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第8章 状況

エリ!・・・エリ!!起きてください!!」

目が覚めると朱夏が心配そうな顔でこっちを覗いていた。

「物凄く、うなされていました・・・。大丈夫ですか?」

「・・・朱夏・・・朱・・・かぁ・・・・ふえええん。」

エリは目の前の朱夏の顔を見ると泣き出した。

服を手繰り寄せて朱夏のお腹にうずくまる。

「え、エリ・・・?」

「えぐっ・・・えぐっ・・・。」

泣き止まないエリをそっと抱きかかえた。

「大丈夫、大丈夫。何があっても、私たちが付いています。」

「えぐっ・・・えぐっ・・・。ひっく・・・。」

ボロボロと大粒の涙が青い瞳から零れ落ちる。

「・・・エリ・・・。」

朱夏は泣き止まないエリに困惑する。

「えぐぅ・・・ひっく・・・。」

「・・・まさか!?」

朱夏は泣き止まない理由に気づいてエリの体を起こす。

「予知夢・・・ですね?」

「・・・・・ひっく・・・。」

エリは頷く。

「・・・どんな?」

恐る恐る朱夏は聞く。

「・・・鷲一・・海馬が・・・うわああああん。」

そのワードを聞いて顔が青ざめていく。

「鷲一さんと・・・海馬お兄ちゃん・・・?」

エリは泣きながらうなずいた。

「海馬お兄ちゃん・・・昨日具合が悪そうだった・・・。」

昨日の海馬の様子は明らかにおかしかった。

朱夏が昨日お見舞いに行った時、ドアに朱夏が立っていることに5分程気づかなかったのだ。

海馬はその間ずっと勉強をしているフリを続けていた。

普段の海馬ならそもそも勉強するフリなんてしない。

ノートをじっと見つめてピクリとも動かない海馬を朱夏はドアのところでじっと見ていたのだ。

けれども、朱夏は具合が悪いという事だけにしか気づいていなかった。

きっと何かがあったはずなのに・・・。

「ちゃんと・・・ちゃんと話を聞くべきですね。」

朱夏はスマホを手に取る。

「・・・皆を収集します。」


◇◇

 

