第29章 光
上空。
桃は魂の姿で死神と杏を追いかけた。
「・・・まだよ!!!死神!!!」
「・・・あぁ!?」
二人は下の方からの叫び声に振り向いた。
霊魂になった桃は、死神と杏ちゃんをしっかりと見つめている。
「桃・・・さん・・・?」
「なんだよ・・・もも。」
桃は死ぬつもりの二人を見て笑った。
「ねぇ、今度はさ。二人も私の友達になってよ!」
「今度って・・・俺ら死ぬんだぞ?」
今までにない穏やかな笑い方をする死神に桃は笑いかける。
「じゃぁ、今友達になって?」
「無茶苦茶だな・・・。まぁ、良いぜ。友達だぁ。」
強引な桃に少し困惑するが、最後のお願いだと思って聞くことにする。
「ウチも友達になってあげるよ。人生最後だしね!」
杏も笑いかけてくれる。
「キャハッ!!2人とも今の言葉・・・絶対に忘れないでね?」
そう言うと二人にウインクした。
「桃の根性・・・見せてあげる!」
「何を・・・言ってるんだぁ!?」
急にざわつく周りに死神はビビる。
「イジェクト・ソウル!!!!!!!」
桃が倒れた死神の体と杏の体に静電気ボールを浴びせる。
桃の目が桃色に光る。
「かーらーのー!!!!」
死神は嫌な予感が急にしてくる。
「インサート・ソウル!!!!」
「え・・・ちょっと・・・ま!!!」
空に昇って行っていた魂は急に逆向きに加速する。
浮遊感が消え空のかなたから二つの魂は落下を始めた。
「うわあああああ!!!!」
「きゃあああああ!!!!」
現実世界で言うなら飛行機から地面への落下。
「し・・・しぬううう!!!!」
思わず死神は死んでいるのにそう叫んだ。
死神と杏の魂は体にすっぽりと入った。
「え・・・え・・・えええええ!?!?!」
「はぁっ・・・はぁっ!!!!」
体を起こすとそこは・・・先ほどまでいた原っぱだった。
連覇が杏の上に覆いかぶさるように泣いている。
「・・・れ・・・連覇?」
「杏・・・杏ちゃん!?!?」
「ウチ・・・生きてる?」
手をグーパーしてみると魂は本当に体に戻っていた。
「うん!!うん!!!生きてるよ!!!!」
連覇は笑ってその手を握った。
「良かった・・・。」
その様子を見て、魔女は歯ぎしりを立てながら怒った。
「なぜだ・・・なぜ・・・何が起こったというのだ!!!!」
魔女の霊魂からは怒号ばかりが響き渡る。
「ママに言ってないことがあったのよ?」
桃も霊魂のまま魔女に近づく。
「私ね・・・静電気を魂と体に帯びさせて「反発」させてたけど・・・実は・・・逆もできるんだよ!キャハッ!」
「なんだ・・・って!?」
魔女は自分の娘の力さえも把握しきれていなかった。
「イジェクト・ソウルの後にね、体の電子の向きだけを逆にして「吸着」させれるんだ!」
「吸着・・・だって!?」
初めて聞くワードに魔女は驚愕する。
「さっき、町全体にソウル・リッパーをする少し前、鎌が町を通過する数秒前に電子の向きをクルッって回したの。2・3秒ですべての魂が元の状態に戻ったわ!だから、死神の鎌は何一つ切っていないのよ!キャハハ!!!」
「それで・・・ソウル・リッパーが効かなかったのか!!!くそ!!!くそぉ!!!」
「私の勝ち。私って、最高でしょ?ママ!」
桃は勝ち誇った顔をした。
魔女も憤怒するも肉体がない今は何もできない。
「・・・なんでそんな大事な事を黙っていたんだ!?」
「だって?聞かれなかったもの。」
悪びれた様子もなく、桃はしれっと答えた。
「ぐ・・・くそ・・・・最悪だ・・・。あんたなんて・・・最悪の娘よ!!!」
「最悪で結構!」
そう言われてももう桃は傷つかない。
「・・・死神!!!早く!!皆既日食が終わる前に・・・ママを!!!!」
「ママだけで・・・いいんだな!?」
体に戻った死神は赤い鎌を手に出す。
その顔にはこれまで以上にギザギザの歯が見えた。
「・・・うん!!」
桃は眉を顰めながら頷いた。
「やめろ!!!やめろおおおおおおお!!!!!」
魔女は慌てて叫ぶが死神の鎌は赤く光る。
「スピリット・・・りっぱあああああああ!!!!!!」
赤い一閃が魔女の体と霊魂の間にある線をぶった切った。
魔女の魂が徐々に皆既日食の薄暗い昼に浮かんでいく。
「ちくしょう!!!こんなところで・・・こんな所で終わりたくない!!」
魔女はそれでもなお叫び続けた。
「桃!もも、お願い!死神を助けたように私も助けて!!」
魔女は浮遊しながら泣き叫ぶ。
「嫌よ。ママは私を散々利用した。人を沢山殺めるのに私を使った。絶対にイヤ!!」
桃は頑なに断った。
「でも!それだけじゃ無い筈よ!?一緒に服を買ったり、ご飯たべたり。私達は家族だった!!」
桃はママと自分に繋がった首輪の紐を見て寂しそうな顔をした。
「それでも!嫌。もう、ママなんか大っ嫌いよ!!」
桃が泣き叫ぶ。
「そう、なのね。」
魔女は静かに涙を流した。
「桃。私は貴女を世界で一番にしたかった。最初は本当にそれだけだったのに。」
最早魔女の顔はこちらから見ることさえ出来ないほど上空へ飛んでいく。
