108話~模擬戦~
「試合、ですか?」
『左様じゃ。そちら側の……ハツシバ様とあの人族2人以外は、全員近距離での戦闘もできろう?』
サリオンさんは琴香さん、大地さん、柏崎さんの2人を見ながらそう提案してくる。回復系、魔法系、強化系の3人だった。って事は氷花さんは近接戦闘もいけると踏んだ訳だ。
「そうですね。俺も賛成です。一応確認してみますが」
俺はそう言って、探索者の人たちを集める。
「ーーという訳です。大地さん、構いませんか?」
「僕としては構わないよ。強制は無しならね」
大地さんの言葉を聞き、岸辺さんだけが辞退した。
「いや、普通に考えてあの爺さんがいる時点で棄権しますよ? 寧ろ北垣さんがやる方が僕は驚きましたけどね」
との事だ。確かにサリオンさんには絶対に勝てないだろう。だが良い経験にはなると思うが……。
「馬渕さんら高等級の方はともかく、俺たちは事故で死ぬ……はなくとも、怪我をさせられる可能性はありますからね」
岸辺さんはそう言ってチラリと横を見る。俺も続く。するとエルフの戦士達がギロリとこちらを睨みつけてきた。やはり人族は嫌われているらしいな。
確かに琴香さんのお陰で生きてはいるが、試合ともなれば怪我くらい普通に負わせてきそうな雰囲気。B級以下の人はやめておいた方が賢明……と考えるのも無理はない。
本人が選んだ以上強制で辞めさせることはできないが、北垣さんの時は絶対に注意して見ておこう。俺はそう考え、メンバーをサリオンさんに伝えた。
『ふむ、了解じゃ』
サリオンさんは了承し、エルフの戦士達の中から俺たちと戦う戦士達を募る。すると予想以上に手が上がった。
サリオンさんはその中から、できる限り俺たちと実力の近い者を当てるようにしたらしい。
牧野さん、最上のおっさんVSアムラス。北垣さん、馬渕さんVSヘレス。俺、氷花さんVSサリオンさん。
……いや、サリオンさんVS俺たち全員でも勝てる自信ないのにこれはどういう事だよ!? あなた出てきたら勝負にならないでしょ!!!
他はまぁ良いと思う。C級2人にアムラス。特にアムラスは最上のおっさんにやられた事、根に持ってそうだからなぁ。ここらで雪辱戦と言うわけか?
次、B級&D級にはヘレスか。まぁバランスを考えたら必然的にこうなるわな。相手がヘレスなら、下手な怪我を負うこともないだろうし。
「うっし!」
「頑張ろうね最上さん!」
『へっ、今度はぶっ倒してやるぜ!』
最上のおっさんは両拳をガツンとぶつけてやる気を示し、牧野さんはエルフとの戦いに目をキラキラさせていた。アムラスの方も目をギラギラと光らせており、熱い炎が宿っているように見える。
こうして試合……模擬戦の方が良いかな? が始まった。まず動いたのはアムラスだ。一直線に最上のおっさんに向かっていく……と見せかけて牧野さんに短弓で矢を放った。
それを予測していたのか、最上のおっさんは驚きもせずに大剣を牧野さんを守るように構えて防いだ。それと同時に最上のおっさんも仕掛ける……と同時に牧野さんの矢が放たれる。
これがお互いの初動だった。そこからアムラスは仕掛けてきた最上のおっさんの振り回す大剣の射程に入らないように立ち回りながら短弓で矢を放つ。
それをさせないように牧野さんがアムラスの背後を取るように立ち回る。何度か最上のおっさんの大剣がアムラスを掠めることもあったが、やはり元の能力の差がありすぎたのだろう。
多分、アムラスの身体能力は1度目の契約上書きした時の俺と同じくらいか、それよりもちょい上ぐらいかな。
アムラスと最上のおっさんがまともに攻撃を撃ち合ううちに、最上のおっさんの方が吹き飛ぶ。牧野さんもやられ、そこで模擬戦は終了となった。
「くっそが、やっぱつ強ぇぜ!」
「あはは、僕は、エルフと戦えただけで……十分だよ……」
『よっしゃぁ!』
膝をつく最上のおっさんと、倒れ込む牧野さんを観戦席のような場所へと移動させ、次の北垣さんと馬渕さんVSヘレスの模擬戦が始まろうとしていた。
「はぁ、これ勝てないだろ」
「何も勝つことだけが目的じゃないさ。精一杯頑張ろう」
『ふんっ、どうせならソラが良かったけど……行くわよ』
そして模擬戦が始まる。ヘレスも同様に弓を使っての遠距離攻撃かと思いきや、真正面からの近接戦闘へと発展した。これはメンツ的にありがたいな。
タンク系とパワー系の2人では、逃げてひたすら矢を放つだけのヘレスに負けるだろう。だがさすがに相性を考えたのか、サリオンさんが何か事前に言ってくれていたのかもしれないな。
馬渕さんの戦い方は初めて見るが、上手くヘレスの攻撃を受け流している。北垣さんも攻撃を加えているが、まるで意に返さない。頑張れ、北垣さん!
だが、俺の応援も虚しく北垣さんがやられ、馬渕さんも耐え忍んだがしばらくして降参。ヘレスの勝利で終わってしまった。無念……。
『良くやったぞヘレスー!』
『アムラスも最高だぞー!』
なんてエルフ達の声も聞こえた。同じ種族では仲が宜しいようで何よりだな。無論こちらも負けてないぞ! 最上のおっさんをめちゃくちゃ慰めてたらアイアンクローされたが。
『我らエルフの方が優れていると証明されたな!』
…………はぁ? 誰だ今そんなこと言ったエルフは? 叩き潰してやるから出てこいよ。
『ふむ……ではカランシアよ。そこの男と戦ってみよ』
『え?』
するとサリオンさんが俺を指差しながらそう言った。指名されたエルフの男は驚いた表情を見せた。
『戦士長、しかし彼はあなたの対戦相手では?』
「俺は構いませんよ。高貴なるエルフと戦えるなんて光栄ですから」
『ほほう……彼がそう言うのでしたら、やはり私も参戦しても構いませんね?』
俺がにこりと笑みを浮かべて褒めると、エルフの男は好感触の歪んだ笑みを浮かべながらそう言った。こうして急遽、サリオンさんとの前にエルフの男との前哨戦が始まった。




