第30章 寄生と理性
心琴、朱夏、鷲一、海馬、連覇、そしてエリはいまだに桃と抱き合う魔女の元へ歩いた。
「そろそろ・・・行こう?」
真剣な顔で心琴が魔女に話しかける。
魔女は桃からそっと離れて6人に向き合った。
「ああ。わかったよ。ちゃんと自首して罪を償うことにする・・・。」
「ママ・・・。私これから・・・どうしたら・・・?」
桃も、そして死神と杏も魔女が居なければ居場所などない。
「・・・自由に、思ったようにお生き。これからは誰に束縛されえることもないだろう。」
「・・・うん。」
桃は不安げな様子だ。
魔女は桃の背中をポンとたたくと、心琴の前に押し出した。
「素敵な友達ができたんでしょ?もう、桃は一人じゃないはずだよ。」
「・・・・うん!」
桃は心琴と朱夏の隣へ歩いた。
「少しの間、力を貸してもらうことになると思う。助けてくれるかな?」
少し、もじもじとしながら桃は心琴と朱夏を見た。
そこには、二人の笑顔がある。
「もちろんだよ!」
「ええ。頑張りましょう!」
2人の笑顔に釣られるように桃も笑顔になる。
「ママ?桃ね、素敵な友達ができたみたい!」
「はぁん・・・良かったねぇ。安心したよ・・・。これなら、安心して刑務所に行けそうだ。」
そういうと、魔女は起き上がり、歩き始めようとした・・・その時だった。
「う・・・うえええええええええええ!!」
魔女が急にお腹を抱えて苦しみ始めた。
「え!?ええ!?ママ!?どうしたの!?」
慌てて桃は駆け寄る。
「なんだなんだ!?」
海馬達も異変に魔女を囲む。
「げ・・・!?」
そして、魔女の口の中から気味の悪い緑色の何かが這っているのを見てしまった。
「な・・・なにこれ?」
「俺様もこんなの・・・見た事ねぇぜ・・・?」
杏も死神も驚愕している。
緑色の何かはどんどん魔女の体から出てきているようだ。
「皆、距離を取って。危険かもしれない。」
海馬がそういう。
困惑しながらも心琴達は魔女と距離を取る。
桃だけが魔女のそばで体をさすった。
「ウェエェェェェエエエエ・・・ガボッ・・・ゴボッ!!!」
「ママ!!ママ!!!」
魔女は苦しそうにしている。
喉の付近で詰まっているのか、暴れ回っている。
桃は臆せず魔女の口に詰まっている緑色のそれをむんずと掴んだ。
「げ!?桃ちゃん!?!?」
心琴は桃の勇気のありすぎる行動にぎょっとした。
「ママの体から・・・出てけ!!!!」
それを思いっきり引っ張る。
「ガハッ!!!!!」
魔女の口から生まれるように緑色のそれが正体を現した。
蛙みたいなぬるぬるとした緑色の皮膚・・・。
人の指のような二本の長い突起・・・。
その先に袋のような物がついていて、中には液体がびっしり入っている。
「きゃぁ!!!きもい!!!きもすぎる!!!!」
桃は正体を現したそれがあまりにも気持ち悪くて投げ出した。
ベチャっという音と共にみんなの前に飛んでいく。
皆んなは緑の生き物をまじまじと見た。
「げ・・・。ぐろい・・・。」
「なに、これ!?」
「見たことありませんね・・・。」
「映画に出てきそうだな。」
それぞれが口々に感想を言っているとさらに驚くことが起こる。
「あ・・・逃げた!!!」
訳の分からない緑色は指のような部分を足のように動かして逃げ出した。
ぬちょぬちょという気味の悪い音を立てながらあっという間に離れて小さくなっていく。
「建物に向かっていくぞ・・・?」
その気持ち悪い姿に皆は唖然として立ち尽くした。
緑色の指のような部分で壁にくっつき建物を器用に登っていく。
「あ・・・あの緑色の奴・・・二階の窓に向かってるみたいだ。」
「はぁん??・・・ああ!そうだった。今日はあの方がいらしているんだ。」
