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129話~幸せがあるからこそ絶望は際立つ~

「行ってきます!」


「空ちゃんいってらっしゃい」


「いい加減そう呼ぶのやめてよ母さん!」


「嫌よ〜、空ちゃんは空ちゃんなんだから」


「はぁ……」



 ご飯を食べ終わった空はすぐに準備を済ませて家を飛び出した。母さんの呼び方は恥ずかしいからいい加減やめて欲しいけど、多分成人するまで呼ばれ続ける気がするな……ってこの頃は思ってたな。


 空が中学校に着くまで少し時間がある。落ち着いて考えよう。まずこれは悪夢、つまりは夢だ。俺は5年前の俺……空の記憶を追体験しているんだと思う。


 そして、俺は意識がある以外は何も出来ない。例えるなら、空を自動追尾するドローンになった気分だ。


 しかし見られている空は当然俺には気づかない。俺からも空に干渉することは出来ない。懐かしさもあまり感じず感情の機微も少ない。ただテレビを見るような気持ちだ。


 そして、それが意味することは……これから始まる悲劇に、何も対応することも出来ない地獄を味わうと言うことだ。



*****



「よっ、おはよう空」


「おはよ翔馬! ちゃんと漢字プリントやってきたか?」


「毎回小テストでも満点取ってるって言えば分かる?」


「分かったが1発殴らせろ」


「おいばかやめろっ!」



 もうすぐ中学校に着く所で、翔馬が僕に話しかけてくる。そのまま他愛の無い会話を交わしつつ、2人で校門を潜った。



「お、おはよう空君!」


「おはよう穂乃果ほのか!」



 僕が教室に入ってすぐ挨拶をしてきたクラスメイトの女子、小鳥遊穂乃果たかなしほのかさんに挨拶を返す。


 彼女とは小学校からの幼馴染で親友! 翔馬と3人でよく遊んでいたんだよな〜。



「あれ、僕は……?」


「え? ……あっ、おはよう諸星もろぼし君」


「お、おはよう小鳥遊たかなしさん」



 翔馬が複雑そうな表情をしている。確かに小鳥遊さんの対応が少しだけ雑だったが、それは急だったから仕方がないだろ!



「空君は宿題をちゃんとやりましたか? まだなら私のを写させて──」


「ちゃんとやったから大丈夫だぜ!」


「あ、はい……」



 僕が元気よく心配しないで! と返すと何故か小鳥遊さんは少しシュンとした顔をする。



「空、宿題をちゃんとやってくるとか最低だな」


「意味わかんないんだけど!?」



 僕たちがそんな会話をしているとチャイムが鳴る。いつもの学校生活が開始された。



「うぉっ!? おい、空見てみろよ!」



 そして時間はお昼休みだ。昼ごはんを食べていると、翔馬がスマホを見せてきた。僕は「おいこら校則違反だぞ……」と言いながらも覗き込む。



「うわ、すげぇな……」



 そこには『アメリカでS級迷宮が出現するも、3時間で攻略完了』と言うタイトルのネットニュース記事が写っていた。


 詳細を読むと、どうやらアメリカのトップクラスの組合が近くにいたらしい。偶然とはいえそんな短時間で簡単に攻略できるもんじゃないんだけど……さすがはアメリカだ。



「やっぱりアメリカは凄いよね」


「人数も人種も土地も、圧倒的に絶対数が違うからなぁ。日本在住のS級探索者ならお年寄りにも名前程度の知名度はあるけど、アメリカじゃS級探索者はちょっと顔の売れた芸能人みたいな扱いだし」



 S級探索者の数が多くなれば、必然的にそれだけ注目される頻度も減る。日本とアメリカでは、S級探索者と言う肩書きの重みがまるで違うのだ。



「それに向こうにはさらに上がいるしな〜。僕でもS級探索者には一度しか会った事ないのに」


「そうだな……てか会ったことあるのかよ。誰?」



 僕は興味津々に尋ねる。今の日本にはS級探索者が5人いる。


 まず東京にある探索者組合本部の本部長。つまりは最高責任者だ。スピード系などのように特化した分野はないが、全体的に高水準で万能系と呼ばれている。俺がもしS級になれるなら、この人のようになりたいとは思っている。


 次に日本四大組合の一つ、蒼龍組合に所属する綾辻烈火と言う炎魔法系探索者だ。この人は2年前、中学3年生と言う異例の若さの時にS級として現れた。日本のS級としては最年少の探索者でもある。


 ちなみに本来なら高校を卒業した19歳以上の人じゃないと探索者登録は出来ないのだが、S級の綾辻烈火には特例が降りた。


 それに玄武組合、朱雀組合、白虎組合も同じように1人ずつS級探索者がいる。またどの組合もA級探索者を数人抱え込んでおり、A級迷宮ならば単一の組合でも対処可能と判断されている。



「聞いて驚け、S級強化系探索者の江部一香さんだぞ! 凄いだろっ!」


「お〜!」



 江部一香さん。女性でまだ20歳と2番目に若い。また四大組合の一つ、白虎組合のマスターでもあるな……。



「……少し反応薄くない?」


「いや、S級と会ったって聞いた時が一番の驚きで、誰かは大して重要に思えなかった」


「そっちから聞いといて酷い!?」



 翔馬が憤慨するも、僕は『あはははっ』と笑った。それから午後の授業も眠気に耐えながら受けて、俺は中学校の1日が終わりを告げた。



*****



 学校に向かってすぐ、空は翔馬に出くわした。まだ少し幼さが残る翔馬を見ても、あまり懐かしさは感じなかった。


 そしてここから変化が訪れた。小鳥遊穂乃果たかなしほのかと言う、俺の記憶に存在しない少女が現れたのだ。



「っ!?」



 直後、頭に激しい痛みが走る……。触覚とか、無かったはずじゃ……? ……ふぅ、治った。なんだったんだ……?



 そんなことがありつつも授業が始まった。今となっては簡単だ。だが懐かしさを感じつつ結構真剣に授業内容を聞いていた。


 お昼休みになった。そこで師匠の名前が出てくる。……僅かだが、少しだけ胸のあたりがゾワっとした。……今は肉体がなくて、精神体だけの状況だけど……。


 少しずつだけど、俺の意識が悪夢に慣れてきたのだろうか? そう考えていると、いつの間にか学校は終わっていた。

過去編はカメラ視点?の空(現在)と、当時の考えそのままの空(過去)が繰り返されます。一人称が俺と僕で変わり、*×5が入るので目安にしてください。


※ただし*×3は場面転換であって視点変更ではありませんのでご注意ください。読みにくくしてしまい、すみませんでした。

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