの僕に時間を割くのは非現実的です」


「そう言うのは引き取った時から決めてたから問題なしだ」


「ですが、僕は水葉を守れるぐらい強くなりたいんです! 養ってもらってる身で図々しいですが、お願いします! ……え?」



 僕は断られる覚悟で告げたのだが、一香さんはむしろなんでそんな当たり前のことを言うんだ? と言いたげな表情でこちらを見ていた。え……良かったの? 最初から決めてたって……えぇぇぇっ!?



「ぁ、あり、ありがとうございます!」


「ただし、私は中途半端なことはしない。F級だろうがなんだろうが関係ない。辛くて逃げ出したくなる時もあるだろう。それでも、やるんだな?」


「もちろんです!」



 丁寧にお礼を告げると、ビシッと人差し指を立てて覚悟を問うてくる一香さんに、僕ははっきりと肯定した。



***



 その次の日。男性用のジャージを買ってきた一香さんにお礼を告げ、それから男性用の私服を買いに行った帰りに、僕はとある場所に連れていかれていた。



「嫌だァァァァァァっ!!!」



 そこで僕は叫びながら、一香さんが振るう木剣から逃げ回っていた。


 一香さんが木剣を一薙ぎする度に軽い衝撃波が発生し、僕はそれを避けるのに必死で、最初に手に持っていた木剣はとうの昔に重りと化していたので床に投げ捨ててある。


 死ぬ、死ぬっ! 冗談抜きに死んじゃうっ! 何が「今から模擬戦な!」だ! これは実戦であって模擬戦じゃない! 嘘つき!



「ごふっ!?」


「お前、昨日の『もちろんです!』はどこ行った?」



 逃げ回るもついに腹に重い一撃を当てられた僕が吹き飛び、壁に叩きつけられた。一香さんは呆れた様子でため息をつき、そう尋ねてくる。



「………一つだけ、教えてください。なんで僕の等級審査も系統も調べずに、いきなり探索者組合大阪府支部のトレーニングルームで模擬戦なんです?」



 床に倒れ込んだ状態から、僕はそう尋ね返した。ここは探索者組合の大阪府支部。近畿、中国地方を拠点とする白虎組合の本拠地が置かれている都市でもある。


 そこに連れてこられた僕は当初、ちゃんとした等級審査や系統を調べ、発現者申請を済ませ、手に馴染む武器を取り揃えたりするものだと思っていた。


 まだ僕の年齢では探索者として迷宮に潜ることは出来ないが、いつでも出来ることは先に準備するものだと。しかし、一香さんは着くといきなり模擬戦を仕掛けてきたのだ。


 S級探索者に勝てるわけがない、状況を把握するために逃げ回った僕だが、今しがたボコボコにされ、ひと段落ついた所でこうして尋ねた訳だ。



「理由は2つある。1つ目、んなもん調べなくても戦えばすぐに分かる。空はF級発現者。しかも、特出した部分はない。まずサポーターにしては動けるからアタッカー。魔法を使えないからそれ以外の3つ。だがどれも目を見張るものは無い。よって、お前は器用貧乏。本当に最底辺のF級ってこった!」


「っ……」


「そんな結果を、時間を掛けて変な期待を抱いて砕かれても困るからな。私が直接教えてやった」


「なる、ほど……」



 すっきりと納得は出来なかったが、否定できない時点でその意見に頭では正解なんだと理解している。ただ、ちょっとだけ悔しかった気持ちは何なんだろうな?



「2つ目、急激な状況変化についてこれるかの確認。これはまぁ、最低限は合格だった。一番ヤバイのは何もすることなく、動けずにボコボコにされる事だからな。だが、私からの攻撃に反撃はしなくても逃げるという選択を取ったからまぁ、最低限って訳だ。理解したか?」


「……はい」



 お前はダメだと、そう言われなくて良かったと僕は一安心した。そして起き上がり、首を左右に振りボキポキと鳴らした。ついでに指も……。



「分かりました。では、もう一度お願いします!」



 木剣を構え、大きな声でお願いする。理由は聞けた。なら後は……僕がどれだけやれるかだ。実力という意味ではない。S級探索者という規格外の存在に、僕の心が折れるかどうかの……だ。



「へっ、やっといい面構えしやがったな。良いぜ、怪我するギリギリまでボコボコにしてやんよ!」



 僕たちの訓練の一日目は、こうして始まった。

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