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第9章 混乱する現場

「・・・。」

「心琴?さっきの、どうしたんだよ?」

病院を後にした二人は鷲一の家に戻っていた。

二人はリビングのソファに座っている。

朱夏と話をしてから心琴の様子がまたもや変になったのを鷲一は感じていた。

「さっき、朱夏ちゃんからプレゼントもらってた。」

唇を尖らせて、むくれている。

「え?あ・・・あああ!!これの事か!」

自分の手にある鞄をみて鷲一が納得した。

確かに鞄にはリボンもついているしプレゼントに見えなくもない。

「そうだよ!!私だってまだプレゼントの一つもしてないのに!」

「プレゼント・・・プレゼントかぁ。」

心琴の勘違いに笑いながら鷲一が鞄の中身を見せてくれる。

「え?・・・これって・・・?」

鞄の中身は、大学のパンフレットだった。

しかもたくさん入っている。

「美術大学の、パンフレットだって。」

「え?ええ?」

心琴は何枚かパンフレットを手にしてみた。

どれもこれも、「ひとり親支援制度」だの「特待生授業料無料」だの書かれているものばかりだ。

「退院祝いをした時さ、俺、就職しか選べる道がないって言ってただろ?」

「う、うん。」

「それで、俺でも選べる大学の道、探してくれたみたいなんだ。」

心琴は驚いていた。

と、同時に自分が恥ずかしかった。

「ご、ごめん。そうだと知らずに私ったら・・・。」

顔を真っ赤にして照れる。

「いや。今の顔・・・最高に可愛かった。」

「ふえ!?!」

突然の発言に心琴はさらに顔を赤くした。

「心琴はこんなことでも、焼きもちやくんだな。」

「ごめん・・・。」

「少しずつでも、もっとお互いの事知っていきたいのにな・・・。」

鷲一は少し遠い目をする。

指先が震えている。

「具合、悪いの?」

「・・・ああ。」

「そっか・・・。」

鷲一は目を瞑って心琴の体にもたれかかる。

「一つ目のしたい事言っていいか?」

「うん。」

「もう少し、このまま一緒にいてくれないか?」

「・・・うん。」

二人の静かな時が流れた。

鷲一と心琴は部屋が暗くなるまで一緒に過ごした。


◇◇


その日の晩、心琴はすっかり暗くなってから帰宅した。

「・・・。」

何も言わないままベッドに横になる。

その様子に同室の妹が机から顔を覗かせて声をかけてくる。

「お姉ちゃん?大丈夫?」

「ごめん、なんか今日ちょっと色々あって・・・。もう寝るね。」

「そっか。この間まで超上機嫌だったのにどうしたの?」

「なんでもない。お休み。」

「うーん・・・おやすみ。」

妹は何も言わない姉に肩をすくめてまた机に戻っていった。

(今日はもう寝て、明日から色々・・・探ってみよう・・・かな・・・。)

布団にくるまって、心琴はすぐに寝息を立てた。


しかし、しばらくすると意識が戻ってくる。

「え・・・あれ!?」

目を開けると「寝ている心琴」がいる。

(ま・・・まさかこれって!?)

紐をたどると・・・自分が天井にいることに気が付いた。

(やっぱりこれって・・・!!!)

「ゆ、ゆうたいりだつうう!?!??」


事態は徐々に悪化していく。


◇◇


同時刻。

一方エリは再び予知夢を見ていた。

しかし、予知夢の内容が大きく変化していた。

あたりには黒い服で身を包んだ人がたくさんいる。


「う・・・うそ・・・でしょ・・・?」


そこは公園などではなく・・・


「お葬式?・・・まさか!?」


喪服に身を包んだ朱夏と心琴、連覇が泣いている。

白黒の写真が花束の中に大きく飾られていた。

その写真に写っていたのは・・・。

(ここは鷲一の葬式・・・。)

まぎれもない鷲一の写真だった。

顔面が蒼白になっていく。

昨日と今日の夢の内容が変わることは今まで一度だってなかった。

「見ている未来の日付、ちがう?」

エリは慌てて外に飛び出して空を見た。

目を細めて太陽を見る。

下の方からかけてきている。

「日食だ・・・。」

(日付は変わらないのに・・・鷲一がすでに死んでいる・・・?)

後ろから会話が聞こえる。

「もうやだよ・・・!!海馬お兄ちゃんも鷲一さんも死んじゃうなんて・・・!!」

泣いているのは朱夏だ。

朱夏を抱きかかえるように心琴がいる。

「!?」

(海馬も既に・・・!?)

