第24章 死へのカウントダウン
「思った以上に・・・魔女の能力はしょぼいぞ!!!」
海馬はみんなに向かってそういった。
その一言はさらに魔女を激高させる。
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!貴様らああああああああああああ!!!」
魔女の咆哮があたりに響き渡る。
「許さないよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
あまりの迫力に皆が一瞬動けなかった。
空気がびりびりと振動している。
魔女の目が茶色の光で溢れた。
「全員に首輪をつけてやる!!!!!」
魔女の手から大量の首輪が出てきた。
「や・・・やっべぇ!!!!」
凄い量の首輪に鷲一がビビる。
「あれ・・・物理、すり抜ける・・・」
エリもこのヤバさをひしひしと感じている。
「投げられたら終わりです!!」
朱夏が叫んだ。
「みんな・・・逃げるんだ!!!!」
海馬の号令と共に5人と死神は走り出した。
鷲一はおかしくなった心琴をちらっと見る。
心琴は何も言わずににやにやしながら一緒について来ている。
その表情は明らかに心琴の物ではない。
(一体・・・一体どうしちまったんだよ、心琴!!!)
心配で仕方がないが、今だけはどうすることもできずに地下を走り去ろうと全力を尽くす。
しかし、タイミングの悪いことに逆に入口の方から走ってくる足音が聞こえた。
鉄の扉が開く。
「お兄ちゃんここにいるんでしょ!?見てみて!!首輪が取れたの!!!!」
扉を開けたのは死神の妹の杏と・・・
「あ!!みんな!!!やっと見つけた!!!」
連覇だった。
「こっちに来るなああああああああ!!!!!」
杏を見るなり、死神は叫んだが遅かった。
魔女が真っ先に首輪を投げつけたのは・・・杏だった。
「え!?」
ガコン・・・
杏は自分に何があったか一瞬わからなくなる。
「うそ・・・!?」
あまりに一瞬のことでみんなが絶句した。
「なんで出てきたんだよばかやろぉ!!!!」
杏についた首輪の光はは瞬く間に死神にもつながった。
そして、魔女は杏にすぐさま命令を下した。
「杏。死神にも首輪を付けなさい。」
「え・・・!?そんな!?」
杏が戸惑うとすぐさま死神の首が絞まる。
「あぐっ!!ガッ!!」
「お兄ちゃん!!!!」
「死神が首輪を一つ持っているはずよ。ポケットを見て見なさい。」
それを聞いて杏は慌てて苦しむ兄のポケットから首輪を奪う。
「だ・・・めだ・・・杏・・・っ!!」
死神の願いは空しく、杏は首輪を差し出した。
「ごめん・・・お兄ちゃん!!!」
ガコン
こうして、首輪からの解放はたったの数分で幕を閉じる。
「おい、死神。」
魔女は嫌らしい笑みを浮かべて笑っている。
「逃げられると・・・思うなよ?はぁん??」
「・・・くそが・・・。」
一瞬見えた勝機を無駄にして、死神は膝から崩れ落ちた。
「おにいちゃん、ごめん!本当にごめん!!!!」
杏は泣きながら謝るが、起こったことは二度と巻き返せない。
その様子に満足した魔女は次のターゲットを見定めた。
「・・・エリ、あんただね。」
「!!!」
エリは身をこわばらせた。
「させるかよ!!」
海馬は魔女にとびかかろうとする。
「死神、こいつを投げ飛ばせ。」
「・・・。」
命令された死神は一瞬で間を詰めてくる。
とても悲しそうな顔を海馬はしっかりと見てしまった。
「わりぃ・・・。」
「!!!」
ボソッとそういうと、海馬の首根っこがつかまれて壁の端まで投げ飛ばされた。
「ガハッ!!!!」
背中を強く打ち付け肺の空気が全部吐き出された。
あっけなく崩れ落ちる。
「海馬!!」
エリは駆け寄ろうとしたが魔女が立ちふさがる。
けれども、その魔女に今度は鷲一が後ろから腕にしがみついた。
「朱夏!!心琴!!エリ逃げろ!!!」
「うん!!!!」
3人は入り口に向かって走る。
心琴も後ろからついていく。
「お姉ちゃんたち!!こっちだよ!」
連覇が手招きしている。
「死神!!この後ろにくっついてるやつも吹っ飛ばせ!!」
鬼の形相の魔女は死神にさらに命令する。
「チッ・・・」
「ヤベッ!!」
鷲一も死神の馬鹿力には敵わない。
