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119話~言い争い~

 妹……その言葉を聞き、俺はまず水葉を思い出す。そして……あの部屋の惨状、ちょうどヘレスの妹のララノアちゃん? と同じサイズっぽい服が思い出される。



「ヘレス……君はあの部屋に、その子を閉じ込めているのか?」



 俺は頭で想像したことを、できる限り冷静に尋ねる。



『と、閉じ込めてなんか居ないわよ! それよりもなんでここにいるのかを答えーー』


「じゃあ、あの部屋はなんだ!?」


『っ!?』



 ヘレスのあからさまな誤魔化しを聞き、俺の冷静さは一瞬で砕け散った。



「あんな……とてもまともな人が暮らせる場所じゃ無いぞ!? 犯罪を犯した者が入る刑務所と言うなら、まだ同情の余地はあった……でもヘレス、あれは明らかにその子の家なんだろう? いや、家じゃなくて……小屋、の方が的確かな?」



 頼むヘレス……違うと否定してくれ。自分の妹を、あんな環境に置けるような人間……エルフじゃ無いと、言ってくれ……!



『……あ、あなたには……あなたには関係ないでしょ……? これは、あたしたちエルフの問題なの! 人族のあなたは、関わらないで頂戴……!」



 俺の願った想いは、ヘレスの言葉によって打ち砕かれる。しかも……。



「ふざ……っ……つまり、認めるんだな?」



 俺が想像した最悪の形で……。とっさに出かけた暴言を飲み込み、再び精神を落ち着かせてから尋ねる。



『えぇ、そうよ。何かこの里の掟に問題でも?』


「ぁ……っ……」



 俺はその答えに絶句した。……掟? そんな小さな妹を、あの場所に閉じ込めておくのが? ……いや待て、落ち着け俺! ……一旦冷静に、ちゃんと冷静になれ……。


 会話を思い出せ。……くそ、気持ちが昂っててあんまり鮮明に覚えていない。確か、エルフ族の問題、掟と言ってた。つまり、ヘレス個人の問題では無い……可能性が高い。



「…………ヘレス、その子をあの場所に閉じ込めておく事を、君は肯定するのか?」



 ヘレス、君がこれで違うと、そう言ってくれたなら……。



『……えぇ、肯定するわ』


「…………!」



 ヘレスの今の発言で、俺の中の怒りが溢れんばかりに増幅する。



『……やる気かしら? たとえあたしを倒しても、戦士長にすぐにやられるわよ? あなたも精霊と契約しているんだから、殺される事はないはずだけど』



 全くもってその通りだろう。だが、自分の妹をあんな扱いで容認しているヘレスの言葉を聞く気にはならなかった。



『だからもう、何も見なかったことにして……他の人に口止めするなら、あたしも何も見なかったことにするから……ね?』



 その間にもヘレスはそう言い続けた。最後に妥協案を絞り出したようで、そんなことを告げてくる。当然答えは……。



「……悪いけど断るよ。サリオンさんにでも尋ねて事情は説明してもらう」



 本当なら今すぐにでもヘレスの妹を助けたい。だがそこまでするのは横暴というものだろう。掟とやらを聞き、その上で俺とエフィーがダメだと判断したなら……ララノアちゃんは連れ出すべきだ。


 俺はそう結論づけた。この時までに、俺はある事に気づくべきだったのだ。だが、妹をあんな部屋に住まわせていたと知った時の激情から、冷静な判断は失われてしまっていた。


 もし冷静な判断が出来たなら、俺は違和感に気づくことが出来たはずだ。ヘレスが苦しみ、泣きそうな表情をしていることに。ララノアちゃんがヘレスの腰あたりに抱きつくほど、懐いていることに。



『だ、ダメよ! 人族は……ソラは関わるべきじゃないわ!』


「関わったら俺も自分の妹と同じように監禁でもするのか? だとしたらなおさら言うことは聞かないよ」


『〜〜〜っ!?』



 ヘレスが頭を抱えて声にならない悲鳴をあげる。



『……ふぅ〜……ソラ、あなたはここにいた理由を話して、ここで見た事を生涯、誰にも話さない事を誓いなさい』



 ゆっくりと息を吐き出し、ヘレスは改めて弓矢を構えそう命令してくる。



「断る」


『そう…………なら、死になさい!』



 ヘレスは俺の言葉を聞き、グッと目を閉じる。そして少し間が空き、カッと目を開いた瞬間に矢を放った。


 俺はその弓を短剣で弾き、ヘレスを無力化する事を考える。だが、その考えは無駄になった。



『双方武器を納めよ!』



 目の前に一瞬で現れたかと思うと、ヘレスの放った矢を手で掴んだエルフ……サリオンさんがそう言って現れたからだ。



『戦士長! ……ですがソラ……あの人族はあの場所に──』


『口も抑えろと、そう言わせたいのかヘレスよ?』


『っ……了解しました』



 ヘレスは先ほどまでの威勢が完全に消え失せた様子になる。



『ソラよ、怒る理由は十分理解できる。しかし、これには深い事情があるのじゃ。納得できるかどうかは分からんがの。明日、話し合いの機会を設ける。じゃから今日の所は、大人しく帰ってくれんかの?』



 俺はそんな言葉を聞き衝撃を受けた。特に驚く内容もない、普通の会話内容だろう。だが、今の一言で俺の心は落ち着きを取り戻し、自責の念に囚われた。


 何故か? ……サリオンさんの言った事情という言葉が原因だ。俺はヘレスに最初から、ララノアちゃんを閉じ込めたか否かの事実のみを尋ね、いつもは考えていた相手の立場を考えていなかったと思い知らされたからだ。


 閉じ込めた事実だけでヘレスを悪と決めつけ、理由を尋ねなかった自分の愚かさを理解したからだ。


 言い訳はいくらでも出てくる。森の中、言葉の通訳をしたりと慣れない環境、軽い閉鎖空間、表面的な妹の扱いの悪さなどなど……数を上げればキリはない。だが、そんな物は最初に言った通り言い訳に過ぎない。



「……分かり、ました。……帰ろう、エフィー」


「う、うむ……。サリオンよ、もし我か空が納得できない理由じゃったなら、その時は覚えておくのじゃ」



 俺は少しだけ言葉に詰まりながら、フラフラと元来た道を通り、大部屋へと戻ろうとする。エフィーもサリオンさんに何か言っていたが、あんまり聞き取れなかった……。


 ……俺はやっぱり、ダメな奴だよ……師匠。

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