エリは絶望した。

(それって・・・土曜日までに、海馬と鷲一が死ぬ未来が確定したって事なの!?)

エリは膝をついて泣き崩れた。

「うわあああああああああああん!!!!」

大粒の涙が零れ落ちる。

一しきり泣いた後、エリは周りの異変に気が付いた。

この夢は海馬と鷲一が死ぬだけでは終わらなかったのだ。

「ちょっと!?こ、心琴さん!?!?」

「あ・・・あぐあぁ!!!!」

「お姉ちゃん!しっかり!?」

夢の3人が心琴に駆け寄る。

「う・・・うそ・・・」

エリはその様子にフラフラと近づいた。

心琴がのけぞり白目をむいて倒れている姿がそこにはあった。

「あ・・あ・あ・・ああああああ・あ・・・・」

首をかきむしり、しばらくすると・・・息絶えた。

「いやあああああああああああああ!!!!!!」

エリは絶叫した。

そして、葬式に参列していた人々も次々と倒れていく。

「いやっ!!いや!!」

周りの人々が倒れ・・・残っていたのは何もできずに立ち尽くす朱夏と連覇だけだった。

「いやあああああああああああああ!!!!!」

「いやっ!!いやっ!!!!いやああああああああああああ!!!!!」


「エリ!!!!!」

「はっ!!!!」

気が付いたら部屋だった。

暴れまわっていたのか、朱夏に両腕を押えられていた。

「ハァ・・・・ハァ・・・・」

息が上がっている。

「ようやく・・・目を覚ましてくれましたね。」

安堵の表情だ。

朱夏は汗だくで座り込んだ。

「ごめん・・・朱夏お姉ちゃん・・・。」

迷惑をかけたことを察知して謝る。

「いえ。辛いのは・・・エリです。」

眉をひそめて頭をなでてくれる優しい手にエリは涙をこぼすしかなかった。

「ううぅ・・・ううううっ・・・。ねぇ、朱夏・・・どうしよう。今度は・・・心琴が・・・。」

「え!?」

思ってもみない言葉に朱夏も青ざめる。

「私、どうしたら・・・いいか・・・わかんない・・・。」

泣きじゃくるエリをしっかりと抱きかかえる。

「大丈夫・・・きっと・・・。」

朱夏はスマホを手に皆を呼ぼうと思ったが、そこには思ってもみないメッセージが届いていた。

【シー・ホース:朱夏・・・ごめん・・・病院に来てほしい。】

海馬からのメッセージ、それと・・・

【KOKOTO:鷲一の家にも・・・お願い。】

心琴からのメッセージだった。

「何が・・・一体何が起こっているの!?」


◇◇


海馬によって、呼び出された朱夏は三上に急いで車を出してもらっていた。

「どうしました?今日はやけに急がれていますね。」

三上がいつもの様子と違う朱夏に尋ねる。

「ええ・・・。海馬おにいちゃんの体調が悪いって・・・。」

「え!?」

「お願い、三上、急いでちょうだい!」

「朱夏お嬢様。分かりました。急ぎます。シートベルトだけはお願い致しますね。」

朱夏は自分がシートベルトさえするのを忘れていることに気づき、慌ててシートベルトをする。


(冷静にならなきゃ。)


朱夏は少し深呼吸をした。

それを不安そうな目で見ていたエリに朱夏は優しく微笑みかける。

「エリ、大丈夫ですよ。」

「・・・。」

「よしよし。」

エリが喋れないでいると、朱夏はエリを優しく撫でた。

本当は朱夏だって不安でたまらない。

エリがいる手前気丈にふるまうように心がけているだけだ。


(自分が挫けたり不安がったらきっとエリも不安になる。)