「うっ・・・うわああああ!!」
魔女から引きはがされて吹っ飛ばされてしまった。
ドスンという鈍い音が響き渡った。
「逃げろ!!!少しでも遠くへ!!!!」
鷲一は力の限り叫んだ。
4人は鉄の扉を抜け、外へ向かって駆け出した。
エリ、朱夏、連覇、そして何もしゃべらない心琴はコンクリートの建物の外へと飛び出たのだった。
◇◇
逃げる4人は道に向かって全力で走っていた。
その時・・・草原を走っている間エリは既視感を感じた。
「・・・あああ・・!!!」
これは、最近毎晩見る悪夢とそっくりだった。
太陽がかけ始める時間。
カウントダウンが始まってしまったのだ。
あと30分で全滅する。
エリは立ち止まった。
「まずい・・・まずいよ!!!これ、悪夢、一緒!!!!」
その一言に皆が立ち止まった。
「な・・・なんですって!?」
悪夢と同じということは、皆既日食の時に皆が死ぬ未来を突き進んでいるという事だった。
「ど・・・どうしましょう!?」
朱夏は焦って回答を探すも、頭が真っ白で何も思いつかなかった。
「このままだと、生き残るの、連覇と私だけ・・・。」
「そんな!!」
連覇もエリを見るが打開策が何一つわからない。
すると、急に心琴がしゃべり始める。
その笑みは無論心琴のそれじゃない。
「なぁ、D-15?」
嫌らしい、このねっとりとした言い方にエリは覚えがあった。
「・・・え・・・・。」
その一言に皆は戦慄した。
「・・・ま・・・まさか・・・。」
「心琴ちゃん・・・?ねぇ!?心琴ちゃん!?」
朱夏は一生懸命に名前を呼んだが、心琴は何も反応しない。
そして、心琴ではない、アイツが嫌らしい笑みを浮かべる。
「まぁ。まて。慌てるなよ。D-15。」
「お・・・おまえ・・・やっぱり・・・。」
エリは目をこわばらせて心琴を見る。
「向井・・・和弘・・・。」
「・・・鷲一さんの叔父・・・?」
その名前を聞いて心琴はひしゃげた笑顔をこぼす。
「ご名答。」
「こんなの・・・こんなの夢と違う!!最悪だ・・・!!」
エリは取り乱して頭をかきむしった。
「え・・・?ってことは・・・むしろ良いのかもしれませんよ?」
冷静に朱夏にそういい返され、エリは頭をかきむしるのをやめた。
「ほほぉ。そこのお嬢さんの方が賢い。」
褒められても何も嬉しくになさそうに朱夏は心琴を睨む。
「朱夏?どうして?」
エリが説明を求めた。
「つまり・・・。夢とは違う未来が・・・待っているという事です。」
「なるほど!!!」
連覇がいい笑顔になった。
「みんな死なないかもしれないって事でしょ!この人助けてくれるんじゃない?」
連覇はこの叔父の怖さが解っていない。
「そんな・・・そんな・・・人間、違う!この人・・・狂ってる!!」
エリの力を悪用して幾多の殺人を起こしているのをエリはよく知っている。
「まぁ、まぁ、D-15。喋れるようになったら五月蠅いねぇ。せっかく僕ちゃんが助けてあげようとしてるのにさぁ?」
「何が目的だ!!!」
エリは怒り狂っている。
朱夏はそんなエリの正面に立って目を見た。
「エリ、落ち着つきましょう?ちょっとだけ話を聞きます。それで怪しい行動でしたら無視しましょう?・・・今は時間が惜しいですから。」
「・・・わかった。」
エリは朱夏の言う事をしぶしぶ受け入れた。
「・・・そこのお嬢さん・・・いいねぇ。僕ちゃんのコレクションに加えたいくらいだ・・・。」
「おだまりなさい。」
ゴミでも見るような目で朱夏は言い放つ。
「うふふ・・・。まぁいい。本題だ。」
心琴の体をつかった叔父はその場に胡坐をかいた。
「D-15。このまま走ればみんなが死ぬんだよねぇ?」
「・・・うん。このまま走る、桃と死神来て、日食おこる。死神の鎌、大きくなって、皆んな殺される。」
夢の内容をエリはしっかりと覚えている。
「じゃぁさ。未来を変えたいならさどうしたらいい?」
「それが解らないから・・・困っている。」
エリは真剣に考えるが、全く思いつかないのだ。
すると、叔父はニヤニヤと笑ってこう言った。
「・・・ぼくちゃんなら・・・死ぬ、の反対へ急ぐけどねぇ。」
「・・・?」
「どういう・・・ことでしょう?」
「解んない・・・。」
