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117話~誘われて~

 紫色の光を発する分霊を追いかけて、俺とエフィーは森の中を進む。村から少しだけ離れていく。だが、今のところ危険というほどでは無い距離。……感覚的にはコンビニのような感じだ。



「エフィー、分霊ってのはあんな濃い紫色が普通なのか?」



 精霊王のエフィーは銀髪で神秘的な印象だ。対して風の精霊ソランディアは見た目こそ鷲だが、雰囲気的には爽やかと言うか、緑が似合うと言うか……俺の口じゃ具体的には説明できないけど、そんな風の精霊らしい印象だ。


 だがあの濃い紫色はソランディアともまた違う、別の印象を持つ。色合いは危険な雰囲気を匂わせているが、まるで赤色のように暖かい雰囲気を醸し出している。



「いや……あれはおそらく、闇の精霊じゃろうな」



 ……闇の精霊。なんとも字面の悪い。だが、色合い的にはむしろピッタリだな。違うのは感じる印象だけ……俺の勘違いかもしれないが。



「ちなみにエフィーはなんの精霊?」


「ふっ、主人よ。我は精霊王じゃ」


「つまり全属性の魔法を使えるようになるってこと?」


「ふっ……」



 エフィーは不敵な笑みを浮かべ、格好をつけたと思いきやそのまま黙ってしまった。……こいつ、明らかに誤魔化してやがる! 



「…………エフィー、もしかして言いたくないことなら無理には聞かない。でも……いつか話してくれよ?」


「……要らぬ気を使わせてしまったようじゃな。すまぬ主人」



 エフィーは謝りつつも、その表情には少しだけ安堵の感情が見えた。やはりエフィーの今までの過去には、おいそれと人には話せない何かあるのだろう。たとえそれが契約した人間とは言え……。


 何落ち込んでるんだ俺は? 出会って3ヶ月ぐらいしか経ってない奴に自分の嫌な過去をペラペラと話す方がおかしい……。はぁ……エフィーの存在が、俺の中でここまで大きくなってるとはな。



「気にすんな。お前との契約はどっちかが死ぬまで続ける予定なんだ。それまではずっと一緒にいる。話なんて今じゃなくても、いつか話せる……そうだろ? ……そうだよな?」


「……ぷっ、ふはは! 当たり前じゃ! 何をそんなに不安そうな顔をしておる? まるで駄々をこねる甘えたがりの子供のようじゃぞ?」



 俺はエフィーにすがるように尋ねた。するとエフィーは俺の顔をマジマジ見たかと思うと、指を刺して大笑いしてきやがった。しかも俺が子供だと!? お前にだけは言われたく無い!



「ふ〜……お前なんて小瓶に閉じ込めてやる! おら出てこい!」


「嫌なのじゃ〜! 小瓶はもう懲り懲りなのじゃ〜! 主人の鬼〜!」



 息を深く吐いて感情を落ち着かせ、俺は改めて胸ポケットに入ったエフィーを引っ張り出す。



「むぅ〜! ……む、主人、分霊が……」


「お?」



 エフィーと軽い引っ張り合いと言うスキンシップを繰り返していると、不意に目の前を進んでいた分霊がその場で留まる。


 その場所は一本の大樹の前だった。この木に何かあるのか? 俺は視界の悪い中、その辺りを見渡す。幸にして、紫色だが光っている分霊のお陰で分かりやすい。


 少しだけ近づき、すぐに見つけた。巧妙に草木などで隠されてはいるが、根元に人が出入りできる扉を……。



「エフィー、あれ、絶対勝手に入っちゃいけない扉だよな?」


「眷属達に話せば、我ならば入れるやもしれん。今なら……さすがに我と一緒でも、いい気分はされないじゃろうな。怒られたりするかもしれんぞ?」



 精霊を信仰するエルフ達が、精霊に見られてそこまで怒るような物を隠している可能性か……。低いけど、0じゃない……。



「……わざわざ事を荒立てる必要性は無い。エルフ達が見せたく無いのなら、それを無理やり暴くのは良くないよ。早く帰ろう」



 俺はまるで自分に言い聞かせるように言い訳のようなものを呟き、エフィーと共に来た道を引き返そうとする。安心しろ、エフィーじゃあるまいし迷ったりなんてしないからな!



「ぬぉっ!?」



 すると目の前に先ほどの分霊が凄まじい速度で現れた。こいつ、引き止めてやがるのか?



「……悪いけど、エルフと事を荒立てる気は無いよ。着いてきておいてなんだけど帰らせてくれるかな?」



 俺は俺を引き止めた分霊にも、ちゃんと意思があるはずだと思いそう伝える。自動翻訳されてるとは言え言語能力はあるのか不明だが……。



 ブンブン!


「はぁ……? 入れって事?」



 だが、そう言った直後に分霊は激しく左右に動く。……もしかして首を横に振っているのを表しているのか?



「入らないと帰さない? 後悔する?」



 ブンブンブンブン!



 すると分霊が縦に揺れる。これはつまり、不法侵入をしろとこいつに言われたような物じゃ無いのか? いや、分霊とは言えつまりは精霊の意思でもある。エフィーもいるし、もしかしたらお咎めなしも……。



「……行く、か……」


「その方が良いじゃろうな。主人も感じておるじゃろう?」


「あぁ……なんとなく行った方が良いって俺の感覚が告げてる」



 こうして結論を出し、俺とエフィーに闇の精霊の分霊は、隠された扉を開いた。

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