地下室で響いた謎の声。
その存在を思い出す。
「あの方って・・・だれ?」
「この組織の本当の創設者さ・・・。」
風に二階の窓のカーテンがなびく。
一瞬、ちらりとだけカーテンの隙間からその姿があらわになる。
そのシルエットに一瞬、強い太陽の光が当たった。
皆がその姿を見る。
そこにいたのは白髪の老人だった。
丸い眼鏡をして、白衣を身にまとう姿にエリは見覚えがあった。
「あの方こそ・・・パラサイトのボスだ。」
魔女がしっかりとそう告げる。
「嘘・・・おじい・・・ちゃん?」
エリは手のひらで口をふさいだ。
三上とエリの目の前で殺された時と寸分の違いもない老人がそこには居た。
「おじいちゃん?」
「知っている人なのか?」
海馬と朱夏が質問を投げかけるが、エリは驚いて硬直している。
「エリ?」
顔を覗き込まれてようやく我に返ったエリはみんなを見た。
「あの人・・・昔、殺された、・・・三上のおじいちゃんだ!!」
「ええっ!?!?」
その発言に事の顛末を知っている5人は声をそろえて驚く。
その老人は緑のソレを抱きかかえると一瞬で闇の中へ消えていった。
「え・・・もういない?!」
カーテンが閃いた1秒の間にその人間は忽然と姿を消した。
「・・・なんだったんだろう?」
「幽霊・・・でしょうか?」
あまりにも一瞬で消えたので朱夏は幽霊を疑ったがすぐに否定された。
「いや、霊じゃないぜぇ。みんなも見えただろぉ?」
霊に関しては強い死神がそう言った。
「それにしても・・・さっきの緑の手みたいな奴・・・なんだったんだろうな。」
「はぁん。あんたら、あれが何か知らないのかい?三上は知っていそうだったけどねぇ。」
「え・・・?」
拷問した時の情報から魔女は皆があれの存在を知っていると魔女は思っていた。
「ママ、あれが何かわかるの!?」
桃の問いに魔女は眉間にシワを寄せながら答えた。
「あれこそが・・・パラサイトだよ。」
「え・・・。」
「なっ!?」
「はぁ!?!」
誰もが一緒言葉を失った。
言っている意味を理解出来ない。
それでも魔女は話を続ける。
「あれを液状にして、体内に注入するんだ。そうすることで遺伝子にあれが寄生する。寄生すると、適正のある人間なら異能に目覚めるのさ。」
そう聞いて、桃は顔を引きつらせた。
「ま・・・まって?!それって・・・もしかして私たちの体にも・・・。」
自分の体を異物のように見つめた。
「ああ。あれがいる。」
目を伏せて魔女が言った。
「え!?」
「い・・・嫌っ!!」
「マジかよ。」
「ヤバッ!!キモッ!!」
パラサイトにさせられた桃、杏、死神、エリは衝撃の事実に目を見開いた。
エリも嫌悪の表情で自分の手を見つめる。
「なんて実験をしてやがるんだ。」
鷲一が吐き捨てるように溢す。
「真っ当な人間のやる事じゃないね。」
海馬も口を押さえて青筋を立てている。
「エリ・・・。大丈夫?」
連覇がエリの顔を覗き込む。
「大丈夫・・・。でも・・・知りたく、なかった。」
本当は全然大丈夫そうじゃないエリに連覇はそっと寄り添った。
「外して!!今すぐ!!!外してよ!!!」
桃は動揺してママを揺さぶった。
「・・・できないのさ。」
残念そうに首を横に振る。
「なんで!?注入したのはママだよね!?」
「あんたたちの体に入っているのは抽出した細胞だけ。あんなのが丸ごとは入っていない。あれは・・・生きている。」
動いている緑の手のような物体を魔女は忌々しい表情で見つめている。
「・・・え?じゃぁ、どうしてママの体にはあれがいたの?」
何と説明したらいいかしばらく悩んで魔女は口を開いた。
「私達Sの番号が5人いるのは知っているかい?」
