第7章 悪夢の再来
たくさん遊んで泥んこまみれのエリは朱夏と一緒にお風呂に入り、寝る準備も万端だ。
エリはフリフリのネグリジェを着て朱夏のベットに横になった。
「あら?エリってば・・・ふふっ。」
朱夏が部屋に入ってきた時にはもうスヤスヤという寝息を立てていた。
「たくさん遊んだのね。ふあぁぁ。私も眠い・・・。」
それでも、朱夏は勉強机に向かう。
「・・・頑張らないと。私・・・決めたんだから。」
そこにはたくさんの教科書や参考書。
朱夏は紅茶をお供にもくもくと勉強を始める。
こうして夜は更けていくのだった。
◇◇
エリは夢を見ていた。
「・・・あ・・・あれ?」
エリの夢・・・それは人の不幸を察知する予知夢。
「・・・な・・なんで?」
あわててあたりを見渡す。
「どうしたんだ?エリ?」
そこには鷲一がいる。
けれどもこれは、夢の鷲一。魂が宿っていない夢の住人だ。
「・・・。」
エリは経験上この後に何か悪いことが起こるのを知っている。
三上のおじいちゃん殺害後、再び叔父に辛さられたエリは数えきれない人殺しの手伝いをさせられた。
叔父が殺そうと思うと、その人が殺される夢が出来上がり、それを予知夢としてみてしまう。
予知夢は叔父に共有され、殺人現場のシュミレーションが出来上がる。
何度かのシュミレーションの後、ターゲットは証拠もなく殺されるのだった。
「・・・。アイツ、もう、いないはず。」
(ということは、事故!?それとも別の人が殺人を企てているというの!?)
エリの頭の中はパニックだ。
「どうしたんだ、エリちゃん。」
今度は海馬がエリの顔を覗き込んだ。
心琴も朱夏も連覇もこっちを不思議そうに見つめていた。
(場所は・・・街中の公園?日時は!?)
「あ!みてほら!日食って本当にお日様がかけてるんだね!」
心琴が上の方を指さす。
太陽の端っこがかけていく。
皆が手に持っている日食用の眼鏡を手にする。
(日食!?)
エリは驚いた。学校の先生がホームルームで日食について話をしていた。
【今週の土曜日は日食です。見たい人は大人と一緒に今日渡した眼鏡で見てくださいね。】
「今週の・・・土曜日・・・?」
「ほらほら、エリちゃん?皆既日食っていうんだよ。」
エリに関係なく夢の住人は話を進めていく。
「確か後30分くらいで完全に月と重なるんだ。部分日食は何年かに一回あるけど、太陽が丸ごと月に隠れるって本当に珍しいんだ!」
海馬が少し興奮気味で説明してくれた。
「すごいすごい!初めて見るよ!」
「私も教科書では知っていましたが、実際に見るの初めてです!」
心琴も朱夏もとても楽しそうに観察している。
鷲一は何も言わずにぼーっと空を眺めていた。
エリは気が気ではなかったが皆に倣って眼鏡で日食を見た。
確かにお日様が下の方から徐々にかけているように見える。
「・・・あと・・・30分で・・・?」
「そうだよ!あと30分くらいかな?真っ暗になるって先生言ってたじゃん!」
連覇が元気にそういって来る。
エリは日食用の眼鏡をはずしてあたりを見回す。
「30分後に・・・何がある?」
「なぁ、エリどうした。さっきからなんか変だぞ。」
夢の中の鷲一は現実の鷲一と同じように動く。
けれども、この夢に鷲一の「魂」を呼ばなくては、予知夢は、そして記憶は引き継げないのだ。
「そうだ。ここから鷲一を呼び出す、できるか?」
「はぁ?」
夢の中の鷲一にそんなことを言っても仕方がない。
エリは持てる力を使って、夢から能力を発動させた。
「デジャヴ・ドリーム!!!!」
エリの目が青く光る。
(夢の中で発動させたことは今まで一度もない・・・けど、もし呼べるのなら!!)
