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13話~水葉~

 病院にいる水葉に会うため、僕は街中を走って向かっていた。今までは自転車で向かっていたんだけど、今日からは強くなったこの体を慣らすためだ。


 あと信号待ちや人混みとかで足止めを食らうのは嫌なので、あまり人通りの多い大通りは通らないようにしている。



「主人、大丈夫かの?」



 それでも通ってしまう数少ない信号で立ち止まっていると、小さくなって内ポケットに入ったエフィーが僕を心配して尋ねてくる。



「うん。全然平気、かな……」



 本当にすごい。体力の減りが目に見えて少ない。息もあまり上がってない。さすがに自転車には敵わないけど、大幅に足も早くなってる。E級ぐらいには成長したんじゃないのかな……?



「エフィー、ありがとうな」


「な、なんじゃいきなり? まぁ、我は存在するだけでお礼を言われーー」


「よしもうひと頑張り」


「は、話を聞くのじゃ〜!」



 エフィーの話の途中で信号が青に変わったのを確認した僕は、病院に向けて再度走りだした。



***



 僕は病院に着くとすぐに軽い手続きを済ませ、水を一口含んでからすぐに妹の病室に入る。すぐベッドに寝かされた、寝たきりの妹の顔が視界に入る。


 お、前から少し髪が伸びてるな。血色は相変わらず普通と変わりない。……水葉は相変わらず目覚める様子はない。両親を亡くした5年前からずっと……。



「久しぶり水葉」



 僕は元々用意してあったパイプ椅子に座り、軽く水葉に挨拶をする。



「ほほう、これが主人の妹かの? 確かに、少しだけじゃが面影があるの〜」



 エフィーがポケットから飛び出し、ベッドに着地して水葉の顔をまじまじと見つめてそんな事を呟いた。



「じゃが、容姿に関しては比べるのもおこがましいレベルじゃの。全く、神もなんと残酷な事を……」



 自覚はしてたけどエフィーが一番残酷だよ!? ……まっ、水葉のこと褒められたから良いか!



「あはは、ありがと。……水葉はね、5年前から目覚めないんだよ。ずっと寝たきりでさ……。同じような症状の人も少ないけどいるらしいんだ」



 永眠病……ずっと眠っていることから、不眠症の対義語みたいな感じに命名された病だ。


 心身に損傷を負って魔力に対する抵抗力が一時的に減った時、強すぎる濃い密度の魔力を浴び続けた結果、肉体は崩壊する。それを阻止し、肉体を維持するために眠り続ける……それが永眠病。



「薬もあるにはあるけど……迷宮から取れる希少なアイテムを、特殊な技術で加工してできる物らしいから、とっても高い。何億とか、人が一生をかけても稼げるか分からない額なんだ……」



 確か薬の効力は魔力に対する抵抗力を高めたりするような効果だったりする。これがあれば助かる……僕は探索者を選んだ。大学なんていって安定した収入なんかじゃ水葉は救えない。



「……今の僕じゃ、自分の生活と入院費、治療費だけで精一杯なんだ。……でも、今は違う。エフィー、君がいるからだよ。君と出会った時、僕は運命だと思ったよ。君は水葉を助けられる唯一の希望なんだ。……改めて、これからも僕と一緒にいてくれるかい?」



 僕は真剣な顔で僕の話を聞いてくれていたエフィーに尋ねる。家でも契約をやめたりはしないと言ったが、その時エフィーはこの事情を知らなかった。だから改めて尋ねる。


 これは僕の自分勝手な都合だ。向こうから言い出したこととはいえ、今度は契約を向こうから破棄されるかもしれない。


 それでも、僕はこのことをエフィーに説明しないと自分の心が許せなかった。エフィーを騙しているかのような気がして……。



「主人よ、何を言っている? そんな事は当たり前じゃ」


「え?」


「主人は我と契約しておる。ならば最大限、我を利用すれば良い。その代わりに、我も主人を利用しよう。例えばそうじゃな……今日のご飯も美味しいのを頼むぞ、とかじゃ!」



 エフィーは屈託のない笑みをにこりと浮かべる。



「……そんなことで、良いなら……」



 僕は予想以上にとんとん拍子に進む約束に、動揺をしつつ涙が出そうになるのを我慢してそう返した。



「うむ!」



 ……はは、あはは。僕の方がおかしかったのか? いや、どう考えてもエフィーの方がおかしいと思うけど。


 でも、エフィーがそう言うのなら僕はもう遠慮とかしない。F級探索者だからとか関係ない。僕は水葉を助ける。そのためにこの力を使う。



「水葉、また来るよ。……必ず、僕が目覚めさせるからね」



 僕は水葉にそう告げて、その場を後にした。

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