「うん・・・。幹部5人・・・。私達Dをまとめる5人だよね。」
「S・・・Sが5人?」
心琴達は初めて聞く情報に顔を見合わせた。
魔女は切々と知っていることを話し続ける。
「ここにいた、向井和弘もその一人さ。」
「叔父が・・・?」
鷲一は眉がぴくっと動く。
「叔父は・・・向井和弘は何番だったんだ?」
「アイツはS-01。ボスの一番のお気に入りさね。」
魔女は鷲一の質問にも素直に答えてくれる。
「その5人は・・・成人した大人だろ?」
「そう言われてみればDの番号はみんな子供ね?」
桃も死神も杏もエリも成人していない。
他のDも成人した人を桃は見たことがなかった。
「私S-02がママって事と03しか会ったことがないから、Sが全員大人かは知らないけど・・・。」
「はぁん?そうだったかいな。まぁ、全員大人なのさ。」
肩をすくめながら魔女はそういう。
「それで・・・?大人だとどうなるんですか?」
朱夏は話の先を促す。
「大人は・・・パラサイトの寄生がほとんど上手く行かなんだよ。子供みたく、少量の細胞だけで済むことはまずなくてね・・・大量に寄生させることでようやくパラサイトの異能が使えるようになるんだ。」
魔女は指を一本立てた。
「大量に・・・つまり一匹丸ごと・・・さ。」
「うげ・・・。」
皆は異常なものを見るような目で魔女を見た。
その様子に肩を落としてしゃべり始めた。
「・・・昔、まだDの番号だった私は、無能力者だった。細胞を注入しても能力が発現しなかったのさ。そこにいる杏と同じでね。」
「え・・・?」
杏は驚いた様子で魔女を見た。
魔女は少し杏に微笑むと再び話始める。
「・・・役立たずだと罵倒される日々に研究者として抜擢を受けた。そして、研究に協力するという同意書にサインをしてしまったのさ。もうすぐ成人するって頃だった。研究のためとはいえ、今考えるとそれがすべての間違いだった。」
魔女は目を細めて懺悔をするかの如くつぶやく。
「あの時はこうなるなんて知らなかった。気が付いた時にはもう手遅れで、麻酔をかけられた後にどこか実験台のような場所へ連れられて・・・手足を縛られ・・・切開した傷口からあの緑の物体を無理矢理ねじ込まれたのをうっすらと覚えている。拷問のような痛みが延々続いたさね・・・。」
「ママ・・・。」
ママの初めて聞く過去に桃は顔をしかめて聞いた。
「私の体にパラサイトが注入された日から・・・私は急に欲望を抑えることが出来なくなった。腹が立てば打つ、欲しいものは奪う。そして・・・桃を最高の娘にしたいと・・・思い始めてからおかしくなった。他人を蹴落として、傷つけて・・・時には殺した。・・・君たちを使ってね。」
「ケッ・・・。本当は今すぐでもテメェをぶっ殺してやりたいぜ。」
死神は心中が複雑な様子だ。
「けど・・・なぜか・・・死神、お前に魂を切り取られてからは・・・元に戻れたんだ。」
どことなくすがすがしい顔で魔女は言う。
「あぁ!?・・・どういう事だぁ?」
死神はその発言に怒りをにじませた。
「・・・今まで、自分では止めることが出来ない欲望を延々と満たし続けるしかなかった。」
まともな判断などできなかったのだろう。
冷静に考えれば考える程「異常」だという事に今の魔女にはわかった。
「憶測だけどねぇ・・・魂とアレが融合していたんじゃないかと思う。さっき死神が魂とアレを切り離してくれたのさぁ。おかげで元の自分に戻れた。ありがとう、死神。」
魔女は深々と死神に頭を下げた。
死神はその様子に怒るに怒れなくなる。
「あぁん?!てめぇに礼を言われる筋合いだけはねぇよ。ケッ。」
そう言ってそっぽを向いた。