エリは朱夏に撫でられて少しずつ落ち着いていくのだった。

病院に着くと、入り口付近で車を降りた。

「三上、ここにいて下さい。海馬お兄ちゃんと話をした後今度は鷲一さんのお宅へ行きます。」

「かしこまりました。」

いつもと変わらない凛とした振る舞い。

朱夏はこんな時でも笑顔を絶やさない。

「さぁ、行きましょう。エリ。」

「うん。」

2人は真っ直ぐに海馬の病室へ向かった。

そこには顔色が明らかに悪い海馬が横になっていた。

目を瞑り息が荒い。

手には点滴が繋がれていた。


「か、海馬お兄ちゃん?」


声を聞いて海馬は薄らと目を開けた。

「はは、来てくれたんだね。」

声が弱々しい。

「ごめん。・・・起き上がれないんだ。」

「うそ、でしょ?お兄ちゃん。」

朱夏は絶句した。

思った以上に状況は悪いようだ。

「海馬、辛そう。」

エリは海馬の側に来て手を握る。

ようやく収まった涙がまた流れ出る。

「朱夏に、謝りたくて。」

か細い声が聞こえた。

「私にですか? 」

朱夏は慌てて近づく。

見れば見るほど顔色は土気色だった。

その姿を見るだけで朱夏は泣きそうだった。


「一昨日、辛かったの黙ってたから・・・さ。」

「そんな。」


一昨日、別れ際に言った一言を思い出す。

体調が悪いとすぐに隠す海馬に少しだけ素直になって欲しかっただけだった。

「海馬お兄ちゃんの馬鹿!ばか!ばかっ!そんな事今はどうでも良いです!お兄ちゃん、私、絶対お兄ちゃんを死なせません。」

これまで気丈にふるまっていた朱夏の目から大粒の涙が流れた。

それでも朱夏は笑おうとする。

「だから、お願いです。そんな弱気なお兄ちゃん嫌です。早く、良くなって私達と笑ってください。約束ですよ。」

涙でクシャクシャな笑顔がそこにはある。

「はは、困ったな。」

海馬は目を細めた。

「絶対ですからね。」

「本当、朱夏ちゃんにだけは・・・敵わないん・・・だよな。」

海馬は目を瞑る。

「海馬お兄ちゃん?」

「・・・。」

海馬が急に話さなくなった。

「寝た・・・の?」

「朱夏、ナースコール!」

「!!」

エリの怖い顔を見て、朱夏は慌ててナースコールを押した。

「すみません!!海馬お兄ちゃんの意識がありません!」

「なんだって!?」

すぐに海馬夫婦が現れ、心電図やら呼吸器やらを取り付け緊急治療室に連れて行かれた。

その背中を朱夏とエリは呆然と見守るしかなかった。


「エリ。おかしいです土曜日の日食が次のXデーなら今日はまだ元気なはず。」

「変だよ・・・今回は何もかもが変!」

「鷲一さんの所へ急ぎましょう。」

「うん!!」

2人は何が起こったか分からないまま病院を急いで後にした。


◇◇


朱夏が鷲一の家に行くと、そこには床に倒れる鷲一がいた。

「鷲一さん!?」

「朱夏ちゃん・・・来てくれて・・よかった・・・。」

ドアを開けてくれたのは心琴だった。

「私ひとりじゃ・・・どうしようもなくて・・・。」

朱夏は心琴の様子もおかしいことに気づいた。

「待ってください!心琴ちゃん?様子が変ですよ!!・・・まさか?」

「あ・・・あはは・・・。私も幽体離脱経験しちゃった・・・。」

「!!?」

「鷲一、さっき倒れちゃったの・・・。でも私動かせなくて・・・。」

心琴もその場でへたり込む。

「大丈夫ですか!?」

朱夏は座り込んだ心琴に手を差し出した。

その手を掴もうとした・・・その時。


-バチンッ!!!!


