第4章 夜の病院
時間になり、退院祝いは終了した。
「それじゃ、またな!今日はありがとう!」
鷲一は皆を玄関で見送った。
「こっちこそありがとうだよ!」
心琴は靴を履きながらお礼を言った。
「鷲一?エリ、また遊びにきたい!」
「おう、今度は連覇も連れてこい。」
エリも大きく手を振った。
「そうだ・・・。」
玄関で靴を履き終わった海馬が何かを思い出す。
「あ・・・あのさ・・その・・・夜・・もしだよ?もし、また幽体離脱したら・・・病院に来てくれ・・・ないか・・・。」
「はぁ!?」
思ってもみないお願いに鷲一が驚く。
「幽体離脱?ですか?」
朱夏もエリもキョトンとした。
「いや、昨日、まじで・・・幽体離脱しちゃったんだよ・・・。」
「は・・・はぁ。」
流石の朱夏もにわかには信じがたい様子だった。
「エリ?先ほどの話ですが、その能力者・・・パラサイトには幽体離脱をさせる人っていますか?」
「エリ、聞いたことない。いないと思う。」
エリは首を横に振った。
「うーん・・・パラサイトではないという事なら・・・やっぱり・・・。」
そして、朱夏が海馬をみてこう結論付けた。
「心霊現象ですね!」
「のおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
海馬はその場に崩れ落ちた。
「ふふっ。海馬お兄ちゃん、相変わらずこの手の話苦手なんですね。」
少し黒い笑顔で言う。
「相変わらず?」
心琴が聞き返す。
「はい。射手矢先生・・・海馬お兄ちゃんのお父さんは・・・病院での体験談を元にした怪談話をするのがとてもお上手で!」
「や、やめてくれぇぇぇ!!!」
海馬は青ざめた顔で耳をふさいだ。
「あー・・・「リアルな」心霊現象の話か・・・。」
「なんか、ちょっと気の毒だね。」
ニ歳年上の情けない姿を同情のまなざしで心琴と鷲一は見るのであった。
◇◇
「おい・・・。」
「あああ・あ・あ・あ・あ・・・・。」
「おいってば!!!!」
「!!」
声をかけられて震えている海馬は顔を上げた。
「鷲一・・・。来てくれたのか!!!!」
時刻は午前2時。
場所は病院の海馬の個室。
男二人はまたもや幽体離脱をしてしまっていた。
「どうしてこんなことになっちゃったんだ!?連日だぞ!?」
「知らねぇよ!!ってか、自宅から普通に空を飛んでこれたんだが。」
鷲一は帰り際の海馬のお願いを聞いて病室まで「浮遊」してきていた。
「まじか!!」
「ああ。壁を突き抜けれるし、体から伸びてる線をたどれば戻れるみたいだしな。」
鷲一は体から伸びてる光の線を指さす。
この線は体のおへそから生えているようだった。
「僕も、少しだけ、飛んでみようかな・・・。」
「ああ。その方が気が晴れるかもしれねぇ。どうせまた1時間はこのまんまだろ。」
昨日がそうだった。
「そうだね・・・このままだと・・・死神が出ちゃうかもしれないしね。」
「は?死神?」
海馬の言葉に耳を疑う。
「父さんが良く話してた。病院の死神の話だよ。しらねぇの?」
「しらねぇよ。」
ぶっきらぼうに鷲一が答える。
少し困った顔をして海馬が語り始める。
「どこの病院でもよくある怪談話だよ。黒い布に骸骨のような顔をした大きな鎌をもった人が壁をすり抜けて病室に入っていく。そして、その病室の人は翌日亡くなってる・・・そんな話だ。」
「ふーん。」
鷲一は生暖かい目で海馬を眺めた。
「な!フーンってなんだよ!!!死神が来たら殺されちゃうんだぞ!!」
「あー・・・。はいはい。」
小学生でも今時信じない怪談話を目の前のチンピラ風の男は心の奥から信じている。
「ちくしょー!!死神が出てもしらないからな!!」
そんな話をしていたその時・・・
-カラン・・・ガガ・・・ガガ・・・
「!!!!!」
「え?なんだ、今の音?」
聞きなれない金属音が聞こえた。
-カラン・・・ガガ・・・ガガ・・・
「まただ・・・。」
「ひぃ!!!」
「静かに!見つかるぞ。」
音は次第に大きくなった。
-カラン・・・ガガ・・・ガガ・・・
そして・・・個室から廊下につながる扉の窓から黒い影が見えたのだ。
目が赤く光り、その手には等身大の大きな鎌。
だったギザギザの歯がにやりと笑った。
「---っ!!!!!!」
海馬は叫びそうになるのをぐっとこらえた。
鷲一も実体のない体なのに冷や汗をかいている感覚に襲われる。
-カラン・・・ガガ・・・ガガ・・・
部屋の前をゆっくり一歩ずつ歩いていく。
そして廊下を通り過ぎ、海馬の個室の前から姿を消した。
廊下の奥にはもう一つしか部屋はない。
「あ・・・あっちの奥の部屋って確か集中治療室・・・。」
「お前の叔父がいるところ・・・だよな。」
「まさか・・・。」
その時だった。
「ぐあああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
酷い、叫び声が聞こえた。
「!?!?!?」
「・・・叔父の・・・声・・・。」
-カラン・・・ガガ・・・ガガ・・・
「また来るぞ、静かに。」
廊下を先ほどの逆方向へ。死神が歩く。
海馬も鷲一も息を殺してドアの窓を注視する。
-カラン・・・ガガ・・・ガガ・・・
死神がドアの前を通過した時鷲一は確かに見た。
(叔父・・・の首・・・だ・・・・)
死神は、乱暴に髪の毛で頭を肩に担いで持っている。
首から下は無かった。
-カラン・・・ガガ・・・ガガ・・・
そして、死神はゆっくりと闇の中へ消えていった。
しばらくして死神の気配が消えた。
「も、もう大丈夫・・・か?」
ひとまず殺されなかったという安心感に鷲一は心をなでおろした。
「海馬、見たか?叔父が・・・って・・・おま!!」
海馬は恐怖のあまり泡を吹いて気絶していた。
「・・・どうりで静かだと思ったよ・・・。」
よっぽど心霊は苦手なのだろう。
「霊魂でも気絶ってできんだな・・・。」
どうでもいいことをつぶやきながら、鷲一はあきれ顔でため息をつくのだった。