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131話~決心~

「ただい──」


「空ちゃ〜ん!」



 扉を開けて家に入ろうとした瞬間に母さんが飛び出してきた。俺は何事も起こらなかったかのように冷静にそれを避けた。


 母さんは俺と水葉を通り過ぎ、そのまま開けた扉を通って外へとリリース。扉と鍵を閉める。よし、駆除完了っ!



「空ちゃん開けて〜! 私、母さんよっ?」


「だからだよ。帰ってくるなり抱きついてこようとする母親なんて、この歳の子供にはいろんな意味でキツいわ……」



 息子ラブはいい加減にしてほしい。しかも水葉の前だと余計に恥ずかしいし、軽く拒否感が出てくる。



「ですね。理由もなく抱きついて良いのは妹である私だけの特権です」


「あれ、そうなの?」


「そうです」


「そうなんだ……」


「そうなんです……!」



 水葉が圧のある声で力説してくる。そうなんだー。



「開けて〜〜〜っ!」



 仕方がないから開けてやった。ちなみに開けた瞬間にまた抱きついてこようとしたので避ける。やっぱ閉めとけば良かった。



「空ちゃん酷いわ! 母さんの何が不満なのっ?」


「40代近くはさすがにキツいと思いますよ、母さん」


「水葉ちゃんまでっ!?」



 生暖かい目で母さんを見る水葉の目を見た母さんがショックを受けた顔をする。だが……水葉の言う通りだ。



「ほら、兄さんも言ってやってください。抱きついて良いのは妹である私だけだと……兄さん? なんで泣いてるんですかっ?」


「え?」



 笑顔で話しかけてきた水葉が急にそう言ってくる。俺は戸惑いながらも目元に手をやると濡れていた。……目から涙が溢れてきたからだ。



「……あれ、なんでだろう?」



 訳が分からなかった。急に花粉症とかになったのか? 拭いても拭いても涙は零れ落ちる。



「もしかして母さんに抱きつかれるのが嫌だったの、兄さん?」


「えぇ!? そんなに嫌だったの空ちゃん!?」


「ち、違うよ……なんでだろう? 分かんないや。あははっ」



 理由の分からない涙を流しながら、僕は笑ってそう言った。しばらくすると涙は止まった。一体なんだったんだろうか……?


 何事だと心配する母さんに水葉だったが、僕は大丈夫と告げて自分の部屋に戻る。鞄を置き、制服から着替える。


 なんだか今日は、朝から気分が変な感じだ。僕が俺じゃない……とまではいかないな。だが少しだけ違和感がある。



「……はぁ、アクセサリー作りでもするか? それとも普通にクリアしてないゲームか、まだ積んであるラノベでも……。ダメだ、なんもする気になれない。昨日までなら何か一つに手を出してたはずなのに、今はその時じゃないって感情になる。じゃあいつやるんだよって話だけどな……ははっ」



 不思議な感覚に、俺は独り言を呟きながら、から笑いをした。疲れた……一眠りしよう。そう考え、俺はベッドに潜った。…………すぅ……すぅ……。



*****



 学校が終わると、空は即座に帰宅しだす。部活は確か、水葉が会える時間が減るの嫌です! と駄々をこねた結果、入るのをやめたんだったな。


 水葉もあの頃は小学2年生になったばかりでまだ7歳。しょうがないな〜、と思いつつ断腸の思いで諦めた気がする。まぁ、結果的にはやらないでおいて正解だったけど……。


 翔馬や穂乃果、隣に立つ水葉たちと楽しげな会話をしながら、空は歩き進む。本当、バカみたいにくだらない話し合いだ……でも、この頃は楽しかったなぁ……。


 その後、家が近くなり2人とは別れた。水葉が空をなんとか慰めようと、言葉を選びながら褒める。なんて優しい子なんだ……。


 空が扉を開けると、母さんが飛び出してきた。この日常も懐かしいな……今は避けてるハグも二度と味わう事ができないんだ……。


 俺がそう思っていると、突然水葉と母さんの2人が戸惑いながら空を心配してきた。空は……泣いていた。明らかに不自然だし、こんな記憶は無かったと思う。


 ならなんで……? と疑問に思って、しばらく考えて理解した。さっきの涙は、空ではなく俺の涙だったと……。


 俺の思いが空へと届き、結果は涙として現れた。……つまり、これが悪夢とは言え、過去を修正したことになるんじゃないのかっ?


 なら……既に決まった破滅への道を、悪夢だけでも変える事ができるのではないか? ……なら、やるべきことは一つだ。


 俺の思いを空に届けて、これからの行動を変える。空自身も自分の起こす行動に理解はできないだろう。だがそんなものは無視だ。


 俺が空を動かして、あの出来事を起こさなければ、悪夢内だけでもみんなは助かる……かもしれない。むしろ悪化する可能性もあるが……今は、これに賭けるしかない!


 俺はそう決意した。これが俺の、贖罪の1つになると信じて……。

小説を書き続けて2年10ヶ月。初めてコンテスト(HJ小説大賞)で1次選考を突破することが出来ました。ありがとうございます。

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