能力は発動した。
「??」
けれども目の前の鷲一に何一つ変化が見られなかった。
「・・・失敗・・・?」
エリは悔しそうな顔をする。
「ええええ!!」
けれども皆既日食を見ていたはずの女の子が一人と、
「・・・え!?ここどこ!?」
小学生の元気な男の子の様子が急変した。
「あー!?!?あれ?!公園だ!!」
さっきまで皆既日食に夢中だった二人が急にあたりを見渡す。
「・・・心琴?連覇????」
鷲一とは違って二人が急に騒ぎ始める。
エリを見ると駆け寄ってきた。
「エリ!!これって!!!」
「うん。デジャブドリームだよ。」
「何が起こるの!?また脱線事故!?」
連覇も心琴も混乱した。
あたりを見渡しても何の変哲もない公園だ。
とりあえず電車は突っ込んでこなさそうだった。
「わからない。私、この夢、初めて見る。でも、何か事件。」
海馬も鷲一も朱夏も皆既日食を楽しんでいる。
「ねぇ、エリ?なんかお兄ちゃんたち変だ。僕たちの事あんまり気にしてないみたい。」
「朱夏も、海馬も、鷲一も・・・呼べてない。デジャブドリーム失敗。あれは夢の住人。」
エリも理由は解らなかった。
「え?どうして呼べなかったの?」
「魂の呼応がない。あの3人は今私の呼びかけに反応しない。」
エリは困った顔をする。
「全然わかんない・・・けど、何かが起こるんだよね?」
連覇は不安でいっぱいだ。
「うん。」
エリは頷く。
「生き残らなければ・・・記憶が消える?」
心琴も同じだった。
「うん。」
エリはもっと下を向いてうなずいた。
「うーん・・・。よし!・・・私達3人で・・・とにかく生き延びることを考えようっか。」
心琴はふうっと息を吐いてから笑った。
「うん。手伝って、ほしい。」
エリは顔を上げる。
「レンパもね!」
連覇はエリに親指を立ててみせる。
「ありがとう、連覇、心琴!!」
エリはいつも通りにはにかんだ。
「みなさん、あと5分で完全にお日様が隠れますよ。」
夢の朱夏はシナリオを読むようにそう言った。
「うーん。前回のデジャヴ・ドリームから察するに、大体夢の長さって30分なんだよね。」
心琴は冷静に思い出してそういう。
「私夢に入った時、あと30分で皆既日食。真っ暗になるって言ってた。」
「ってことは暗闇で何かが起こるって事!?」
「可能性、とても高い。」
「ちょっと怖いな・・・。」
連覇も嫌な顔をする。
するとその時だった。
「あ・・・あれ?!」
心琴の体が徐々に泡になっていく。
「え!?」
「私・・・泡になってr・・・」
「心琴!!!!」
エリの目の前から心琴は消え去った。
「レンパもだ!!」
後ろを振り向くと今度はレンパが泡になっていく。
「エr・・・」
「連覇!!!!」
二人はほんの数秒で風に飛ばされていった。
「・・・って事は・・・あの二人は「この事件」とは関係がないんだ!!」
エリの予知夢では夢によって人生に変化がない人は泡になって消えてしまう。
残るのは「影響が大きい人」と「犯人」そして夢の住人だけだ。
前回の事件では影響がある人が多すぎて夢の住人はいなかったが、今回は違った。
あたりを見渡すと、夢の住人の海馬と鷲一、朱夏だけが残っている。
(この夢は・・・なんなの!?何が起こるの!?)
エリの焦りはむなしく、時間はあっという間に過ぎた。
お日様は徐々に隠れる。
あたりがどんどん暗くなる。
「いよいよですね!」
「ああ。綺麗だな。」
「ロマンを感じるね!」
夢の3人は楽しそうに過ごしている・・・ように思われた。
お日様がすべて隠れ、世界が一瞬闇に包まれた瞬間、事件が起こったのだ。
「ぐあ!!!!!!」
「がっ!!!!!」
「海馬お兄ちゃん!?鷲一さん!?!?」
朱夏の悲鳴でエリは事態に気が付く。
駆け寄ってエリは目を見開いた。
海馬と鷲一が苦しんで倒れている。
二人とも背中がのけぞり、首をかきむしっている。
「海馬!?鷲一!?どうした!?」
2人とも首筋を立てて、顔は青ざめていく。
口から泡を吹き、目が白目に代わっていく。
「きゃあああああああああああああああ!!!」
二人の異常な苦しみ方に朱夏が叫ぶ。
エリは周りを見渡すが誰もいない。
「っ・・!ぐぁ・・・!!!!」
「た・・・す・・・け・・・っ・・・!!!」
海馬が手を伸ばしてくるも、エリの目の前で力尽きた。
鷲一も、海馬も・・・太陽の日が差すころにはピクリとも動かなくなっていた。
「う・・・うそ・・・そんな・・・どうして?!!?!」
目の前で大事な人が死ぬ。
「やっと・・・やっと・・・脱線事故から逃れたのに・・・。」
エリはその場にへたり込んだ。
「なんでだあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
悲痛な叫びは涙と共に夢の公園にむなしく響くのだった。