99話~特級迷宮~
「なんだとっ!? それってつまり……どう言うことだ!?」
「本当に……馬鹿なの? つまり、時の流れが、違うと言うこと……」
最上のおっさんが意味深な声を上げるも大したことではなかった。それを聞いた氷花さんが呆れて説明しだす。さすが理解度が早い。
「空君、それって例えば地球での3分が、こっちだと1分みたいなものですか?」
「例えで言えば正解ですね」
珍しく琴香さんがまともに見えるな。エルフの里でも一悶着ありそう……あ、この発言の方がフラグくさかったかも……!?
「おぉなるほどな! つまりお湯を入れて3分待たなきゃいけないカップ麺が、こっちにもってくれば1分で出来上がるってことか!」
ちげぇよ、最上のおっさんの馬鹿! こっちに来たら来たで待たなきゃ柔らかくならねぇよ! でも発想は面白かったから良しとする。訂正するのも面倒くさいから無視して進もう。
「そして時間軸の差ですが……大体、地球での1時間が迷宮内での約1週間に相当します」
「はぁ!? つまり地球での1年がこっちじゃ約8760週……約168年じゃねぇか!」
最上のおっさんが即座に計算してあり得ないだろ、と反論してくる。だがもっとあり得ないのは最上のおっさんの暗算速度だよ。速すぎだろ! 合ってるのかは知らんが。
「あと、ゲートはこちらの時間で1ヶ月経つまで再び使用できません。無論、それは地球側からもです」
特級迷宮では人員の増加……つまり援軍が期待できない。烈火さんも地球側で歯軋りでもしてそうだな。いや、無理矢理にでも通ろうとして怪我してるかも。
「つまり……特級迷宮じゃ、兄貴の力を、借りれない?」
「そう言うことです」
だからこそ、大地さんはサリオンさんに1ヶ月の滞在を許してもらおうとしたのだろう。俺でもそうしてたと思う。
「理解、した……それで、もう1つの、特徴は……?」
氷花さんがコクンと頷き、次の情報を催促してくる。琴香さんと最上のおっさんを見ると、同じように頷いた。でもちゃんと理解してるかは半々って所だな。
「もう1つの特徴は、既に全員が目にしています……エルフ達です」
「つまり、特級迷宮にはエルフが存在するってことか?」
「いや、正確にはエルフ達、つまりは知性持ちモンスター……通称、亜人が存在することだよ」
大地さんがエルフを目にして最初に出た言葉を思い出して欲しい。彼はエルフを見て特級迷宮だと判断したのもそうだ。
今回はエルフだったが、他にもドワーフや獣人、竜人、巨人なども確認されている。亜人と認定されるのは独自の言語を話すことが基本的な条件だったが……。
「何故か、空と琴香は、通じてる……?」
「うん、本当に何故か通じてるんだよこれが」
「……再発現、だから?」
うぉっ!? 氷花さんが結構信憑性のありそうな説を出してきたぞ。違うけど今の所は最有力の意見になりそうだ。
「なるほど、再発現した奴だけは、亜人の言葉が理解できるようになるってことか。案外、正解そうだな」
最上のおっさんも肯定してくる。
「いやいや、俺は再発現者じゃないですし……」
「なら空。向こうに帰ったら、再鑑定、一緒に行こ?」
認めるわけには行かないのでやんわり否定すると、氷花さんが逃げ道を塞いできたんだけど!?
「あはは、では向こうに帰ってから都合の良い日に」
「ん、約束……」
あぁぁぁぁぁぁぁっっっ!?!?!? 言質取られちまったぁぁぁぁぁ!!! 俺は頭を抱えて項垂れた。
俺はその後も簡単な説明を繰り返した。それらを踏まえ、特級迷宮について簡単にまとめよう。
まず、特急迷宮が現れたのは今から3年前のアメリカだ。向こうのD級迷宮が突如、B級迷宮レベルにまで変化したことが最初となる。
そこにいたのは謎の言語を喋るリザードマンたちだった。最初に入った探索者組合のメンバーは全滅し、その後入ったS級探索者たちによってゲートは攻略された。
その時には詳しくは一般人の俺たちには説明されていなかったが……。
それからは他の地域でも似たような現象が多数発生したため、今ではガイドラインにも記されるようになった。
次は性質について説明しよう。まず、時間の進みが違う。地球での1時間が、特級迷宮では一週間。1ヶ月経たないとゲートは使えない。
それとエルフ達、亜人が必ず存在する。亜人は独自言語や知性を持つ。会話は通じない。
いや、その事実を知っていたのになんで大地さんに指摘されるまで気づかなかったんだと思うが、あの時はそんなことを考えてられる状況じゃなかったし、自動で翻訳されてたんだからしょうがないじゃん……。
ともかく……時間の進みの差とエルフなど亜人の存在。この2つが特級迷宮最大の特徴だ。それ以外についても説明した。
まず、ここでは迷宮主を倒す必要性がない。1ヶ月生き延びれば、勝手にゲートは使用可能になる。まぁ、迷宮主もいるにはいるが……。
それと迷宮の等級も変化する。それも確実に高くなるように……。
今回の迷宮はC級だったはずだが、ヘレスやアムラスなどエルフ達の実力……それにサリオンさんを考慮すると……多分、A級迷宮かな?
もしかしたらサリオンさん以外にも並のS級探索者、もしくはそれ以上に強い存在がもっといるなら、A級の中でも上位クラスかもしれない。
ここら辺は俺たちじゃ不明だから推測することしかできないし、あまり意味はない。
ただ、この選抜メンバーでも油断できない状況になったことは確実だ。
とまぁ、特級迷宮についてはこれぐらいかな? 普通の迷宮とはこんなにも違うことから、特別な迷宮……特級迷宮って呼ばれてる事が、3人にも理解できたと思う……琴香さんと最上のおっさんは半々ぐらいで……。
そう言えば話は変わるが、エフィーについてはどうしようか? 流石に1ヶ月ずっとポケットの中は……ダメだろうな。
初めて翔馬と会った時みたいに我慢できなさそう。
いっそのこと、先にバラしちゃう? いや、それもさすがに……やめておこう。
バレないようにする。うん、それが一番良い。
サリオンさんも大地さんが目覚める前にエフィーが隠れたことを見ていたけど、様子を見るにどうやら事情を察してくれたようで一安心だ。
まぁ、他のエルフ達は琴香さんが精霊だとは分かっても、俺が精霊のエフィーと契約したとは理解できていないだろうな。だって……。
『おいそこの人族。もうすぐあたしたちエルフの里に着くが、勝手に暴れたりするなよ?』
とヘレスが睨みつけながらそう忠告してくるんだもの。でもその怒った顔もまた美人なんだよな〜。美人はどんな顔でも華になる。
おっと、後ろから琴香さんと氷花さんの冷たく鋭い視線が向けられている。冷や汗が出てきたのでそんな目線を向けるのはやめておくか。
「皆さん、そろそろ着くそうです」
「了解だ、篠崎君」
「里ってどんな所なんだろうね〜!」
探索者のみんなにそう伝えると北垣さんや牧野さんがそんな返答をする。それから数分後、無事にエルフの里に俺たちはたどり着いた。




