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141~決意~

「あの、父さんとはどんな知り合いなんです?」


「お前の父親を私の組合に誘ったんだ。ま、断られたがな」


「え、なんで、もったいない……」



 あの四大組合の1つ、白虎組合に誘われるなんて。僕なら即答でOKと返すのに。



「そりゃお前、子供が二人いたからだろ」


「っ……そう、ですよね」



 車で話していた内容を思い出し、なんとも言えない表情になってしまった。



「それで、その理由で僕を引き取ろうとしたんですか? 残念ですけど、多分僕は弱いですよ?」


「知ってる。E級かF級だろうな」



 そうなんだ。S級探索者の江部一香さんが言うんだから、間違いはないだろう。僕の場合は命を賭けて、平均年収よりちょっと上辺りを目指す事になるな。いやそれよりも……。



「ならどうし──」


「お前に惚れたからだ」


「はぁっ!?」



 僕みたいな雑魚をS級探索者がスカウトするなんておかしいと重い理由を尋ねようとしたら、なんか急に告白された。驚きで変な声が漏れる。



「いやすまん、言葉足らずだった。正確には妹を守ろうとする強い意志に、だ。お前を近くで見たくなった」


「……それは、僕を探索者としてスカウトし、僕達兄弟の保護者となって下さる……という認識で間違いは無いですか?」



 ちょっと強引に、欲張り気味の要求で尋ねてみる。ここから少しずつ条件を下げていくつもりだった。



「あぁ。但し、お前には探索者と言う仕事を強制するぞ。就職したいと言っても認めん。その代わり、お前たち兄弟を私が食わせてやろう! どうだ?」



 だが、要求は全て通った。探索者として力の弱い僕たちの保護者として居てくれるなんて、なんてありがたいんだろうか……。


 いや、正直言うとちょっと信じられなかった。でも、全くもって嘘をついているような雰囲気には思えなかった。



「……ありがとうございます。これから、よろしくお願いします!」



 僕はそう言って頭を下げた。ここから僕の、家族を守る人生が始まるんだ。働けるようになったら、何一つ不自由をさせないようにしよう。



「そう言えばそっちの妹の意思は尋ねてねぇけど良いのか?」


「そうですね……ですが、僕たちを引き取ってくれるような親戚もいません。2人だけじゃ生きていけませんので、納得させてみせますよ。……全く、いつまでも寝ているだけなんて、困った妹です」


「嬉しそうにしか見えねぇぞ?」



 眠った水葉のサラリとした髪を撫でながら、小さくため息を吐いて呟く。でも、江部一香さんには僕の本心は見破られていたようだ。



「とりあえず医者には見せたのか?」


「いえ……でも、眠っているだけです。今日か明日にでも目を覚ますでしょう」


「そうか……」



 正直言って、その記憶は無い。だが、無意識ながらも家族を守った僕が、眠る水葉を医者や回復系探索者に見せないはずがない。僕は僕の、家族についての判断を信じてるからな。



***



「……はい? い、今なんて……?」


「永眠病……それが妹さんの病気です」



 次の日、目を覚まさない水葉を医者に見せて言われた病名がそれだった。予想通り、僕は昨日のうちに回復系探索者の人に水葉を見せていたらしい。


 だが、命に別状も無く、怪我など一切していなかったからこそ予想出来なかった。まさか、迷宮崩壊で負ったのが物理的な怪我ではなく、病気の方だとは……。



「そして残念ですが、現在、治療法は存在しません」


「ぁ……うそ……」



 医者に、トドメの一言を告げられた。僕の心はそれで、粉々に挫けた…………という事は無い。何故なら……。



「迷宮には瀕死だろうと元に戻せるポージョンが存在する。どんな病気も治せるような魔道具も存在する可能性は、ある」



 江部一香さんにそう言われたからだ。治る可能性はある。なら僕はもう折れない。逃げない。諦めない。水葉を守るためになら、こんな命は惜しくない。また……。



「お前の妹があぁなった原因は、私にもある」



最初にそんな事を告げられた時には怒りが湧いてきた。しかし、詳しく事情を聞くと納得もできた。まず、今回の迷宮崩壊が起こった理由を説明しよう。


 ザックリ言うと、白虎組合の2軍が迷宮攻略に失敗し、そのせいで迷宮崩壊が起きた。江部一香さん達1軍も急いで駆けつけるも間に合わなかったらしい。


 溢れ出るモンスターはほぼ逃がさず掃討したらしいが、1部のモンスターは取り逃したそうだ。それによって大勢の人間が犠牲になった。


 一香さんはこれを自分のせいだと言うが、僕は水葉と共に助けてもらった。それもあるが、文句を言うのはお門違いだろう。


 もちろん、被害者の方には白虎組合を責める声も多数ある。僕は助けてもらったからであって……多分、この意見は少数派だ。


 なにより、この人を責めた所で母さんたちが生き返るわけじゃない。仲を悪くするのはダメだ。



「だからもしもの時は、S級探索者の私がお金を出そう。お前は一生を掛けて私に返済をする。その条件も飲むよな?」



 江部一香さんはそんな提案も告げてきた。当然、僕はそれを飲んだ。向こうは負い目もあるのだろう。僕は、それを利用させてもらう。


 自分でもやってることは、自分の身に起きたことを考慮しても酷いやつだとは思ってる。でも……僕の1番は水葉だ。それだけは、絶対に揺らぐことのない普遍の心理。


 こうして、僕と江部一香さんの関係は始まりを告げた。

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