「皆さん、急に呼び出したりしてごめんなさい。」

朱夏はボディーガード3人に指示を出し、全員を朱夏の家に収集した。

部屋には心琴、鷲一、海馬、連覇が集まっている。

そこにエリと三上が同席した。

「いきなりで、ちょっとびっくりしたよ・・・。」

心琴は今までにないスピード収集に驚きを隠せなかった。

朱夏は海馬と鷲一を見るが二人ともとても静かだった。

「単刀直入に言います。エリが予知夢を見ました。」

「え!?!?」

「ま、また!?」

驚いたのは、心琴と連覇だけだ。

海馬も鷲一も静かに何も言わずに耳を傾けている。

その様子に、朱夏は辛い顔をした。

「何か・・・あったのですね?」

二人の方をしっかりと見る。

海馬も鷲一も顔色が悪い。

お互いが目配せをしているようにも見えた。

「・・・俺らだろ?」

静かに鷲一が口を開いた。

「お、俺ら・・・?」

心琴は訳が分からず心琴は聞き返す。

「そうなんだよね・・・。今回死ぬのは・・・きっと僕と鷲一だ。」

海馬もいつもとは違う弱弱しい笑みを浮かべた。

「え!?」

「なんで?!」

心琴と連覇は驚きを隠せない。

けれども、朱夏は静かにうなずいた。

「そんな?!どうしてなの!?」

心琴は冷静でなんていられない。

「エリ、予知夢見た。・・・死ぬの海馬と鷲一。」

「・・・そんな・・・。」

心琴は言葉を失った。

「で、でもさ!エリがまたデジャブ・ドリームで助けてくれるよね!?」

連覇がエリの手をつなぐ。

「昨日・・レンパ・・夢に呼んだ。心琴も・・・。でも、未来が変化しない人、泡になって消える。」

「・・・?!」

エリは昨日の夢を思い出す。

心琴も連覇も確かに呼んでいた。

そして途中で泡となり消えて、記憶は全く引き継がれていない。

「そして・・なぜか・・・海馬、鷲一、朱夏・・・呼べない。」

「呼べない?・・・私も・・・ですか?」

朱夏が怪訝な顔をした。

「デジャヴ・ドリーム発動。でも、魂の呼応無い。」

「どういう事でしょう・・・?」

状況はさっぱりわからない。

けれども、そこに海馬が口を開いた。

「多分・・・僕たち・・・魂が抜けかけているんだと思う。」

「はい?」

思ってもみない発言に思わず聞き返す。

「俺ら2人とも幽体離脱してるっぽいんだ。」

「この間、そういえばそんなことおっしゃっていましたね・・・?」

快気祝いの帰り際、海馬が言っていた事を思い出す。

「え、まさか本当に幽体離脱をされていたんですか!?」

意外と現実主義なところがある朱夏は冗談の類の話だと思っていた。

「信じてなかったの!?」

「え・・・えへへ・・・すみません。流石に信じてませんでした。」

最近の異常事態に「常識」は通用しないことを痛感して少し反省する。

「まぁ、俺らだって大したことないと思ってたんだ。あの時は。」

頭をぼりぼりと掻いて鷲一は語る。

「死神が現れるまではな・・・。」

「死神!?」

「・・・・なにそれ?」

普段の会話で「死神」なんていうキーワードを本気で信じている人はほとんどいないだろう。

けれども、二人のあまりに真剣な様子に皆は口を挟むことさえ躊躇した。

「叔父が、昨日亡くなったんだ。」

「え!?」

エリと朱夏と連覇は初めて聞く事実になる。

「え・・・アイツ・・・死んだ?」

「ああ。」

自分たちを苦しめた叔父が死んだ。

「そう・・・。」

エリは複雑な表情をして、短く返事をした。

「・・・死神が、首を切り取っていくのを俺らは見ちまった。」

「魂を切り取られると・・・死ぬみたいなんだ。」

状況が徐々に明らかになっていく。

「頭から足まで黒い布に包まれていて、目が赤く光っていた。」

「大きな鎌を持っている、中学生くらいの大きさの・・・死神だ。」

二人の証言が具体性を増していく。

「・・・!?」

その話を聞いてエリが凍り付いた。

「ま・・・まさか!?!?」

いきなり大声を出したエリをみんなが見つめる。

「エリ?どうしたの?」

「・・・・パラサイト。いる。魂を狩る人!!」

「は!?」

海馬も鷲一も目を丸くした。

「D-09言う!目の赤い、乱暴者!いつも黒い布かぶってた!!」

「え!?心霊現象じゃなかったのか!?」

てっきり心霊現象だと思い込んでいた海馬は目からうろこが落ちたような顔をしている。

「だとすると・・・その幽体離脱も怪しいですね。」

朱夏が顎に手を当てる。

「でも、エリ、幽体離脱、知らない。」

「エリが知らない人もいるということかもしれません。」

ひとまずそう結論づけると朱夏は後ろで静かに話を聞いていた三上に向かう。

「三上、話は聞いていましたね?」

「はい。すぐに調査を始めます。」

そういうと、三上は扉から出て行った。

「・・・。」

「・・・・。」

「・・・・・。」

海馬も、鷲一も具合が悪そうだ。

それに、心琴は言葉を失ったまま意気消沈している。

このメンバーが集まってここまで静かな事は今まで一回だってなかっただろう。

「ねぇ、エリ?」

沈黙をやぶって連覇がエリに話しかける。

「連覇?」

「げんき、だして!」

元気な笑顔に表情が少し和む。

「まだ、時間あるしきっと大丈夫だよ!」

歯を見せて笑う連覇にエリもつられて笑顔になる。

「それに怖くなったら、この腕輪を見てね!」

「えへへ。」

エリはプレゼントでもらったブレスレットを片時も離さず身に着けていた。

五芒星ブルーが笑っていた。

その様子を朱夏は優しい顔で見守った。

「さぁ、状況は徐々にわかってきました。」

「・・・。」

心琴はいまだ放心状態だ。

「・・・心琴さん。私たちがしっかりしなくちゃいけませんよ。」

「・・・。」

心琴はゆっくり鷲一を見る。

汗がひどく、顔色も悪い。心なしか息も荒い。

「私たちが、二人を・・・助けましょう?」

朱夏は手を前に出す。

「・・・ごめん、朱夏ちゃん。そう・・・だよね!」

心琴の目に力が戻る。

「私たちが、しっかりしなきゃね!」

「それでこそ、心琴さんです!」

心琴はその手をしっかりと握った。

「エリ、がんばる!」

「レンパだって!」

意気込む4人を男二人は細い目で見る。

「ふふっ・・・。僕らは本当に良い友人を持ったようだね。」

「ああ。違いねぇな・・・。」

徐々に体がしんどくなるのを感じつつ男二人は弱弱しく笑うのだった。


◇◇


「またね!バイバイ!」

「エリ、連覇送っていく!」

小学生の二人組は仲良く部屋を出て行った。

「あ、あの。鷲一さん。」

「・・・あ?」

話し合いが終わって、沈黙が戻ると朱夏が鷲一に話しかけた。

「すみません、少しお時間をいただけませんか?」

珍しい事だった。

「俺に?ん、まぁいいけど。」

「あちらの部屋に。」

「・・・?」

鷲一も心当たりがないようで、困惑しながらゆっくり朱夏についていった。

ドアがゆっくり閉められる。

海馬と心琴は顔を見合わせた。

「ね、ねぇ、海馬さん?朱夏ちゃん、どうしたんだろう?」

「・・・さぁね。」

具合が悪いのも相まって海馬は明らかに機嫌が悪かった。

(・・・朱夏が他の男子にああやって話しかけるの、見たことないかも)