桃もそれを泣きながら見守った。
「どこで間違えたのかしら。こんなママでごめんね、桃。」
魔女は本当のお母さんのようにそう言ったのだ。
その言葉を聞いて桃は涙が溢れて止まらなくなった。
本当に桃はママが大好きだったから。
「う、うわぁぁぁぁん!!」
桃の目から止め処なく涙が流れた。
その様子を見てお人好し代表が一歩歩みを進めた。
「本当にこれで良いの?」
心琴が桃の目の前に立った。
「え?」
心琴の言葉に桃は目を見開いた。
「あの言葉を最後にしたら、きっと貴女は後悔するんじゃありませんか?」
朱夏も、桃の前に立った。
「てめぇら、何を言ってるんだぁ!?」
死神には心琴と朱夏の言っている意味が分からない。
「生きて、罪を償うって方法だってあるんだよ?」
海馬も、そして・・・
「死んじまったら二度と会えねぇ。今ならまだギリギリ間に合うんじゃねぇか?」
鷲一も2人に倣う。
4人は桃の目をしっかりと見つめた。
桃にも4人の言っている意味を理解する。
「皆んな。そうだね!私、ママともう少しだけ話をしてみる。」
皆んなの目を見て、桃は頷いた。
「インサート・ソウル!!」
「はぁぁぁぁぁ!!」
桃の目が桃色に光る。
徐々に月から太陽の光が漏れてくる。
「ヤバイ!日食が終わったら私の能力じゃ魂が捕えられなくなる!」
桃の体力は限界を越している。
「桃!桃!?良いのよ、私はこのまま、死んだ方が良い人間なの!これ以上力を使ったら貴女が危ない!」
それでも桃は力の限り能力を使う。
徐々に光が差し込む。
「ちゃんと!!ちゃんと話をしようママ!!私、やっぱり・・・ママが好きなの!!」
桃は泣き叫んだ。
「桃・・・ありがとう。」
魔女は本当に穏やかな顔で桃に微笑みかけた、
「貴女は、私の最高の娘よ。」
「ママ!ママ!!」
魔女の姿が薄くなり桃のインサート・ソウルでは引っ張る力が弱くなっていく。
「もう少しなのに!!」
あと少しで手が届きそうな所で、魔女の魂が再び浮遊を始める。
「う・・・うわぁぁぁぁん!!ママ・・・・ごめん!私がもう少し・・・早く決断してれば・・・!!」
その様子を見ていた黒と白の男が前へ出た。
「仕方ねぇなぁ!!」
死神がありったけの力を足に込める。
「生き返すこと・・・絶対後悔するなよぉ!?」
死神はありったけの力で空高くジャンプした。
その高さは常人のそれではない。
軽く二階建ての建物を越えて手を伸ばす。
「と・・・とどけええええ!!!!!!!」
「死神!?あんたまで!?」
魔女は死神の協力に驚きを隠せない。
「いいから手を出せえええええええ!!!!!」
魔女は死神に向かって手を伸ばす。
「死神!!!いっけええええ!!!!!!」
みんなが叫んだ。
そしてついに魔女の手をガッと掴んだ。
お日様の光が徐々に漏れ出す。
「いくぜえええええ!!!!!」
空中から死神は地面の魔女の体へ魂を投げつけた。
「うわああああああああ!!!!」
断末魔よりもひどい魔女の叫びが聞こえる。
魂が消えかけたその時・・・魔女の魂は魔女の中へと入っていった。
そして・・・月の陰から太陽の光があふれ出る。
「ガハッ!!」
魔女は飛び起きた。
「ママ!!」
桃も体に戻ってきた。
桃はヨタヨタと魔女に寄って行く。
魔女ももう、先ほどまでの異常者のような雰囲気は一切ない。
「桃、桃、本当にごめんね。」
魔女は泣いて桃に謝った。
「うぅん。私こそ、ごめんなさい!本当はママの事大好きなのに。」
本当の親子でない2人は本当の親子のように抱き合った。
「まぶしい!!お日様だ!」
心琴が元気よく言う。
草原の草木が緑に輝いた。
「・・・や・・・やったね・・・。」
海馬も一息ついて腰を下ろす。
心地よい風が吹いてくる。
「皆・・・みんな生きてる!!!」
エリが生き延びたことを実感して大きな瞳に涙をためて笑った。
「あんたにも、悪い事をしたね、死神。」
「チッ。そう思うならサッサと首輪を外しやがれ。」
死神は悪態を突いた。
「あぁ。全くだね。」
素直に魔女がパチンと指を鳴らす。
死神と杏を拘束していた物が地面に転がって灰と貸した。
「やった!やったね、お兄ちゃん!!」
杏が死神に抱きつく。
「あぁ。」
死神も穏やかな笑みを浮かべて妹に笑いかけた。
連覇と五芒星レッドを繋いでた鎖も、そして魔女と桃を繋いでいた首輪も転がって灰になり、心地よい風に吹かれて消えていった。
「終わったね。」
朱夏が海馬の側に寄る。
「うん。本当、朱夏ちゃんが無事で良かった。」
海馬も朱夏に微笑みかけた。
「・・・ありがとう、海馬君。」
「え?」
思わず、聞き返す。
普段は自分を「お兄ちゃん」と呼んでいた筈の「妹のような存在」はいつの間にか一人の素敵な女性に成長していたらしい。
「それは・・・僕もその気になっても良いって事かな?」
意地の悪い笑みを浮かべて朱夏を見る。
髪が風に揺れ、綺麗に光る。
「ふふっ。それはどうでしょう?」
唇に指を当てイタズラ に笑う朱夏はさながら妖精のようだと海馬は思うのだった。




