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124話~あのとき私は~

ヘレス視点

 ララノアについてなどの話し合いがひと段落した後、あたしは部屋のベッドに寝転び、昨日の夜の出来事を思い返していた。



***



 あたしがソラたち人族の監視係を命じられ3日が経った日の夜、あたしは人族たちの監視を離れ、とある場所へと向かっていた。


 別に仕事放棄というわけではない。だが今までに怪しい動きをした人族はいなかったから、多少目を離しても問題はないだろう。それだけだ。



「ララノア〜?」


「……お、姉ちゃん……?」



 ララノアが閉じ込められている場所に向かい、暗い中、歩みを進めて声をかける。するとか細く自分のことを確認するように呼ぶ声が聞こえた。



「やっぱり、お姉ちゃんだっ!」



 ララノアは暗闇でも分かるほどの笑顔を浮かべ、あたしの腰当たりにギュッと抱きついてきた。全く、急に抱きついてくるなんて危ないじゃないの!



「わっ……? ど、どうしたのララノア?」


「だってだって、最近お姉ちゃん来てくれなかったもん! ララノアのこと、嫌いになっちゃったのかな? って……。でもでも、来てくれてありがとうっ、お姉ちゃん!」



 えへへ、と笑いながら頬を擦り付けてくるララノアの頭を撫でる。全く……危ないけど、離したくはないわね。



「ううん、ごめんねララノア。ここ最近は忙しくて……。多分、1ヶ月ほどはあんまりここに来れないかもしれないの」


「え? ……ううん、ララノアは1人でも大丈夫だよ! だって、お姉ちゃんがいるもん!」



 ソラ達を見張るためにここにはあまり来れない事を伝えると、ララノアは悲しげな表情を一瞬見せつつも、すぐにいつものように健気に笑う。



「そうだララノア、ちょっとお外に出ましょ?」


「ふぇ? ……で、でも……また、みんなは怒らないの? ララノア……みんなと違うから」


「違うわ。あなたはエルフの誰とも同じよ。あたしが……あたしやアムラスが保証するわ。それに今回は夜で、多分だけど誰もあなたと会ったりはしないから大丈夫よ。もしもの時は、お姉ちゃんが守ってあげるから……ねっ?」



 ララノアは闇の大精霊様に憑かれた結果、髪の色や肌の色が違う。その力が強大すぎる影響だろう。里のみんなも表面上はララノアを里を救うための救世主と褒め称えるが、内情はただの生贄としか思っていない。


 だが、そう思っているのは大人のエルフだけで、私と同い年辺りのエルフ達からは違う。特にアムラスはあたしと同じくらい、ララノアのことを気にかけてくれる。本当にありがたいわ……。



「……分かった。お姉ちゃんと一緒にお外出る!」


「ありがとう、ララノア」



 その頭を優しく撫でて、あたしはララノアと外に飛び出した。



「どう、ララノア。久しぶりのお外は……?」


「綺麗……すっごく綺麗なの!」



 久しぶりに見る景色に、ララノアは興奮を隠せそうにない。はしゃぎまわり、軽く駆け回る。



「ふにゃっ!?」


「ララノア! 大丈夫?」



 走り回る事も久々だったからか、何も無いところで転んだ。慌てて駆け寄る。



「うん……ぁ、血が……」



 いつものように笑うララノアだったが、膝を擦りむいたらしい。あたしはララノアをおんぶして、水源へと向かう。傷を洗い、手持ちの薬草なら作った塗り薬を塗る。



「はい、これで大丈夫。他には怪我してない?」


「うんっ、ありがとうお姉ちゃんっ! ふわっ!? ……お姉、ちゃん……?」



 屈託のない笑みを浮かべるララノアの事を、あたしはとっさに抱きしめていた。



「ララノア……あたし達の世代が中心になったら、絶対にララノアをちゃんとお外に出せるようにするわ。だから、それまで……我慢できる? 今の大人達が居なくなるまで……長い時間が掛かるけど」


「えっと、我慢すれば……お姉ちゃんと、一緒に暮らせるの?」


「えぇ、時間は掛かるけどね」


「うん! ララノア、お姉ちゃんと一緒に住みたい!」


「……約束ね」



 あたしとララノアはそんな約束をした。ララノアのこの笑顔を、二度と歪めさせたりはしない。……あの日、あたしが犯した間違いは二度としない。



「そうだ、水浴びしましょうララノア」


「良いの?」


「えぇ、バレなきゃ問題ないわ。さぁ脱いで」



 あたしはそう言ってララノアの服を脱がしていく。……ひどく汚れた服。いや、服の形をしたボロ布の方が的確だわ。



「今度、あたしのお下がりでも持ってこようかしら?」



 里のみんなは反対するだろうけど、ララノアと接触する機会なんて無いんだし、バレなきゃ問題は無いわよね……? うん、そうしましょう!


 あとは部屋の掃除もしたいわ! あんな環境は流石に酷すぎるもの。ソラ達が居ても居なくても、最近は忙しくてあまりかまってあげられなかったし……。うん、休みの日に一気にやっちゃいましょう!



「どうしたのお姉ちゃん?」



 服を脱いで全裸になったララノアが尋ねてくる。どうやらあたしが考え込んでいるのを見て不安になったようだ。



「大丈夫、なんでもないわ」



 ララノアの体を見ながらそう言う。年の割に全然伸びない身長や、小さな体……。本当なら、もっといっぱいお外に出して遊ばせて、友達を作って、ご飯を食べて……。



「あ、分かった。お姉ちゃん、お胸小さいもんね! ララノアは気にしないから大丈夫だよっ?」


「ち、違うわよっ! 確かに小さいし、気にしてるのは本当だけど……」


「えへへへっ、でもでも、いざって時は男の人に揉んでもらうと大きくなるんだよ?」


「なっ、そんな事させる人居ないわよっ!」



 全く……いったいどこでそんな情報を得たのやら……。男の人、か……。って、変なこと考えないの、あたし!


 そして水浴びを終えて髪や体を乾かし、ララノアの住む場所へと戻る。



「……っ! ララノア下がって」



 ララノアを手で制し、弓を構える。



「なんで扉が開いてるのよ? ……まさか、侵入者!?」



 そうこう考えているうちに、中から出てくる人影を発見する。



「動くな! そこで何をしていたっ!」



 いつでも矢を放てる体勢のまま尋ねる。人数は見た限り1人。すぐに攻撃をせず慌ててるところを見るに、その場所が何かは知らなかった可能性が高い。まずは事情を聞き出すわ……。



「答えろ! さもなくば無理矢理にで──……待って……なんで、ここにいるの? 何でよりにもよってあんたなのよ!? ソラ……」



 そこに居たのはソラだった。



***



「はぁ……最悪ね」



 あたしは思い出しながらそう呟く。あの後、私はソラにララノアと関わってほしくなくて、わざと彼が怒るような……私たちと関わりたくなくなるような言葉を告げた。


 そうしないとソラは私たちの事情に首を突っ込み……ララノアを助けようと動くと思ったから。でも結果的にソラは関わってしまった。



「……ともかく、こうなった以上は割り切るわ。ララノアを助けられるかもしれない可能性が上がったんだもの。……でも、悪いことしちゃったわね。……何かお返しでも考えておこうかしら」



 私はそう結論付けて、ベッドから体を起こした。

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