海馬の内心は穏やかじゃない。

あまりにそっけない態度に心琴は前々から思っていた疑問をぶつけてみる。

「あれ?海馬さんって・・・朱夏ちゃんの事、好きなんじゃないの?」

「ぶっ!!なっ、何を言い出すんだ。」

あまりにも直球過ぎる質問に思わず吹き出した。

「え?いや、なんだろう。私てっきりそうだと思い込んでた。」

当たり前のことを聞いたつもりだった心琴ははぐらかすように笑う。

「・・・・。朱夏は・・・家族みたいなもんだ。」

言葉を選ぶとしたら「家族」。

それ以上踏み入ったことはしたことはない。

「ふーん・・・。」

にやにやしながら心琴が笑う。

「なんだよ、その顔は。」

「いやさぁ。朱夏ちゃん、モテるらしいからさ。」

風のうわさで聞くほどだ。

町一番のお嬢様で生徒会長、勉強もできて顔も綺麗。

モテないはずがなかった。

「・・・・。」

海馬はそっぽを向いてしまった。

「そういう言い方が一番・・・嫌だ。」

「え?」

本当に怒っているようすの海馬に心琴は少し焦る。

「僕はさ・・・。もっと立派にならないと、到底釣り合わないんだよ。朱夏ちゃんに。」

思ってもみない返答だった。

海馬はいつも自信に満ち満ちている人だ。

どんな時でもみんなの前では大体ふてぶてしく笑っている。

(そっか・・・やっぱり、朱夏ちゃんの事すごく好きなんだ。でも、自分の力が足りないと思ってて・・・。)

海馬はこちらを一切見ない。

(本当はとても・・・繊細な人なんだ。)

今まで気づかなかった海馬の一面に心琴は自分の発言を反省した。

「・・・ごめんなさい!」

そう感じた心琴はしっかり謝った。

「え?」

海馬は心琴の急変に驚いて振り向いた。

「・・・私、ちょっと考えなしだったみたい。大事に思ってないわけがないよね!いじわる言ってごめんなさい。」

「・・・ふふっ。」

その様子に海馬はちょっとだけ笑う。

「君のそういうところは・・・嫌いじゃないよ。」

「・・・うん!」

困った顔で笑う海馬に、心琴はホッとするのだった。


そんな話をしているとドアが開いた。

「お待たせしました。」

鷲一の手には何やら可愛らしいリボンが付いた鞄がぶら下がっている。

「あれ?鷲一、それなに?」

「ああ。なんか、俺のために用意してくれてたみたいだ。」

「!!?」

心琴と海馬が顔を見合わせた。

((朱夏ちゃんが鷲一にプレゼント!?!?))

「大したものではありませんよ。」

目を丸くしている二人に朱夏が注釈を入れるが耳に届いている様子はなかった。

「いや、大変だったろ。ほんと、ありがとう。」

鷲一が笑顔で朱夏にお礼をいった。

「!?!?!??」

((あの鷲一が笑顔でプレゼントを受け取っている!?!?))

心琴と海馬から黒いオーラが噴き出した。

「しゅ・・・しゅーいちーー?」

「あ?どうした?」

明らかに怒りの波動を感じ鷲一がぎょっとした。

「ちょっと、この後空いてるかなぁー???」

「空いてる・・けど・・・どうしたんだ!?」

「行こう!いますぐ!!鷲一の家に!!!」

「ちょっとどうしたんだよ!!!」

心琴が鷲一の手を掴もうとしたその瞬間。


-パチン


「いてっ!」

「あでっ!!」


強い静電気がはじけた。

「あいったー・・・。今のは大きかったね。」

「ああ。驚いた。」

心琴と鷲一は顔を見合わせる。

が、すぐに心琴の顔はさっきの黒い心琴に戻った。

「そんなことより!家行くよ!!」

「げ、ちょ、待ってくれってば!!!」

心琴に強い力で引きずられて鷲一は部屋を後にするのだった。

「えっと?・・・心琴さん?どうしたの?」

その様子にあっけにとられていた朱夏の後ろに海馬が立つ。

「ひぃ!か、海馬お兄ちゃん!?」

軽く悲鳴を上げてしまう。

「・・・僕も・・・帰るね・・・。」

「え!?あ!!み、みかみ!くるま・・・!!」

車の手配をしようとした朱夏を海馬は止める。

「いや・・・いいよ・・・ふふっ・・ふふっ・・・。」

「か、海馬お兄ちゃん・・どうしたの?!」

「またね・・・。」

「ちょっと・・・ねぇ!?海馬お兄ちゃん!?」


-バタン


扉が閉まる。

「えっと・・・。皆さんどうしちゃったんでしょう?」

困惑する朱夏に誰も答えを教えてくれる人はいなかった。

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