「・・・でもよ、結局アレのせいでババァもおかしくなったって事なのかな・・・。」
死神は怒りの矛先をどこへ向ければいいかわからなくなっていた。
今までは死神の中で「悪=ババァ」の公式が頭の中で成り立っていた。
けれども、実際はババァを倒したところでさらに上がババァを利用していた。
死神はどうすればいいのかわからなくなった。
怒りのやり場がなく地面をにらみつける。
けれども、そんな死神の手を杏が握った。
「お兄ちゃん。私さ。パラサイトがいなくなれば一番いいと思う。」
杏は死神に笑いかける。
そして、それを見て、死神もどこへ向けばいいのか分かった気がした。
「そしたら、私達みたいな被害者が出なくて良くないかな!?」
「そう・・・だな。」
死神も杏に笑いかけた。
「ああ。さっきの奴、いつか探し出して・・・ぶっ殺す。」
死神は杏と共に戦う決意を固めたのだった。
これ以上、自分たちと同じような被害者を出さないために。
そんな二人とは裏腹に頭を必死で動かす心琴が口を開いた。
「ごめん・・・えっと・・・要するに、魂とパラサイトを切り離せばSの番号の人は元に戻る・・・って事?」
心琴は頑張って今の話を理解しようとまとめてみる。
「そういうことになるね。」
魔女は簡潔にまとまった内容にうなずいた。
「そういえば・・・鷲一の叔父さんも生きていた頃と比べて優しかったですよね。」
朱夏が思い出したかのようにそういった。
「は?なんで叔父の名前が出てくんだよ?」
鷲一は再び叔父の話になりさらに眉をひそめる。
今日は何度もその名前が出てきて不愉快だった。
「それが・・・心琴さんの体に憑依していたんです・・・。」
「なっ!?なんだって!?大丈夫か、心琴!?」
思ってもみない言葉に鷲一は驚いて、心琴を上から下まで眺める。
あの叔父の事だ、何をするかわかったものじゃない。
けれど、心琴はむしろ恥ずかしくなり慌てて離れた。
「わ、私は大丈夫だよぉ!っていうよりも・・・あの人が私たちを助けてくれたらしいの。」
「え?」
鷲一は信じられない言葉を聞いて思考が停止する。
「んなわけ・・・。」
そんなわけないと言おうとするとエリが口を挟んだ。
「アイツ、鷲一、助けたい、言ってた・・・。」
「死ぬ未来を変える方法を教えてくださったんです。」
口々に、聞く信じられない言葉に鷲一は戸惑った。
「・・・なんだよ・・・それ・・・。」
今まで受けたひどい仕打ちとは打って変わった行動。
先ほどまでの話をまとめると、パラサイトと魂が切られたら「元の人に戻る」。
それはすなわち・・・叔父も魔女と同じように寄生による欲望の暴走があった可能性があるという事だった。
「最後に・・・アイツ、ゴメン・・・言ってた・・・。」
その言葉を聞いて、鷲一は目を瞑った。
パラサイトにとりつかれたが故の行動だった可能性がどうしても否めない状況に鷲一は強く拳を握る。
「なんだよ・・・それ・・・。アイツでさえ・・・被害者って事かよ。」
「鷲一・・・。」
心琴は鷲一を心配そうに眺めた。
けれどもその心配をよそに鷲一はしっかりと前を見据えた。
「・・・パラサイトを作ってる奴を探し出して、止めさせよう。」
鷲一は睨むように先ほどの窓を見上げた。
そこには、暗い闇があるだけだった。
「うん。僕らにできるかわからないけど・・・。やれるだけやってみようか。」
海馬もいつものふてぶてしい顔で笑った。
「幹部・・・あと3人いるって話だよね。探し出さなきゃね。」
心琴もやる気満々だ。
「では、帰ったら早速作戦会議ですわ!」
「まって・・・一回病院に行かせて!!!」
早速手配しようとする朱夏を慌てて心琴が止めに入る。