3人は顔を見合わせるが、誰一人として理解できない。
「未来をひっくり返す。真逆の事をしてみるといいよぉ。行ったら死ぬ。なら引き返すんだなぁ?」
「あ・・・なるほど・・・。」
「このままでは変わらない未来を少しでも変えるための手段・・・。」
叔父は幾度となくエリの夢を利用している男だ。
逆に言うとこの男ほど未来の変え方に詳しい人間はいないのだ。
「ちょっと待つ!なんで・・・?そんな事言うんだ!?」
あまりに普通の回答にエリは疑念を抱く。
すると、意外なことに叔父は優しく笑っている。
今まで見たことのない穏やかな表情。
それは、鷲一のお父さんにそっくりだった。
「ぼくちゃん、あと少しで成仏しなきゃいけないからさぁ。最後のあがき?」
「成仏・・・そっか・・・お前、死んだ。」
エリはそっとつぶやく。
「S-02がエリを狙ってるのを死神に首を切られてここに連れて来られて知ったんだ。」
「霊魂を・・・切り取る死神の能力・・・。」
以前、海馬と鷲一が夜の病院で見た、叔父の最期。
「ここは霊魂を研究する施設。元から霊魂が留まりやすい場所なのさ。ぼくちゃんが残留思念となってこの地に留まっていられたのはここの地形のおかげだねぇ。」
「・・・。」
3人は黙って話を聞いた。
「何もできなくなると・・・心残りがどうしても成仏の邪魔になる。」
叔父は遠い目をする。
「・・・最後にどうしても・・・どうしても鷲一の顔が見たくてねぇ。」
とても寂しい目だった。
「でも、それが叶ったんだ・・・。心琴ちゃんを助けにここに鷲一が来たからね。」
「そう・・・だったんですね。」
寂しい声に朱夏も少しだけ同情した。
「心残りが亡くなっていざ成仏しようかと思ったところだったのに・・・殺されそうになっている。それで、心琴ちゃんの体を借りたのさ。」
心琴の体から少しずつ力が抜けていく。
「僕にできる事なんて・・・これくらいだからね・・・。」
だんだん心琴の体から黒いものが消えていく。
「じゃぁ・・・ね。鷲一に宜しく・・・。」
叔父は最後にやさしく笑ったようだった。
「そして・・ごめんね・・・D-15・・。」
「え・・・?いま・・・ごめんって・・・!?」
エリは叔父に手を伸ばそうとしたが、黒いものはもうすでにそこには居なくなっていた。
何も掴めなかった手のひらを2、3回ひらひらとさせてみる。
「・・・な・・なんで・・・。いまさら・・・。そんなこと言って・・・」
エリは眉をひそめた。
「ずるいよ・・・。」
連覇がそっとエリの手を掴んだ。
「・・・行こう?」
「・・・うん。」
エリは涙で潤んだ眼を腕でこする。
「あいつ、・・・言ってた。・・・真逆の事する!!」
その目には決意があふれていた。
完全に力が抜けきった心琴は地面に頭から倒れた。
「い・・・いったーい!!!」
「あ!!心琴ちゃん!?大丈夫ですか!?」
慌てて朱夏が駆け寄る。
「今のは・・・一体・・・なんだったのでしょう?」
「え!?何?!あれ?外にいる!!」
心琴は状況が呑み込めない。
「心琴さんは、さっきの事・・・覚えてないですか?」
朱夏は目を丸くして聞くが心琴は首を傾げた。
「な・・・何!?私、何かしてたの!?」
「あー・・・いいえ!覚えてないなら知らないほうがいいこともあります!!」
朱夏は気を使ったつもりでそう言った。
「え!?!?ちょっと!?!?朱夏ちゃん!?」
心琴は自分が何をしたかわからずじまいで慌てる。
「お姉ちゃん達!こうしちゃいられないよ!!すぐに地下に戻ろうよ!!!」
連覇が二人を急かした。
「えええ!?戻るの!?!?!地下に!?」
状況を飲み込めないままに手を引かれ走り出す。
「うん!!あいつ、言った。死ぬの反対へ・・・行かなきゃ!!!」
「あいつ!?って誰!?」
1人会話に置き去りにされる心琴。
「このまま走っても殺されるだけの未来。それなら真逆の事をしようって事になったんです。」
完結に朱夏が取りまとめる。
「えええええ?!しょ、しょうがないなぁ!!!」
納得するしか道がないのを悟って心琴は腹をくくった。
こうして、朱夏も心琴も連覇もエリもさっき来た道を慌てて戻っていった。
日食まであと20分。
徐々に暗くなる景色に、光はまだ見えない。




