134話~家族愛~
買い物を済ませた僕たち家族は、父さんの車に乗り込んで帰宅していた。
「えへへへ〜」
「本当に仲が良いのね〜」
僕の横に座り、腕を全身で包み込もうとする水葉を見た母さんがそう溢す。
「僕としてはそろそろ兄離れをしてほしいけどね?」
「空ちゃんだって妹離れしないといけないわねっ?」
「は、はぁ? 僕はとっくにしてるし……」
水葉の頭を撫でながらそう言うと、母さんがふふふ、と笑いながら細めた目を向けて言ってきた。僕は顔を逸らして否定する。
「兄さんの隣は私だも〜ん。そのためにいっぱい勉強してるし、家事とか頑張ってますから。あの女には負けませんっ!」
「ありがとう水葉。でも穂乃果の事をあの女呼ばわりはやめてあげて。年上なんだし、翔馬みたいに穂乃果お姉さんとか──」
「お義姉さんは絶対に嫌です」
「あ、そっすか……」
ん? 水葉と少しだけ単語に差異が生まれてた気がするんだが……? 気のせいか……!
「……空、水葉」
「なぁに父さん?」
すると父さんが急にかしこまった声色で僕たちの名前を呼んだ。すかさず水葉が反応する。
「実はな……お前たちにずっと黙ってきてた事があるんだ」
「え? ……なんか聞きたく無いかも」
僕が引き気味にそう漏らす。実は借金があるとかかな? 漫画だとこの展開は……引っ越し、遠くから居候が来る、実は僕たち血の繋がった兄弟じゃ無い……。いやいや、さすがにそれは無いでしょう!?
「なんです父さん! 教えてください!」
なんてバカな妄想をしていると水葉が食い付いた。
「ふっふっふっ……」
と父さんが笑う。あ、この反応は良い報告だ! 良かった〜! 暗い話じゃなくて良かった〜! って事は……昇進でもしたのかな? それか……3人目でも出来たとか?
「実は父さん……発現者になったんだ! すごいだろっ!」
「「おぉー」」
「反応薄く無い!? 父さん10分ぐらい小踊りしたぐらい喜んだのにっ!?」
父さんがドヤ顔で報告してくるが、僕たちの反応は予想よりもしょぼい事だったので微妙だった。父さんがあまりの反応の乏しさに泣いた。
「でも等級を言わないって事は、EとかF級だったんでしょ?」
僕が笑いながらそう言う。水葉も激しく同意するように頷いた。
「ふっふっふっ……なんと、B級になりましたっ!」
「「うそぉぉぉおっっっ!?!?!?」」
ゲス顔でVサインを決める父さんに、僕たちが驚愕の声を上げる。いや、だって……B級!? 年収頑張れば一億超えるって聞いたことがあるけど……マジでっ!?
「でもなぁ、お前たちも育ち盛りだし、命の危険がある探索者になるのはやめとこうかなって……」
「……母さんはどう思ってるの?」
「私? 私としては、水葉ちゃんが結婚して孫を産むまではやめてほしいかなって……。探索者なら、確か歳の衰えも緩やかになるらしいじゃない? その時にでも父さんがなりたいって言うなら、応援してあげるのが妻ってもんでしょ?」
なるほど。僕たちが1人でも生きていけて、孫を見たいと言う目標を達成した後なら自由にしてほしいと……。それまでは親としての勤めを果たすってことか……。
「でもねぇ、私は発現してないから、あなたよりも早く老けちゃうのか〜って考えたら嫌になるの」
「私、母さんは見た目30代前半だし大丈夫だとおもうわ」
「ありがとう水葉ちゃん」
母さん、めちゃくちゃわかく見えるからな。って事は水葉も綺麗になってからの時間が長いってことか? 良かったな。
「はは、私はどんなに歳を取ろうとも、シワが増えようとも君と一緒にいるよ?」
「やめてよもう、子供達の前で」
「ごめんごめん」
父さんがどんな母さんでも綺麗だよ、と告げると、母さんが珍しく照れて父さんを小突く。いつまで経っても仲のよろしい事で……。
「兄さんも、私といっしょに居てくれますか?」
「ん? 当たり前だろ? 兄弟なんだから」
「えへへっ」
水葉が笑いながら手を繋いできた。ギュッと握りしめ、一生離さない、と言いたげなぐらい強く。
「ねぇあなた、あれ、何かしら?」
「ん? どれだ?」
すると母さんが何か不思議なものを見つけたような言葉を漏らし、父さんもそれに釣られて見る。僕たち2人も横の窓からなにがあったのかを見ようとした。
その次の瞬間、激しい衝撃が僕たちを襲った。