「キャッ!!!」

「いたっ・・・!!」


静電気が破裂した。

「すごい静電気だったね。」

心琴が手をさすりながらそう言った。

「痛かったです・・・。」

朱夏も指先をさする。

「これは・・・!!」

エリは今の静電気を見て固まった。

「い・・・今の・・・パラサイトの力、感じた。」

「え?」

エリは二人を見る。

「そっか・・・そうだったんだ!!」

エリは1人で納得する。

「どうしたんです!?エリ!?」

朱夏は怪訝な顔をする。

「静電気!静電気がパラサイトだ!」

「へ!?」

心琴もキョトンとする。

「エリ?落ち着いて?あなたのその発見がきっと糸口になります。」

朱夏はしゃがんでエリの目を見る。

エリは軽く深呼吸をして話始める。

「私の予知夢、「人の強い意志」では未来が決定。けど、「偶然」察知できない。」

「例えば・・・静電気が誰と誰の間で起こるとか・・・っていう事ですね?」

ジンジンしびれる手をにらんで朱夏は言う。

「偶然、起こる現象で、・・・偶発的に変わる未来?」

それが変化し続ける悪夢の正体だった。

「効果があるか、わからない。でも、「静電気除去」大事。朱夏、コンビニ、静電気除去買ってきて!」

「え、えっと!了解です!」

エリが朱夏にそういうと朱夏は急いでコンビニに出かけていくのだった。


◇◇


―15分後。


最寄りのコンビニまで行って戻ってきた朱夏は大量の「静電気除去スプレー」を買ってきた。

「はぁ・・・はぁ・・・。スゥ・・・ハァ・・・。」

荒れた呼吸を整える。

「スプレー、鷲一にかけてくる。」

エリは朱夏が買ってきた袋に手を突っ込み、乱暴に包装を引きちぎって鷲一にかけた。


-シュー・・・・。


「・・・。」

「効果・・・あればいいけど・・・。」

3人は祈りながらスプレーをかける。


-シュー・・・・。


「・・・。」

3人が息を飲んで見守るが、鷲一はびくりとも動かなかった。

「・・・ダメ・・・なの?」

エリが床をたたいた。

「もっと・・・早くに気づいていれば!!」

「そんな・・・。鷲一・・・。」

心琴が顔を伏せる。大粒の涙が床にこぼれた。

「心琴さん・・・。」

朱夏が心琴を抱き寄せた。


「・・・そんなこと・・・なさそうだぜ。」

「!!!」


聞き覚えのある声が聞こえて顔を上げる。

そこにはうっすらと目を開けた鷲一がいた。

「さっきより・・・かなりマシだ・・・。」

「鷲一!!!!」

「意識が・・・もどった!!」

心琴は泣きながら鷲一の手を握る。

「抜けた魂が、体に・・・戻れねぇんだ。強い反発で・・・。」

それでもなお鷲一は辛そうだ。

心琴の助けを借りてゆっくりと体を起こして座った。

「だが、スプレーのおかげで反発が少し弱まったみたいだった。サンキュー。」

鷲一は脂汗を滲ませながらもニッと笑った。

「ひとまず・・・助かったって事ですね。」

「良かった・・・。」

心琴も朱夏も胸をなでおろす。

「これ!すぐに海馬お兄ちゃんにもかけてあげなきゃ!」

「そうだ!海馬のやつヤバいんだ。」

鷲一は思い出して言う。

「え!?」

「さっき、どんどん上に上がって行くのが見えた。いつ体との線が切れるか解んねぇ。」

「そんな・・・!!」

その報告に朱夏が青ざめた。

「私もう行きます!」

飛び出すようにスプレーを持って走り出した。

「あ!朱夏!!」

あっという間に玄関を走り去った朱夏にエリは置いてけぼりを食らった。

「・・・。」

「行っちゃったね。」

「あれだけ慌ててる朱夏は初めて見るな・・・。」

あまりの速さに3人は呆然とする。

「エリ・・・徒歩かぁ・・・。」

朱夏の家まで歩いて30分。

小学1年生のエリだったらきっと40分近くかかるだろう。

「・・・待ってる?」

心琴が聞くと、

「ううん。こうしてられない。」

エリは立ち上がった。

買い物袋から新しいスプレーを取り出すと心琴にかけてあげる。

「ありがとう。確かにさっきよりも体が軽くなったね。」

心琴はいつもの笑顔に戻った。

「それにしても、どうしてエリは無事なんだ?」

鷲一は素朴な疑問を投げかけた。

「きっと、私、無事、連覇のくれたブレスレットのおかげ。」

「ブレスレット?」

五芒星ブルーが今日も笑いかけてくれている。

「ここ、3日、一度も外してない。」

「3日間ずっと!?」

心琴が別の意味で驚く。

「それ、静電気除去してくれるの?」

「うん。連覇、いつも私、守ってくれる。」

エリはとても優しい笑顔でそういった。

「あいつ、いつも天然でエリを助けるんだよな・・・。」

「ふふっ。相変わらずエリのナイト君なんだね。」

「うん!」

エリはこの上ない笑顔を見せた。

「・・・さて!」

心琴の全身にスプレーをし終わるとエリは立ち上がる。

「私の夢、変わった。きっと、今日動けばまた変わる。」

普段はかわいらしい青い目の少女の顔は勇ましかった。

「心琴、鷲一、病院に行った方がいい。また倒れたら、誰も来れない、困る。」

「う、うんわかった!」

エリは軽く手をふって、スプレーを小さな鞄に入れれるだけ入れた。

「二人とも、エリ行く。」

「うん。気を付けてね!」

「またな!」

鷲一と心琴は手を振った。

背伸びして扉を開けて出ていく少女はとても頼もしかった。

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