プロローグ
砂埃が吹き荒れる灼熱の荒野に俺は立っていた。視界は砂埃で晴れず、普通なら遠くまで見通すことは困難。気温も50度を超えているだろう。
すると突如、俺と100メートルほど離れた所から、長さは20メートルにもなるだろうワームが地面から姿を見せた。
赤……いやピンクっぽい肉の色をしている。しかしあの表皮は大砲すら弾く硬さだろう。
「エフィー、あれ倒せると思う?」
俺はそのワームを指指しながら、隣に現れたエフィーに尋ねる。
「主人よ。我の力を馬鹿にしておるのか? 当たり前じゃ!」
俺の問いに答えたのは、背中の半分が隠れるほど長い白銀の髪。そしてダイヤモンドの輝きを放つ瞳を宿した、エフィーと呼ばれた中学生ぐらいの美少女だ。
エフィーは俺を主人と呼び、不満げに頬をぷく〜っと膨らませて反論する。
「分かってる分かってる。一応確認だって」
俺はエフィーの頭をポンポンと叩くように、少々乱暴ながらに撫でる。それでもエフィーは満足そうに顔を綻ばせていた。
「……それじゃあエフィー、行くよ」
「任されよ主人!」
エフィーはおとぎ話に出てくる妖精のように小さく体を変化させて、俺の胸ポケットに入り込む。
そして丁度こちらに仕掛けてくるワーム。体全体を唸らせる全身を使った攻撃だ。電車よりも早い速度で迫り来る巨体はトラックを彷彿させる……いや、それでも優しすぎる例えかな?
そのワームの攻撃を、俺は軽く地を蹴り10メートルほどの空中まで飛び上がって避ける。
攻撃を回避して動き回るワームの背中に着地した俺は、そのまま持っていた短剣を大きく上に掲げて構える。
そうして力を込め、短剣を縦に一閃。ワームの背中を真っ二つに斬り裂いた。薄汚れて少し緑の混ざった黄土色の血が、噴水のように噴き出る。
「ほれみたことか、楽勝だったじゃろう? それもこれも、我がいるからこそじゃがな! は〜はっはっは!」
さきほどのように少女姿に戻ったエフィーが薄い胸を張りながら、ドヤ顔で俺を見てくる。身長差のせいでませた子供にしか見えないんだけど……。
「その通りだよ、ありがとうな……」
「ふにゃあ……。ま、全く、精霊王である我をこんなに気安く……」
俺は笑いながらエフィーの頭を撫でる。エフィーが俺のそばに来てその場に待機するのだ。これ以外の選択肢は無いだろう。
当のエフィーも口では文句を言いつつも、撫でられた頭を大事そうに両手で覆って照れていた。可愛い奴め。
「……F級探索者だった俺がこんな風に出来るのも、あの出来事があったからか……」
俺は区切りのついた仕事の休憩を取りながら、そんな事を呟き自分がF級探索者だった頃の日々を思い出す。
本来は1話に組み込んでいましたが、描写を増やしたことでプロローグとして独立させました。