「あ・・・あはは。そうですよね・・・。失礼いたしました。」
前回も似たやり取りをした覚えがあり、ちょっと恥ずかしそうに朱夏は言った。
「連覇も・・・エリや杏を悲しませる人は許さないぞ!!」
「え?ウチも含めてくれるの!?連覇って本当優しいなぁ!!」
かっこよくポーズを決めて叫ぶ連覇に杏が思いっきり抱き着いた。
「あー!ちょっと、連覇はエリのナイトなの!!くっつく、だめ!」
杏とエリは連覇を挟んで喧嘩を始める。
「ちょ、ちょっと二人とも!?喧嘩はだめだよぉ!!」
そのようすに焼きもちを焼いたエリが杏を引きはがそうとする。
けれども力が足りずに杏は連覇にくっついたままだ。
「フンッ!!杏、知らない!!」
「ベーっだ!知らなくてもいいもん。ウチには連覇がいるし?」
「うぐぐぐ!!!」
睨み合いは徐々に激しくなり連覇は左右を交互に見る。
「ちょっと、ふたりともぉ仲良くしてよ!!!」
連覇は二人をなだめようとするが、二人は仲良くする気配はない。
「ま・・・まいっちゃったよぉ。」
最終的に連覇は高校生達に視線を移して助けを求めた。
「フフッ、連覇くん、モテモテですね!」
皆はその様子を朱夏がほほえましく見守る。
「でも、一番は・・・五芒星レッドだもんね?」
先ほど一番を聞かれたときにエリでも杏でもなく、五芒星レッドに紐が巻き付いた事をすかさず海馬が茶化した。
「もー!!海馬お兄ちゃんは意地悪だ!!!僕は真剣にレッドが大好きなの!」
「ぶふっ・・・・。ぶふふっ。」
笑いをこらえきれずに噴き出す海馬を連覇はにらみつける。
「また、お前は性懲りもなく人をからかうなよ。」
小学生をからかって笑う海馬を鷲一が小突く。
「いてっ!!何すんだよ!」
「連覇。こういう大人にはなるなよ?」
鷲一が海馬を呆れた顔で指さす。
「うん。ならない。」
連覇は口を尖らせた。
「あははっ!でも、ウチそんな連覇も好きだよ!」
杏は細かいことを気にしない子だった。
「す・・・すき!?連覇、この子、離れる!!!」
エリは必死で連覇を引っ張る。
「おい、杏、程ほどにしとけや。・・・こりゃ、しばらく賑やかなりそうだなぁ。」
死神が呆れながら妹を眺めた。
その言葉とは裏腹に表情はとても穏やかだ。
「あはは。死神君・・・ってあれ?そういえば本名は?」
「死神のままでいいぜ。」
心琴が聞くと、めんどくさそうにそう言った。
「おにいちゃんは哲也だよ?鴉根哲也。私は鴉根杏。」
「おぉぃ!!!早速ばらしてるんじゃねぇぞぉ!!!」
仲のいい兄妹はいつもの調子が出てきたようだ。
「ごめーん!!あははは!!」
「あははは!!」
「うふふっ!!」
これだけ人数がいると目まぐるしく会話が弾んだ。
皆でいつまででもこうしていられそうだなと心琴はひっそりと思った。
解間しいほどの笑い声は光り輝く草原に響きわたる。
その様子をのんびり眺めながら魔女は愛娘に話しかける。
「なぁ、桃?」
「なぁに?ママ。」
桃の顔も穏やかだ。
「良い、友達に巡り合えて本当に良かったねぇ。」
その笑顔はまぎれもない愛に満ちたものだった。
「・・・・・うん!」
二人は本当の親子のように寄り添った。
「おーい!!」
遠くの方で丸尾が叫ぶ声が聞こえる。
「あ・・・丸尾さんの声だ。」
「・・・行きましょうか、エリ。」
エリはもう一度だけ窓をみる。
しかし、そこには誰もいなかった。
「うん。」
エリは道路に向かって草原を歩き出す。
「さぁ!みんな・・・帰りましょう!」
「ああ。」
「うん!」
「おぅ!!」
皆もエリを追って草原を歩き始める。
こうして全員がゆっくりと戻り始める。
異常な世界から自分たちが本来いるべき日常へ帰るために。




