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第31章 帰還

あの後、私たち一行は丸尾さんに病院へ連れられた。

心琴の家族が病室に入ってきたときはもう大変だった。

「お姉ちゃん!大丈夫!?怪我したって!!」

まずは妹の心湊みなとがあわただしく入ってくる。

今回は桃に拷問されたので本当にあちこち怪我だらけだった。

体中が包帯だらけだ。

「どうして心琴ばかりが巻き込まれるの!?」

お母さんはヒステリックに叫んでいた。

「お、落ち着きなさい。今は心琴は体を休めなくちゃいけないんだぞ?」

心配性のお母さんをお父さんが優しくなだめる。

「心配かけてごめんなさい・・・。」

心琴はしょげながら謝った。

「お前が無事だったから良かったものの・・・もう危ないことに首を突っ込んじゃダメだぞ?」

お父さんも本当に心配そうに心琴に言った。

「うん・・・。でも・・・私は・・・お母さんとお父さんと心湊が無事でよかったよ。」

「え・・・?」

心琴は心底安心したように言う。

町全体が幽体離脱を経験していた。

不思議な現象が起こるとき娘が必ず怪我をする。

お父さんもお母さんもなんとなく娘が何をして怪我をしたのか分かった気がした。

「心琴・・・?あなた・・・。」

「お母さん、今は良い。心琴を休ませてあげよう?」

優しくお父さんが言うとお母さんも頷く。

「ひとまず顔が見れてよかった。明日朝に来るからね。」

「・・・いつか、話してね?」

「・・・うん。」

心琴は隠すつもりは無かったが、両親はそっとしておいてくれた。

「ねぇー。お姉ちゃん。彼氏さんって隣の部屋?」

「こぉら。心湊!帰るよ!」

無粋な質問をする妹を引っ張るように両親は帰っていった。


「良いご両親だな。」


相部屋の鷲一がカーテンから顔を出す。

「あはは・・・。まさか同じ部屋の隣のベッドにいるなんて・・・心湊が知ったらうるさかっただろうな。」

そう、今心琴は4人部屋に入院していた。

「まぁ、この人数だからな。」

鷲一がいた治療室は今は三上が使っている。

同じ部屋には他に角田と桃がいた。

「おじさんとおんなじ部屋とかー。超ウケるんだけど!キャハッ!」

「ってかなんでこいつがここに居るんだ!!!こいつ、三上さんを傷つけたやつじゃねぇか!?」

角田と桃はまた喧嘩をしているようだ。

さっきからずっとこの調子だ。

角田は死神に切り付けられた両足と両腕を包帯で巻かれている。

桃は死神との戦闘であばら骨を骨折していたらしい。

「まぁ、「死神にやられた仲間」って事でいいんじゃない?キャハッ!」

「よくねぇ!!ちっともよくねぇ!!」

角田と桃の会話はほぼ一方通行だ。

大声で騒いでいると扉が乱暴に開いた。

「コラァ!!!!病院では静かにしなさい!!!」

声を聞きつけて海馬のお母さんが入ってきたのだ。

「ごめんなさい!!」

「すんません。」

二人はすぐに謝った。実はもう3回目だ。

「もう・・・勘弁してよ。患者が増えて休む暇がないんだから。」

「だ、大丈夫ですか!?」

幽体離脱で満員状態だった病院は、朱夏が海馬を静電気除去スプレーで回復した事を受けて、病院でも患者にスプレーをするという処置を施した。

軽傷者はそれで治ったが、体の不調が治らない人はたくさん居て、病院のベッドはもはや満杯。

その中に三上やら角田やら重症の患者が次々と入ってくる。

正直、医療現場の過酷な現状を目の当たりにした気分だった。

「すみません・・・何度も入院して・・・。」

鷲一が申し訳なさそうに言った。

「体調が悪いことは、その人のせいじゃないわよ?でも・・・」

「でも?」

「今回の事件を起こした人には恨み言を言いたいわ・・・。」

健気に患者を治療する医者の後ろで桃色の髪の毛がビクッと飛び跳ねたのを心琴は横目で見ていた。

「あはは・・・。そうですよね。」

「まぁ、もう無いと思います。」

海馬の両親が一番の被害者なのかもしれないと思う心琴と鷲一だった。

「そういえば、バカ息子なんだけど。」

「え?海馬さんがどうかしました?」

急に海馬の話題になり二人は顔を見合わせる。

「朱夏ちゃんと、何かあったのかい?」

「え?」

二人は顔を見合わせるがあったことと言えば、首輪事件だった。

思ってもみない形で「朱夏の一番大切な人」が海馬だとバレた。

けれどもそんな事を言えるはずもなく二人は首を横に振る。

「いえ、特に何も知りません・・・。」

「そっか。それなら良いんだよ。」

海馬のおかあさんはそう言うと、そっと笑うのだった。

「いやね・・・?さっきバカの部屋にいったら・・・朱夏ちゃんと海馬が同じ布団で寝ててね?」

「えええ・・・!?!?!?」

「あ・・・あいつ手を出しやがったのか!?」

二人は顔を赤くして驚いた。

その様子に言い方が悪かったとお母さんは慌てて訂正をする。

「いや、違うよ!やましい意味じゃないよ?!」

「え・・・ああ!!そう・・・ですよね!!!あはは。」

二人はちょっと恥ずかしい勘違いに困った顔で笑った。

「・・・疲れたのか昔みたいに仲良く寝てたのさ。小学校の頃の二人を見ているようだったよ。」

海馬のお母さんはすこし遠くを見ながらそう言った。

「3年くらい前に、大喧嘩してからあの二人全然会ってなかったのに・・・最近仲が戻ってさ、私は嬉しいよ。」

「・・・大喧嘩?」

初めて聞くことだった。

そう言えば二人とも声をそろえて「しばらく会っていなかった」と言っていたのを思い出す。

二人が首をかしげていると海馬のお母さんは失言に気が付いた。

「ありゃ、聞いてない?あー・・・じゃぁ今のは聞かなかったことにして。」

「は、はい。」

聞かなかったことにしてと言われても聞いてしまった記憶は消せない。

心琴は気になったがそれ以上は聞くことが出来なかった。

海馬のお母さんは言いたいことを言い終えると颯爽と出口に向かう。

「それじゃ、お二人もゆっくり休んでね。今日の夜は私担当だから、何かあったらナースコール押してね。」

「あ、ありがとうございます!」

二人にそう言うと今度はにらみ合っている角田と桃に向かいなおす。

「それから、そこの桃さんと角田さんは静かにしてね!!」

「は・・・はい。」

「すみませんでした。」

二人共海馬のお母さんには素直に謝った。

どうやら二人も海馬のお母さんには頭が上がらないらしい。

しばらくすると、消灯の時間となり電気が消える。


「鷲一、おやすみ。」

「ああ。心琴、おやすみ。」


二人は隣のベッドですやすやと寝息を立て始める。

心琴と鷲一は朝までぐっすり眠るのだった。

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