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116話~分霊~

「サリオンさん、それはつまり俺に死ねと?」



 次の日の朝、なんか俺だけ特別訓練メニューをやらされると説明され、その内容を聞いた開口一番に喋った発言が今の言葉だ。



『な〜に、別に簡単じゃろう? ……ワシとひたすら模擬戦をするぐらい』



 サリオンさんに言われた訓練は、自分との模擬戦をひたすらする……それだけだった。ふざけんじゃねぇぞ!? 昨日あれだけガチでやった試合を毎日しろと? 俺泣くよ!?



『もちろんワシは手を抜こう。風の精霊ソロンディア様の力は借りん。じゃが、そちらも【縮地】とやらは無し。それでどうじゃ?』



 むぅ……。俺はそう言われて押し黙る。確か……それならまともな模擬戦が出来るかもしれないな。とりあえず考えてみるか。俺の身体能力はスピード系A級下位の探索者だろう。【縮地】で一瞬だが速度だけA級上位ぐらいか?


 サリオンさんをそれに当てはめるとするならば、普段がスピード系A級上位。風を身に纏った状態がS級。【鎌鼬】などの精霊魔法や他の奥の手を合わせるならば、並のS級以上……。



「……やります。そして勝ちますよ……!」



 そう宣言した過去の俺を殴りたい。



***



「…………かっ、はっ……!」



 地面に倒れ込んだ俺が軽く息を吐く。危なかった、一瞬だけ呼吸止まってた……。やばい、吐きそう……て言うかさっき実際に吐いてたじゃん俺……。



『ふぅ、久しぶりにいい汗をかいたのじゃ』



 余裕そうにそう言ってきたサリオンさんを見て、正直ぶん殴りたいと思ったことは黙っておこう。



『そうそう、稽古中はこれから師匠と呼ぶが良い』


『……師匠はちょっと。サリオン師匠と』


『それで良い』



 サリオンさんをサリオン師匠と呼ぶことになり、その日の訓練は終わった。



「空……」



 巨木の影に隠れて休んでいると、氷花さんが俺を見つけて近づいてきた。



「ん……」


「あ……ありがとう氷花さん」



 氷花さんはそう言い、水とタオルを手渡してくる。すぐにいただき喉を潤す。水の中には氷が入っていて、キンキンに冷えてもう最高だ!


 水はエルフの里にある水源から。氷は氷花さんのお手製だろう。タオルは烈火さんが持たせた鞄の中に入っていた物。烈火さん、現在の俺の中で裏のMVP枠だぜ!



「……大丈夫?」



 氷花さんが俺の横に腰を下ろして体育座りをした後、こちらを見て首を傾げながら尋ねてくる。



「いや、正直後悔してる。でもあんな強い人と戦える経験はとっても貴重だからね。明日からも頑張って続けてーー」


「違う……空、特級迷宮に来てから、少し様子が、変だった」



 ……え? エフィーだけじゃなくて、氷花さんにもバレてたのか? ……あれぇ、俺のポーカーフェイスは師匠に「うん、空のポーカーフェイスは私と翔馬君以外には見破れないね」なんて言われるほどだったのに……。



「……何があったかは、知らない。ただ、一応確認だけは、しておきたかった。……でももう、大丈夫に見える……良かった……」


「そ、そう……心配してくれてありがとうね」



 うわぁ、そこまで分かるのか。まずいぞ、俺のポーカーフェイスって、実は欠陥レベルなんじゃ……!?



「別に……少し、気になっただけ。それだけ、だから……」


「ふふ、でも俺は嬉しかったよ?」


「〜〜っ!? そ、それじゃ……」



 俺がお礼を伝えると、氷花さんは少しだけ顔を赤くして小走りで去っていった。ふむ、このコップは後で洗って返そう。クイッと最後の一口を飲み終えて俺は立ち上がった。



***



 その日の夜……。



「ふわ〜〜っ……眠いな」



 今日も変わらず、みんなが寝ている間にエフィーにご飯を食べさせる。でもこいつ、よく考えたらご飯食べる必要性がないんだよな。


 ……今日から訓練で疲れてるし、限界になったらお願いして休息日を作ってもらおう。その時にはまたお願いとか言われそうだけど……まぁ別に良いや。



「ん……?」



 ふと前を見ると、濃い紫色に発光する小さい玉のような物体がフワフワと空中を飛んでいた。なんだあれ?



「……近づいてきてる?」



 そう考えていると、その光の玉はフワフワとこちらに近づき漂ってくる。……なんだ、良くない物なのか? 色合い的にはヤバそうだが……むしろ、良い物みたいに感じる。



「む……ほう、他にもいたのじゃな」


「どういうことだエフィー、あれは何なんだ?」


「そこにいるのは、簡単に言えば精霊に分類できる。じゃが、我のような真の精霊ではなく、その精霊が生み出した半身、劣化コピー品のような存在じゃ。名を分霊と呼ぶ」



 分霊……つまりあの紫色の分霊を作った精霊が、また別のどこかに存在するってこと……。



「分霊にエフィタルシュタインやソロンディアのような固有名は存在せず、ただ作った精霊の言うことを聞く操り人形と言っても過言ではないぞ。力も精霊と分類するのがおこがましいほど弱く、出会ったばかりの主人とトントンじゃな」



 へぇ、つまり害はほぼ無いって事か。…………ん、俺今最後にディスられなかったか? エフィーの発言に疑問に感じていると、その分霊はクルクルと俺の前で周り、どこかへと離れていく。だが、少しだけ離れるとそこで留まった。



「……もしかして、着いて来いって言ってるのか……?」


「そのようじゃの。どうする主人?」


「……行こう」



 そう言って、俺を先導する分霊をエフィーと共に追いかけた。……明日は寝不足確定だな……。

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